第2話-居場所-

 男性は目覚めた?と言うと私に水を一杯渡してきた。私はその水を受け取ったが、ただ手の中にしまうだけだ。私は少し焦っている。なぜなら男性はきっと体の傷を見たからだ。私の痣や傷には丁寧に薬と絆創膏が貼られているのは男性がやってくれたのだと。私は男性の目を見れない。どんな目をしているのかが見なくてもわかるからだ。唾を飲み込むと共に男性は喋り始めた。


 「あれから二日間起きなくて心配したよ。その体に貼ってある絆創膏とかは、警察署の方々が後からうちに来て女の看護師さんがやっていった。だから、安心しろ。ところであんた名前は?俺は如月椿だ。」


 椿さんは今日までの二日間のことを丁寧に説明してくれた。警察署の方々が椿さんの家を訪れて私の体の治療をしたらしい。私は自分の頭の中で全てを片付けていたため、少し信じがたい真実もあった。聞いていると、あの日出会ったおじさんは話の途中に、嫁に捨てられた。と言っていたが、あれは違うらしい。正式には、嫁はこの世をさった。と言うことらしい。あの日おじさんは私とぶつからなければきっとこの世をさっていただろうと、警察署の方々は話していたらしい。おじさんのお嫁さんが亡くなったのは、実の娘が信号無視をした車に轢かれたことにより亡くなったからだ。娘が消えた。その現在を受け止められなかった結果がそうだと言う。おじさんは娘と妻。同時に大切な人がこの世にいなくなり、もう限界を迎えていた。そんな時、酔っ払いながら街を歩いていると私にぶつかった。おじさんは謝ろうと私の顔を見たのだが、私の顔は娘を轢いた犯人ととても似ていたため、怒りが込み上げてきた。そのまま違うとわかっているのだが目の前にいる少女、私を蹴り続けるおじさん。だが、おじさんは私に言われた言葉により最終的には人生をまだ歩むと決意した。きちんと罰は受ける。そう決めたと言っていたらしい。おじさんの娘を轢いた犯人は未だに捕まってはおらず、この世界のどこかに潜んでいる。私は怒りと共に涙が流れてきた。おじさんは私と同じだ。一人で抱え込みすぎたのだ。


 「私は、鶴野彩芽です。いろいろと話していただきありがとうございました。それに私を助けて下さりありがとうございました。私、役に立てたのですかね。結局は椿さんがいなければダメだっただろうし。それよりも、私迷惑だと思うので出ていきますね。この二日間お世話になりました。」


 私はそう言うと鞄を持ちベッドから立ち上がった。そして玄関へと向かうと靴を履き紐を結び始めた。そして両足の靴紐を縛り終わると私は立ち上がった。そしてお辞儀をして出て行こうとした瞬間。椿さんは言った。


 「行くとこあんの?ないならうちに居れよ。」


 私は何も言えなかった。これ以上借りを作るわけにはいかない。だって、いつかその人が問題に絡まれたりしたら、借りを返せなど言って私を犯罪者に仕立て上げる。そんなものだろ。うまく利用して使えなくなったらゴミ場に人形を捨てるかのように置いていく。私はその経験を何度もしてきた。


 「あなたは。あなたは私のことを裏切りませんか?」


 一年前。私の暗い世界に小さな明かりが灯った。学校内で虐めを受けている私のことを助けてくれた、友達になってくれた子がいました。その子の名前は藤野浅見ちゃんだ。とても優しくて、いつも私のことを気にかけてくれていました。仲良くなって三ヶ月ほど経った頃、朝いつも通りに登校した私は辛くとても痛い視線が刺さってきました。その原因がなんなのかは分からず、ただ廊下を歩く私を周囲の人々はヒソヒソと陰口を言いながら見ていた。私は駆け足で教室まで行き、中に入った途端クラスメイト達は私の顔を一斉に見た。私は何が起こっているのかが分からず、足が震えていた。そして視線の次に私の視線に入ってきたのは、浅見ちゃんが泣いていたと言うこと。私は急いで浅見ちゃんの元へと駆け寄りますが、囲んでいた女子は言いました。


 「あんた浅見のこと虐めたんだって?誰にやってんのか分かってんのかよ。いい気になんなよなぁおい。聞いてんのか?」


 それを言ったのは学校の中心人物と言っても過言ではない女子だった。私は罵声をいくつもいくつも被せられるがよく聞こえない。私が浅見ちゃんを虐めてた?それは違う。私は何もしていない。これはきっと何かの間違えだ。だから私は浅見ちゃんに確認した。だが、返ってきた返事は私が思っていた言葉より遥かに上を上回ったのだ。


 「来ないで!また、私のこといじめる気でしょ。もうやめてよ!私もう疲れちゃったよ。彩芽ちゃんと私、友達になった覚えないよ?昨日急に呼び出して私にいろいろ言ってきたじゃん!私彩芽ちゃん怖いよ。」


 私達は今まで何をしていたのだろう。私たちは今まで何のために一緒に居たんだろう。悲しい。だけど涙が出ない。何でだろ。涙は出ないのになぜから笑っちゃう。笑いが止まらない。なんでだろ。止まれ、止まれ、止まれ!。クラスは私の笑い声が響き渡る。ずっとずっと自分の笑い声だけが聞こえてくる。廊下も静かとなり、私の笑い声がどこまでも響き渡る。もうどうにでもなれ。私は気づいたのだ。私の心にはずっと満開に咲き誇っていると言うことを。私はそのまま笑い続けた。いつまでも続く笑い。私はこれをきっかけに、人をあまり信じないことにしていた。だから、椿さんからの返事が怖い。黙り込んでから唾を何度飲み込んだのか。周囲はとても静かで何も喋らない。その空気は何とも言えないほどに重かった。そして椿さんが口を開いたと思えば、とても大きな笑い声を出した。それと共に下の階の人から、うるさい!と大きな声で怒鳴られ、笑っていた。


 「俺は裏切らない。だから、ここに居るんだ。」


 そう言うと私に手を出してきた。信じていいのか正直分からない。だけど信じたいと思ってしまう。これが本当の道なのか。これが正解なのか何で誰にも分かりはしないことだ。だから、私は自分の感を信じることにした。例えこれが間違っている道なんだとしても、この道を正解の道へと変えてゆくことを。私は椿さんの手を取ると言った。


 「私はあなたを信じます。だから、あなたも私を信じてください。」


 私の目は椿さんを見つめ、何かを賭けているかのような目であった。そんな私の目を椿さんは見つめていた。そして一度目を閉じ、また開いたと同時に口を開いた。


 「これからよろしくね。彩芽」

 

 

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