第三章(この章はゲーム未収録部分です)
第10話 順番は大事
ルイ
ボクたちはコハンの町を出て、ようやく本格的な魔王討伐へと旅立つことになった。父さんへの手紙は宿屋の主人が届けてくれるとのことだったので、ボクは安心して手渡すことができた。ステッサとエルが宿屋の主人をボコボコにしてたけど、それとこれとはきっと関係ないよね。
「そういえば、魔王さんはどこにいるんですか? ボク、魔王さんの居場所を知らないんですけど」
「うむ。それなのだが、私たちもはっきりとはわからないのだ」
「えっ? それはどういうことなの?」
「うむ。魔王は異空間を操ることができるらしい。つまり魔界とこの世界を行き来することができるということだ。私たちは普通の方法で魔王を発見することはできない」
異空間を操る魔王さん? すごいなぁ。まるで本物の魔王みたいだ。あ、もしかしてそういう設定なのかな。そうだよね。さすがに訓練でそんなすごい人が魔王役をするはずないもんね。でも、ここでそれを指摘するのも野暮ってもんだからボクもこの設定に乗っかることにしよう。
「じゃあ、どうやって魔王さんを見つけるつもりなの? 方法は何かないのかな」
「いや、ある。異空間を操ることができるのは魔王の他にもう一人いるのだ。そいつの名前はドレド。魔王軍一の智将と呼ばれている男だ。この世界にいる魔王軍は実質的にやつが指揮している。そのドレドさえ締め上げることができれば、魔王の居場所も簡単にわかるというわけだ」
「そのドレドさんの居場所はわかるの?」
「ああ。おそらくイスブルク王国の方角に向かえば噂ぐらい聞こえてくるだろう。なんたって、わがイスブルク王国を滅ぼした魔王軍はドレドが率いていたのだからな」
「なるほど」
そういう設定なのか。随分と凝った設定なんだなぁ。考えてみればエルも姫さま役になりきってるみたいだし、イスブルク王国っていうのは細かいところまで力を入れる国なのかもしれない。訓練が終わったら二人の国にも行ってみたいな。
「あの骸骨みたいな顔、今思い返してもむかつくわ。魔王の前にドレドもぎったんぎったんにしてやりましょう!」
エルがボクたちの話を聞いて気合を入れる。これも王国を滅ぼされた姫さまとしては満点の演技だろう。ちょっと勇ましすぎるような気もするけど、エルだったらこのくらいの姫さまが似合ってると思う。
「しかし問題もあります。ここから先は魔王軍が支配している領域なのです。モンスターも多くいるでしょうし、大手を振って街道を歩いていてはすぐに見つかってしまいます」
「じゃあ、どうするのよ」
「姫さまには悪いですが、山道を行きましょう。さすがの魔王軍でも山の中まで監視の目を光らせてはいないはずです。まあ、モンスターくらいはいるでしょうが、そこは私が何とかしますよ」
「さすがステッサね。頼りにしてるわよ」
「はっ」
う~ん。二人ともすごい。まるでプロのお芝居を見ているみたいだ。まったく違和感がないよ。とにかくドレドさんって人を探すために山道を通ってイスブルク王国に向かうんだね。よーし、ボクもがんばろうかな。っていっても、ボクができることはせいぜい荷物持ちくらいだけどね。
ステッサ・ザースター
ふむ。この山を越えさえすれば今は亡きイスブルク王国の領内に入るのだが、やはり道が入り組んでいて迷いやすいな。ここはひとつ注意しておかなければならないだろう。
「ルイ、姫さま。はぐれないようにしてくださいよ。ここではぐれたら合流するのは困難です」
「わかってるけど、ちょっと道が悪すぎるわよ。草木は生い茂ってるし、地面はでこぼこ。もう少しまともな道はなかったわけ?」
「我慢してください。他の道では魔王軍にあっという間に見つかってしまうのですから」
「そうよね。わかったわ。何とかがんばってみる」
「それでこそ姫さまです」
やはり姫さまは強いお方だ。王さまと王妃さまを亡くされたというのに悲しい顔ひとつなされない。きっと魔王を倒すまで自分を厳しく律しているのだろう。私も姫さまに倣って自分に厳しくならなければ。
「あ、そうだ!」
急にルイが声をあげた。何かあったのだろうか。
「道が迷いやすいなら、迷わないように手をつないで歩けばいいんじゃないかな」
「手をつなぐ? なるほど。確かにそれなら互いが互いの位置を確認し合っているので迷うことはないな。さすがルイだ」
「なんだか子供っぽいけど、ステッサがいいっていうならそれでいいわよ」
「ふむ。となると問題は――順番か」
この道は狭い。一列でしか前に進むことはできないだろう。モンスターが出ることを考えると、先頭は私かルイ。道を知ってることも合わせると私しかいないな。後方の警戒も重要だ。モンスターが後ろから襲ってくることもあり得る。ということは最後尾にはルイを置くことになるだろう。つまり、私、姫さま、ルイの順番になる。
いや、だが待て。本当にこれでいいのか? これでは私はルイと手をつなげないではないか。せっかく堂々と手をつなぐチャンスなのに、それを棒に振っていいものだろうか。
私は考える。考える。考える……。うむ、無理だな。私はルイと手をつなぎたい!
