同クラいいな


「映画って……あぁ、あのとき?」


そうだ。思い返せばこんなこともあった。





「うっううぅ……ちょー感動した」

「えー、まだ泣いてんの?」

「死ぬのはやだけど、あんなふうに想いあってみたい」

「これぞ純愛って感じだったもんね~」



1学期。年に一度「視聴覚学習」という名のいい映画を観る日があるんだけど、そのあと女子のあいだではこんな会話が飛び交っていた。



映画の後半ではすすり泣きが聞こえだして、女子の多数は教室へ戻るときも、その感動の余韻からなかなか抜け出せていないみたいだった。



それは病に冒されながらも、わずかな余命を伸びやかに生きようとする女の子と、彼女の深い悲しみを知ろうともがく男の子のお話だったから。



登場人物みんなの心情が胸に迫ってきて、切なくって、苦しくって、なにもかもに共感せずにはいられなかった。



男子の胸にだってきっと同じように響いてるはず。悠君はどう感じたのかなって、思わず彼の姿を探してしまったとき、前方に、見慣れた長身の後ろ姿が見えた。

クラスの男子たちと何か話しながらのんびり廊下を歩いているのは間違いなく悠君だ。



後ろから同じクラスの女子たちが駆けよって、そこはいつの間にかちいさな集団になった。


「えっ、おまえ泣いてんの?」


「別に泣いてないもんっ」


「俺はギリ踏みとどまったけど」


「あれはマジやばかった」



必殺、地獄耳でもって遠くのその会話に集中したけれど、どれが誰の感想かさっぱりわからなかった。

ちらりと悠君の横顔が見えるだけで。それで本音がもれた。



「同じクラスってやっぱりいいなぁ」

「なんでー?」

「だってあんなふうにすぐ感想を言い合えるんだもん」



ポツリとこぼしてしまったら



「なんか今日の沙羅かわいいね?」


京ちゃんに笑われてしまった。


「グイグイこられると困るんだけど、こうやって離れたところにいると手を伸ばしたくなっちゃうんだよね。なんなんだろ、これ」


「ただのひどい女子でしょそれ」


「ひどい? そっかなぁ。私のそばに男の子がぜんぜん寄ってこないのって悠君がいつもそばにいるからじゃないの?」


「それは沙羅がモテないだけだよ」


「だっ、だよねぇ〜」



京ちゃんがものごとをオブラートに包んでくれないのはまぁ、いったん置いといて。


「いや、でも意外と佐野君の策略かもね」


「ん? 策略って?」


「なんでもないよ」



この時思った。

一度でいい。モテてみたい。



本気なのか冗談なのかよくわからないのじゃなくて、さっきの映画みたいな純愛……してみたいなぁって。





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