きゅん通りこして動悸!


「……鮮やかに思い出したよ、京ちゃん」



あの時は顔が赤くなるどころか恥ずかしさのあまり顔面蒼白だったと思うんだけど。



「ほらね、めちゃめちゃ愛されてることちょっとは自覚した?」


「からかってるだけなんだよあれは!」



そう、あんなのはまだ序の口かもしれない。



「何言ってんの、あんな直球の愛情表現受けといて。昨日の休み時間もよかったよね〜。みんなきゅんきゅんだったんだよ!」



京ちゃんは教室の窓から晴れ渡る空をうっとり眺め出す始末。



「昨日? 休み時間?」

「ほらちゃんと思い出して!」



最近怒濤の訪問ラッシュだったから、いちいち覚えてないや。

昨日か。昨日は確か……。







2限か3限終わりの休み時間だったと思う。悠君が血相変えてうちのクラスにやってきた。



「沙羅っ、大変!」



猛ダッシュのあまり息を切らしているうえに、あり得ないほどの真顔だったから、すごくビックリしたんだ。



「悠君、どうし……うわっ!」



突進してきた悠君に、すごい勢いで手を掴まれてしまった。



「あっ、ごめん。勢いで触っちゃった!」

「いや今そんなことどうでもいい!

てか、どうしたの? なんかあったの?」

「それが……ハァハァハァ」

「なに? なになになに!!」




なんかおそろしく不安を煽られちゃって。



「こっ、これ……」

「これ?」



手に持っていたものを、ぐいと突きつけられた。それは、見たまんまを言えば……。



「……食べかけの、パンだね」

「何言ってんの! 購買で新発売のチョココロネだよ!」

「えっ、あ、そうなんだ」




まぁ、確かに渦巻き状の形態は確認できた。



「あまりにも美味しくて」

「へ?」

「沙羅に食べさせてあげなくちゃって!」

「チョココロネを?」

「そう! だからはい」



お届けできた達成感たっぷりなせいか、ものすごいキラキラ笑顔で渡されてしまった。



「食べかけじゃん?」

「大丈夫! 俺虫歯ない!」

「じゃなくて!」

「間接キスがいや? ならちゃんとしたやつ早くすませちゃお?」

「ちがーう!」

「マジやばいんだって、うまいって!」


いつもの調子が始まって。


「これチョココロネなんだよね? どこにもチョコが見当たらないよ?」



袋のなかにあるのは、スクリュー状の先っぽの部分のみ。そうつまり、クリームが届かないあの部分のみ。



「しくったー!」


頭を抱えるほどかと私はうんざりして。


「一口がでかすぎた……」


「一口なのね」



いやいや、後悔するほどのことじゃないし! と突っ込んだりもして。



「買い直してくる!」


「や、そこまでしなくていいよって、悠君!?」



またまた猛ダッシュで教室を出ていってしまった。



「なんだったの今の?」

「さぁ、意味不明」



京ちゃんも悠君のこと不審者扱いしてたじゃん? みんなにもクスクス笑われたし。



「沙羅、ヤバい!」

「わぁ! もう引き返してきた!」



なのに悠君はすぐ戻ってきたんだよね。



「早く! こっち!」



ぐいと手首を掴まれ今度は思い切り引っ張られて。



「ちょっともう、さっきから何なの! 落ち着きなよ」



廊下に連れ出され、ほらと悠君が指差した中庭の空には。



「うわぁ……!」



鮮やかな七色のアーチがかかっていて、ぼんやりみとれていたら、あっけなくすーっと消えてしまった。



「よかった間に合って。一緒に見れた」



声に顔を上げると悠君が幸せそうに笑ってた。



「でもチョココロネは売り切れちゃっただろうな」


からのしょんぼり顔。


「えと、あの」


こういう時、なんの言葉も出てこないんだよね私って。


「すごい、キレイだったよ!」


我ながら語彙力、ゼロ。


「いや、虹に見とれてる沙羅の方が……」


「ん?」


「や。なんでもない」



なんか下向いてモジモジしてたな悠君。



「いいのかなこれ。このままで」

「あっ!」



私の目線の先には、繋がれたままの手と手があって。



「いいよね?」


その手をきゅっとされちゃって。


「わぁぁ!」



恥ずかしくって振りほどいてしまったのはもう後の祭りってやつで。

京ちゃん含め、目撃していた人達にはひやかされ、悠君ファンからの刃のような視線を浴びる羽目になったんだった。



「チョコの部分あげるから、今度こそはんぶんこしよーね?」


と言われて「……うん」

とうっかり答えてしまったんだった。

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