「ここは私、ルイ、姫さまの順番で進みましょう」
「なんであたしが最後尾なの!?」
姫さまは驚いたように抗議してきた。何がそんなに不服なのだろうか。姫さまだってルイと手を握れるのだからいいではないか。私には姫さまの不満の原因がわからない。
「普通、あたしを守るために真ん中に置くとかするでしょう? ステッサ、あたし、ルイの順番じゃダメなの?」
「ダメです!」
「おおう……。想像以上に力強く否定されたわ」
私の目は血走っていただろう。たとえ姫さまでも私とルイの絆は破壊できませんよ。本来なら姫さまにはルイの手を握らせたくないところですが、さすがにそれでは可哀そうなので泣く泣く許しているのです。それだけでも感謝してほしいものです。
「まあ、ステッサがそこまで言うならそれでいいわよ。何か考えがあるんでしょう?」
「もちろんあります」
ルイと手をつなぎたいという考えが!
「それならいいわ。じゃあ、そういうふうに隊列を組みなおしましょうか」
「はい」「わかりました」
こうして、私たちはルイの提案により手をつなぎながら山道を進むことになったのだった。
エル・イスブルク
あたしたちはステッサが言ったように隊列を組んで山道を進んだ。あたしはルイと手をつなぎながら最後尾を歩いている。ルイの手は小さくて、思ったよりも温かかった。奴隷商人の手なんて冷たいものだと思っていたけど、意外と人間味のある温かさじゃない。まあ、この程度じゃルイの評価が変わったりすることはないんだけどね。
っていうか、さっきから二人とも歩くの速くない? 手をつないでるから何とかついていけてるけど、ステッサったらなんでこんなにも速足で進んでるのよ。もっとあたしのことも考えなさいよね。
「ちょっとステッサ。もう少しゆっくりと歩いてくれないかしら」
「……」
「ステッサ?」
おかしい。この距離なら確実にあたしの声が聞こえているはずなのに、返事すらしない。何かステッサにあったのだろうか。
「ステッサ、どうした――の!?」
ステッサは急に走り出した。つられてルイも走り出す。あたしはというと、あまりのことにルイの手を放してしまった。まずい! このままだとおいていかれる。ここで迷子になったら致命的よ。何としてでも追いつかないと。
「ステッサ、ルイ、待って!」
しかし、王宮育ちのあたしに二人の走る速度に追いつくということができるはずがなかった。あっという間に二人の後姿が草木の中に消えていく。あたしは追いかけることをあきらめ、呆然と立ち尽くすのだった。
「……どうしよう」
ステッサ・ザースター
「ステッサ。どうしたの、ステッサ。エルがボクの手を放しちゃったよ。いったん止まろうよ」
私はルイの言葉も耳に入らない。何だ、これは胸がドキドキする。ただルイと手を握っただけだというのに、こうまで体が反応してしまうのか。まるで私の体ではないみたいだ。
「熱い、熱い、体が熱いぞぉぉぉぉぉ!」
私はいつの間にか走り出していた。この体の熱さを冷ますには動くしかない。このあふれるエネルギーを何かにして発散させなければならないのだ。
「ステッサ!? もしかして、モンスターに攻撃されたの? 毒で体が熱を持っちゃったとか!? ええっと、解毒作用のあるアイテムは――」
「うおぉぉぉおおおっ!」
私は走り続ける。もうルイと一緒ならどこまででも行けそうな気がした。これが、愛の力か……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます