第4話*あまあま
それから数日が過ぎたある日の昼休み。
京ちゃんはうんざりした様子でウィンナーにフォークを突き刺した。
「早く付き合えばいいのに」
「うーん、でもさぁ」
私はお弁当箱の隅のたらこパスタをエンドレスくるくる。
「何が不満なの? すごく大事にされてるじゃん。うらやましいよ」
「う、うらやましい?」
私の方がよっぽど悠君を大事にしてるつもりだった。最近はお弁当まで作ってあげてるし。結局なんでもかんでも流したり許したりしちゃってるし。
「佐野君が来なかったのって結局あの日だけだったじゃん」
「そういえば、そだね」
確かにあの翌日から悠君は以前にもまして足繁くわたしの元に通うようになっていた。
「一昨日は放課後に来たよね」
「うん、だったね」
「ほら、ちゃんと思い出して?」
京ちゃんがニヤリと笑った。
「えーっと、確か……」
あの日は部活の後片付けに手間取っていつもより少し帰りが遅れたんだった。
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「帰るよmy Boo~♪」
「女の子に向かってブーって……ひどくない?」
「先輩、別にデブ呼びされたわけじゃありませんから。もしかしてあの名曲を知らないんですか?」
「なんの話?」
部活明け、フェンスの向こうから声をかけてきた悠君に怒鳴っていたら、後輩たちになだめられてしまった。悠君はフェンスを掴んで大笑いしてたな。
「いいなぁ、佐野先輩に毎日お迎えに来てもらえるなんて。私もあんな彼氏が欲しい」
「いやいや、付き合ってないってば!」
顔を赤くした後輩が、胸元でラケットをきゅうっと抱きしめていた。
「きゃ、今目があった!」
「わ、手振ってくれたぁ」
「カッコいい!!」
「格好いい!!」
「かっこいー!!」
みんな目がハートじゃん。そろそろ見慣れないもんかな?てか、誰も私の話なんか聞いてなかったような。
「悠君まだかかるから先に帰ってて~」
いろいろメンドーになって、力なくそう言ったんだよね。だって実際やること山積みだったから。
そしたら、まわりから大ブーイング。
学校イチの人気者、佐野悠介のお迎えを断るなんてあり得ないんだって。
「ねぇ沙羅なにが残ってんの? 手伝っちゃダメ?」
「ダメじゃないけど遅くなるよ」
「えー、一緒に帰ろーよ。なんか最近不審者が出るとかって聞いてさ、なんかやだ」
「はー? 何それ」
「なんでもいいけど一緒に帰りたい」
カラダだけはおっきくなっても悠君のこわがりは、やっぱり昔のまんまなんだなって少し呆れた。
私だったら不審者なんてラケットの柄でひと突きよ、ひと突き!
節分の鬼をこわがって泣いてたことをみんなにばらしちゃおっかなぁ、なんてちょっとイジワルしたい気分になってきたりして。
「ねぇ悠君。もしかしてこわいんだ?」
「うん」
あっさり肯定されてつまんなーい。って思ったんだよね。
「沙羅に何かあったらと思うとこわいよ、俺が守らなきゃ」
「………………え?」
「きやぁぁぁあぁぁぁ!!!」
ファンが沸騰するようなワードをさらっと言われたんだった。恥ずかしくてとても一緒になんて帰れなくて隙を見て逃げたんだった!
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