第16話 勝因:普通にゲームをやった

              エル・イスブルク


 まったく、ルイもステッサもあてにならないんだから。やっぱり、自分の身は自分で守らないとダメね。たとえそれが王女であっても当然のことだわ。



「さて、『蒼き宝石』さま。今回はどのようなゲームをいたしましょうか」


「そうね。あたしも一通りゲームはたしなんだことがあるんだけど――」



 あたしはテーブルの上に並べられたダイスやカードを見回した。この中であたしが勝てそうなゲームといえば――



「これね。これで勝負しましょう」


「ほう。オセーロですか」



 オセーロ。それは白と黒の石を担当するプレイヤーが自分の石で相手の石を挟んで自分の石に変えるという条件のもとに、交互に石を打っていくゲームである。最終的にどちらの石が盤面に多く置かれるのかで勝敗が決まる。


 あたしはオセーロを何度かやったことがある。勝ったり負けたりしていたので絶対的な強さには自信がないが、それでも他のゲームをやるよりかは勝率が高いだろう。



「では、準備ができ次第さっそく始めましょう。覚悟はよろしいでしょうか?」


「問題ないわ。すぐに準備して」



 他の二人があてにならない以上、あたしがやるしかない。やってやろうじゃないの!




                ドレド


 まったく、私は策に溺れていたようだ。こんなやつら、はじめから悪魔のゲームで勝負していればよかったのだ。ルイという小僧は弱かった。『赤き鬼神』もたいしたことはなかった。きっとこの『蒼き宝石』も笑ってしまうほど弱いのだろうな。クククッ……。もうすぐでこの『蒼き宝石』を魔王さまへと献上できる。


 今度こそ勝ったな! これぞ頭脳的勝利!




             エル・イスブルク


「勝ったわ」


「そんなバカなぁぁぁぁっ!」



 オセーロの勝負はあたしの圧勝だった。盤面の八割はあたしの色である白い石で埋め尽くされている。誰がどう見てもあたしの勝ちね。



「お、お、お前、なぜそんなにも強い! まさか、実力を隠していたのか!?」


「えっ? いや、たぶんあなたが弱いだけじゃないかしら。ステッサとルイがあれだけ弱かったからわからなかったけど、あなたも十分弱いわよ?」


「そ、そんなはずは……」



 ドレドはあの虫唾が走るような丁寧な口調すらできなくなっていた。あたしとしてはこっちのほうがわかりやすくていいわね。敵にあんな口調で話しかけられたら鳥肌が立つわ。



「さあ、ドレド。勝負は私たちの勝ちだ。約束通り魔王の居場所を教えてもらおう」



 ステッサが両膝をついて愕然としているドレドを見下ろしながら剣の柄に手を置いていた。約束を反故にして襲い掛かってくるかもしれないと警戒しているのね。そのへんはさすがステッサだわ。



「うぐ、うぐぐぐぐ……」



 ドレドは幽鬼のような不気味さで立ち上がると、ゆっくりと両手を前に出した。やっぱりまともに約束を守るつもりはないの!? 魔族はどこまでいってもやっぱり魔族ね。そんなことを思っていると、ドレドは予想外の行動に出た。何もない空間にあの闇の渦を作り出したのだ。空間転移の渦。この渦はどこにつながっているというのか。



「ま、魔王さまのもとに行くには普通の方法では不可能だ。この渦の中を通っていくしかない」


「それを信用しろと?」


「信用しないならそれはそれでいい」



 ドレドはあきらめたようにうなだれている。とても罠を仕掛けているようには見えないけど、それすらも演技という可能性もあり得る。う~ん、判断がつかないわ。



「どういたしましょうか、姫さま」


「そうねぇ」



 そこであたしは一つ案を思いついた。どうせならこのドレドを案内人にして先行させてはどうかしら。もし罠なら真っ先にドレドが被害にあうはず。罠じゃないならそれはそれで問題ないわ。そのことをあたしが提案しようとした、そのときだった――



「この先に魔王さんがいるんですね。早速会いに行きましょう」


「あっ。おい、ルイ!」



 何とルイが真っ先に闇の渦の中に入ってしまったではないか。慌ててステッサもあとを追いかけてしまう。あたしは完全に置いていかれた形だ。



「ちょ、ちょっとルイ!? ステッサ!?」



 置いていかれてしまう不安もあって、あたしは二人のあとを追って闇の渦の中に身を投じた。空間が歪むようないやな感覚に襲われる。



「い、いやぁぁぁぁぁっ!」



 こうして、あたしたちは魔王のもとへと向かったのだった。

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