なんで捕まえちゃうの?


ノートに記入をすませると、職員室の先生の机にそれを置いてすぐコートに戻った。



もう何も考えたくない。

それにただでさえ寝不足なんだ。頭のなかはぐっちゃぐちゃだし、胸のうちはもやっもや!



落ち着きを取り戻そうと、コート前で立ち止まって深呼吸をした。京ちゃんは私が悠君と帰ると思ったのか、先に帰ってしまったみたい。




荷物を手に脇目も降らず一目散に家を目指した。まだ部員の気配がしてる体育館前はもちろんスルーした。



買い物なんかしなくていい。お茶漬けで充分だ。だってひとりだもん。今日もひとりだもん。



夜道を早足で歩いていたら、後ろから声がしたから更に歩調を早めた。



「沙羅待てこら! 置いてくなー!」



叫んでるのが誰かすぐわかる。もうそれがやだ。

悠君なんかもう待たない。

絶対待ってなんかやらない。なんで追っかけてくるのよ!

後ろを振り返らずに走り出した。



「なんかわかんないけど絶対捕まえる!」



逃げたせいで悠君は本気で追ってきて……あっさり捕まってしまった。でも何を言われても聞かれても悠君を無視した。

険悪なまま帰宅したのに悠君はそのままうちに上がり込んじゃった。



「こういう時は普通自分ちに帰るでしょ?」


あきれすぎてうっかり喋っちゃった。


「なんで? 100%泊まる気なのに」


「泊まるのは無理って言ってたの誰だっけ?」


「いやいや、今日だけ。今日は泊まらないと沙羅が困ると思って……」


「意味がわかんない」


「だってさ、とにかく話聞けって」



やっぱ無視しとこう。悠君のペースに巻き込まれたくない。



「悠君、ご飯ここで食べて帰るつもり?」

「ここで食べて、帰らないつもり!」

「……譲らないね」

「白米も意思も固めが好きだからね」



笑顔になんか吸い込まれないんだからね!

悠君はもうキッチンでお米を研ぎはじめてる。どこまでマイペースなやつなんだ。人の気も知らないで。



「ねぇ、なんでお米の在りかなんて知ってるの?」



よっぽど不思議顔をしてたのか、悠君はポケットから紙を一枚取り出して、冷蔵庫にマグネットで貼りつけた。



「このうちの備品事情は沙羅ママからだいたい聞いた、ほら」

「えーっ、家の間取りじゃん!」



余白に、何がどこにあるかがみっちり書いてあった。



「沙羅のことがよっぽど心配なんじゃない?俺に頼るくらいだもん。印がついたところは入ったり触ったりしないでってこと?」

「……ぽいね」

「ちゃんと守るから安心していいよ」

「う、うん」



私の部屋に印は付いて……。



「ない! 私の部屋に印ついてないじゃん。なんで?」

「しょっちゅう出入りしてるからだろ?」

「それはそうだけど……」

「沙羅が困るんなら入らないから」

「え?」



なんか変だ。

こういう時、悠君はいつもふざけるのに。

こうやって、こんなふうに、悠君は私の気持ちをかきみだす。

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