キュンとしちゃいけない
「今日の部活楽しそうだったね、沙羅の笑い声がいっぱい聞こえてきたから俺すっげーやる気出た」
「……そんなこと言わないでよ」
何気ない笑顔や仕草にキュンとしない。優しい言葉に喜んだりしない。私は怒ってるの!
悠君は婚約者がいながら美少女をキープしてる最低なやつかもしれないんだ。
それなのにあんなキュートなクッキー焼いちゃってさ。気を持たせるようなことばっかりしてさ。
私がひとりでいた時間だって、あの子と一緒にいたかもしれないのに。
だけど、どうしても悠君がそんな男の子だとは思えなくて胸が苦しくなる。疑ってる自分のことだって、嫌になってしまう。
「なんか作っとこうか? 部活終わりはお風呂行きたいんじゃない?」
「なんかって……悠君料理できるんだ?」
意外!
「なんでも炒めればそれらしくなるんじゃないの?」
「なんでも……って。えーとやっぱ私やるね」
そうでした。彼は超感覚派でした!
あぶないあぶない。
冷蔵庫のなかをチェックして、何ができるか考えた。
「んーと。カレーでいい?」
「いいいい!」
「じゃ、作っとくから悠君はその、」
「シャワー行ってきます! 急ぐし、お手伝いちゃんとするから!」
バタバタとお風呂に行っちゃった。悠君ほんとに泊まる気だ。てか、いつの間にか悠君のペースに飲み込まれちゃってた。いつものことかぁ。あーあ。
・
「だいたいこんなとこかな」
ひととおり済ませてカレーはあと煮込むだけ。キッチンを離れてリビングから外を見た。
いつの間にか雨が降りだしてる。
ちょっとだけ切なくなって、月も星も見えない夜を遮断するみたいにカーテンを引いた。
なんか疲れたな。寝不足だってたたってる。
ふぅ、とため息をつくと、ソファに身体を沈めてぼんやりテレビを付けた。
「えっ! うそ、これ見なきゃ!」
これから放送の音楽番組の予告CMが流れてくるなり、ぼんやりしていた意識がばっちり覚醒。おもいっきり前のめりになってしまった。
なんでって、その番組に最近気になっていた若手イケメン俳優が出るみたいなんだもん。有名なミュージシャンが提供した曲が彼の出演した恋愛映画の主題歌になってたけど、きっとあれを歌うんだ。
テレビ初披露なんて言われたら、絶対見たい! しかも生放送ならリアタイに限るよね。 だったら、早くいろいろすませなきゃ!
キッチンへ行ってカレーをチェックすると火を止めた。悠君は、もう脱衣所にいるっぽいから、この後すぐお風呂に行けば間に合うな。
念のためテレビが始まるまでの時間を確認して、何気なく振り向いたらテレビの画面に写っていたおどろおどろしいものと目があった。
『……あなたは一人の時にふと、誰かの気配を感じたことがありませんか? 今夜、その気配のすべてがカメラの前で明かされる……ほら、あなたの……』
「……はっ!」
あわててリモコンを手にしたけど遅かった。
画面はいきなり暗転して真っ暗になって、そこにぼんやりと白い人影が……!
「キャアァァー!!!」
「沙羅? どーしたっ!」
『……今夜…………9時』
私の悲鳴を聞いてあわてて駆けつけた悠君は上半身がまだ裸で、タオルを持ってたけど、髪からは雫がポタポタ落ちていた。
「きゃあー!!」
水もしたたるなんとかってやつ。刺激が強すぎてそりゃあ、さっきとは別の意味の悲鳴もあがるよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます