第8話-偽母-
私は双子の姉だ。鶴野家に生まれた私と妹は、いつの間にか二人すれ違っていた。育てた花が夜に咲いた時、二人声を上げてはしゃいだ。それは、次の日の朝には折られた花が散っていました。その犯人、お母様です。母は私たち双子のことを嫌っていました。心優しかったあの頃は、心を支配された母からすると同じ顔の娘たちを気持ち悪がっていました。あの朝に、絵梨花がものすごく悲しんでいたことを私は忘れてなどいません。私たち二人が変わってしまったのは、きっとあの日の私から始まったのでしょう。あの夜の記憶。それは忘れてもいけない汚れた記憶だ。二人変わったのは私たちが八歳となった時であった。とても辛く悲しい出来事からだ。母に好かれようと努力した私が最終的に辿り着いた先とは、人を殺めれば母は喜ぶと。鶴野家。それは人を何百人と殺めてきた極悪人だ。そんな鶴野家が警察に捕まらないのは全て金で解決しているからだ。結局はこの世界は金が全てなのだ。始めて人を殺める、手を汚す仕事をやった時母は泣いて喜んだ。私は褒められるという快感を覚えた。絵梨花はそれと正反対に人を殺めるという行動をすることはなかった。そんな絵梨花をみた母は私に言った。
「あなたは絵梨花とは違うの。あなたは優秀。あの子は決壊品よ。それに、あなただけでも生きててくれればお母さんは殺されない。」
その姿はまるで思うがままへとなったようだ。私は母に利用されていると分かっていた。だが、子が親離れできないのと同じで私もそれができなかった。自分が褒められるためならどれだけでも人を殺める。自分が褒められるためなら妹でさえ切り捨てる。その選択肢が間違えだと言うことは分かっていたが知らぬふりをした。私は実の妹を切り捨て、人を殺め続けた。そんな私はいつの間にか母のように鶴野家に心を支配されていた。母はあれから私を褒めるようにとなった。それは褒めれば人を殺める。そう推測したからであろう。私はそれでもよかった。例え犬と同じ扱いをされようと。それに私は現在母に褒めてもらうことなどどうでもよかった。私の狙いは次の鶴野家の当主となることを。母の座っている玉座に私が座ることを夢見て。そのためには私が絵梨花よりも先に子供、後継を産まなければいけなかった。だが、それが叶わないと知ったのは二十歳の頃であった。子供が産める体かを調べに病院に行った際、私の体では子供が産めないことを知った。それと正反対に絵梨花は子供を産める体であったのだ。なぜ私が産めないのか。私はそれを憎んだ。だが、今までの殺害してきた人数が多かったことから、絵梨花が産む子供は私のものとなることを。当たり前だが、絵梨花はそれを拒否した。だがそんなこと母に通用するわけもなく、絵梨花の子供は私のものとなった。母は考えた。夜だけは絵梨花が母となることを。それは優しさではなかった。触れられない。ただ見ることだけ。その屈辱を味合わせるためだった。そうとも知らずに泣きながら感謝を伝える絵梨花はものすごく醜かった。いや、醜いはずだ。絵梨花はひとつも醜く見えなかった。逆に言えば、私の方が醜く見えたのだ。絵梨花の瞳。きっと頭の良い絵梨花なら分かっていたはずだ。母の思惑を。そうとも構わず泣く絵梨花が本当の母なのだと分かった。そして無事妊娠した絵梨花は子供を産んだ。しかし、その子供は鶴野家の顔を受け継いでいなかった。それを私はひどく罵倒し殺そうとした。いつもと同じようにするだけ。そう思っていたのだ。その前にまず、鶴野家では受け継いでいない子供以外は処理すると言う規則があった。だから、私が例え今殺そうとその仕事を先にしただけ、と終わっていた。そうなるはずだった。だが、母に泣きつく絵梨花を母は許した。そして殺さないことを誓約書にサインしたのだ。私は理解できなかった。いつから母は変わったのか。それがわからなかった。母は絵梨花のことを嫌いなはず、なのになぜ助けたのか。もしかして私はもう不要なのか。頭から次から次へとよぎること。それは私の存在だ。もう不要。その言葉が恐ろしかったからだ。だから私は子供と絵梨花の二人を殺害することを考えた。だが、そううまく行くはずもなく殺害することは叶わなかった。私はそれから憎しみを隠せなくなった。絵梨花に会う度嫌がらせをしたり、殴ったりと容赦なく体も心もボロボロにしてやった。それなのに絵梨花は逃げなかった。そして第二子が産まれた。その子供は運が良く顔を受け継いでいた。その子供のことは見て見ぬ振りをした。なぜなら私の次の当主となるからだ。これで私は不要ではない。その姿はまるで、初めて人を殺めた時母が私に言った時のようだ。私は鶴野家でも立場が上となった。私は喜んでいた。だが、その幸せも長くは続かなかった。出来損ないの長女が昼間知らない家族と遊んでいると言うことを。それは正直どうでもよかった。ただ都合が悪かったのは、鶴野家のことを話されたら面倒であったからだ。やはりこいつは出来損ないだ。そして私は相手の家族の子供を車で轢き殺してやった。それはよかった。だが、家に帰ると鶴野家の顔を持つガキを腕で抱きしめた絵梨花が立っていた。私の足元には長女の死体がある。私はそれを跨ぎナイフを持ちながら絵梨花に近づく。絵梨花は大切な後継を背後に置くと瓶の破片を持ち私を見た。そっか。やる気なのだな。小さい頃から受けていたナイフの使い方、それを絵梨花は受けていなかった。戦い。それ以上に武器を嫌っていたからだ。絵梨花が愛していたものはただ一つ、優しさであったからだ。それを理解できない私はまた首を傾げる。それから考えることを諦めた私は絵梨花を殺そうと思った。例えお前を殺したところで背後にいる娘が生きていればどうでもよかった。全てを終わりにしよう。全てをやめよう。そう思ったのだ。そして私が絵梨花に近づくたびに記憶が蘇る。
「二人で耐えよ」
その言葉を絵梨花は知らない。寝ている間に呟いたことであるから。私が姉じゃなければこの子は幸せになっていたかもしれない。私が姉じゃなければ他の姉と逃げ切れていたのかもしれない。私の瞳は涙でぼやける。そして涙が流れ落ち、視界がしっかり見えるようにもなった時には絵梨花の前へと私は立っていたのだ。この子は殺せない。そしてナイフが落ちる。この子の瞳は母親だもの。例え子供を思うがままに操れたとしても本物母親にはなれないと言うことを。そこから記憶はない。次の記憶といえば、鶴野家の後継が十七歳となった時だ。その頃には中身までもが支配された私は何かしら理由を付けてを上げるようにとなった。だが、その頃から私の心も徐々に変わりかけていた。それは、母が私をものだとしか思っていないこと。昔の私ならばそれをなんとも思わずにいただろう。だが、今の私は昔とは違う。幸せ。それが何かと知る日は来るのか。愛されたことのない私と絵梨花はどうなるのか。それから数日後。後継が逃げた。絵梨花はその場にいたと言うのに見逃した。私はそれが許せなかった。だから、私が追いかけた。あの子を捕まえなきゃ行けない。だが、街で見たあの子の瞳は輝いていた。その瞳は世界をしったかのように。私の足は自分の意志でないのに動かない。動け動け。動かない。私は何を見せられているのか、そう思っているうちに帰ることとした。なぜか帰る時は足が動く。背後を向き行こうとしたらすぐに動かなくなると言うのに。私は少し後悔をしていた。なぜこの子に手をあげてしまったのか。その前を遡ると言うのならば、なぜ私は絵梨花を置いていったのか。絵梨花の名前のエリカの花言葉のようにしたくないと心に決めていたのに。あの子を守ろうと幼い頃に考えていたのに。どこで道を踏み外したのか。絵梨花は自分の努力で道を切り開いている。だけど、私は近道をしてしまった。努力ではなく、誰かの力で私は上がったのだ。それが正解と言うものもいるかもしれない。だが、私の中ではダメなことだと今さら思っても遅い。過去には戻れない。どれだけ手を差し伸べてもそこに光はない。私は一人暗闇にいるのだ。一人、いや絵梨花もだ。絵梨花は私よりも遥か先に一人暗闇にいたのだ。なぜ手を差し伸ばしてあげなかったのか。絵梨花のないもない暗闇に私なら光を差し込ませてあげれた。もう光を差し込ませる隙間などないかもしれないけど、私はやる。
「次こそ二人で幸せへとなる」
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