噛み合わないふたり


そしてその日、昼休みになるといつものように悠君がやって来た。やって来たんだけれども。




「じゃあさ、死期が迫ってたら親に心配かけてもいいわけ?」


「そういう屁理屈抜きで、守りに入らないで外の世界に飛び出す強さは単純にステキじゃん!」


「どこが? 男も男だよ、やってることが何もかも中途半端だし」


「あれは優しさでしょ。余命を宣告された女の子なんだよ、デリケートな生き物なんだよ?悠君はあの映画の何を観てたわけ?」


「んー、主人公のワガママなとことか、男のだらしないとことか」


「なにそれ!」




一緒にご飯を食べていた悠君と感想を語り合うどころか、まさかの口論が始まった。

驚くことに、悠君はあの映画にぜんぜん感動していなかったばかりか、ストーリーとはあまり関係のない細かな設定にこだわっていた。



そのせいで、顔を合わせて3分とかからず口喧嘩みたいになって……まぁ、よくあることだけど。



感動したシーンが同じだったりして……なんてそんなことを少し期待していた私がバカでした。



「ははほはははふは!

(沙羅のわからずや!)」


「食べながらしゃべらないでよ、何言ってるかぜんぜんわかんない!」


悠君は途端に黙りこんで。


「もぐもぐ……もぐもぐ……ゴックン」

「……?」

「……チューチューチュー。ぷはぁー」

「ん?」

「ふんっ!」

「は?」



これから食べるはずだった食後のデザート(クリームパン)をひったくると教室を出ていってしまった。



「子どもの喧嘩だねっ」



京ちゃんに呆れ顔で笑われるのは慣れているけれど、なんか今日は特別ひどいかも、ってへこんだな。



「佐野っていつもあんな?」

「えっ?」



そしたら思わぬ方向から声をかけられて、振り向くとクラスイチのモテ男、南君が私たちを見て笑っていた。



「あいつ見かけによらずアタマ固いのな、さっき言い合ってたのって主人公が病室抜け出して、彼氏と旅に出ちゃうシーンのことだろ?」


「南君、よくわかったね?」


「最後のデートになるかも、って実は切ないシーンだし」


「そうそう! そうなんだよね」


語り合える男子がこんなにも近くにいたっ!


「奔放な主人公は魅力的だと思うな。入来さんの感覚のが普通だと思う」


「そ、そう、だよね」


「なんかグッときたし、すげーいい映画だった」


「……うん」



なんか今……南君と同じ気持ちを分かちあえてたりして、って自惚れたりしたりして。


「付き合ってんの? 佐野と」


「ふぇ?」


不意打ちにドキッとした。

気だるげに頬杖をついてこっちを見ている南君が、やけに大人びて見えてしまって。

付き合ってない、とほんとのことを言ったらなんて返されるんだろうか。それを思うとちょっとドキドキ。それも相手はクラスのイケメン南君。



「どっちにしたって佐野みたいなガキっぽいのは入来さんとは合わないと思うけど」


「えっ、なんで?」



おもわぬ彼の言葉で妄想世界から現実に連れ戻された。

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