バカにしてる


その日は京ちゃんとお昼をすませると職員室に立ち寄った。

悠君からは用事で行けないと聞いていたし、顧問にお使いを頼まれていたから、言われるまま体育館裏の倉庫へ向かった。



備品を取って一応体育館のなかをチェック。男の子たちがわいわいやってたから、もしかしたらいるかも、なんて期待して。



なかをそっと覗いてみたらほら、やっぱりいた。みんなと楽しそうにバスケをしてる悠君発見。遠くから眺めるのは久しぶりだった。



シャツの袖を肘の辺りまで上げて、ネクタイはゆるゆるで、前髪は邪魔なのかアップにしてる。



おでこ出すと雰囲気変わるんだよね。

それにしても美形全開。少女漫画の世界から飛び出してきたのかと思うほど。



キャラメル色のふわふわの髪はノーカラーだし、手足は長いし背は高いし、どんだけ容姿に恵まれてるんだろ。

くしゃくしゃの笑顔は小学生のときのまんまだけど。



「悠介行け! そこからせめろ!」


「行け! ワンハンドオーバースローシュートっ!!」



予鈴と同時に野球のピッチャーみたいにふざけて放った悠君のスリーポイントシュートが、みんなの予想を裏切ってスパンと決まった。



体育館中がどかんと沸いて、その中心で悠君は無邪気に笑ってる。

転がったボールをキャッチしたのは、悠君の友達の彼女さんだった。



体育館には特別な女子しか立ち入れない特等エリアみたいなのがあって、私もいつかあの場所で悠君がキャッキャしてるのをニヤニヤ眺めてみたいなぁってこっそり憧れてるんだ。



それにしても彼女さんたち……顔面偏差値が揃いも揃って高すぎる。右から可愛い可愛い可愛い可愛…………え?



美少女軍団のなかに、咲田さんがいた。

なんで?

悠君チームの? それか敵チームの誰かの彼女? そんなわけ、ないよね。



ゲームがお開きになると、何人かの男の子たちはそれぞれの彼女の元へ向かった。

預けてた物を受け取ったりうちわであおいでもらったりじゃれあったり。



すべてがうらやましい光景だったけれど、悠君がまっすぐに咲田さんのもとへ歩いていく姿は、私を奈落の底へ突き落とした。



そういえば悠君がうちに泊まったのは、心霊番組があったあの日だけ。



部活を終えてそのままいなくなる日もあったし、夕御飯を食べてから出ていってしまう日もあった。



でも目を覚ますといつも隣ですやすやと悠君は眠っていて、最初こそ、そのことにうろたえたけど、最近はそれが普通になっちゃってた。



いなくなる理由が気になる。

必ず戻ってくる理由も気になる。でも何も話してくれないし真実を問いただすのは怖い。



傷ついたり、この居心地のいい関係が壊れてしまうくらいなら、今のままでいいとさえ思ってしまう。



だけど、これはあんまりだよ。

あんなに好きだ好きだ言っといて持たせるだけ気を持たせておいて、私が目撃したってちっともおかしくない学校なんて場所で堂々と会ってるなんて。



今日は行けないってわざわざ知らせたりして、それってこんなふうに咲田さんと校内デートするためだったってことだよね?



私のことバカにしてる?

誰にでも好き好き言ってる?



悲しいなんてものを通り越して、もうバカバカしくなってきた。

悠君のこと好きだけど、大事だけど、なんかもう何を信用していいのか全然わからないよ。



だからもう、今夜はうちには帰らないって今決めた。

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