第3話*好きって伝わってる?
「ねぇ、なんでそんなに顔むくんでんの?
佐野君と楽しくイチャイチャな同居生活が始まったはずだよね?」
朝、私の顔を見るなり京ちゃんはそう言った。
「なんでだと思う?」
「なんか殺気だってるね」
そうこの顔、むくんでいるうえに表情は般若だと思う。
「聞いて~! 用事あるからって出掛けたきり、帰ってこなかったのあいつ!」
ドキドキの同居生活が始まるどころか、あのあと悠君は戻ってこなかったのでした!(完)
いつ戻ってくるのかと思うとソワソワ落ち着かなくて、内鍵だってかけられない。じゃあ起きて待つしかないよねって雑誌読んだりスマホいじったりして過ごしてみた。
連絡してみようかどうしようか迷った挙げ句に結局何もできなくて、気づいたらお日様が上ってたから誰より早く登校して今に至っているというわけ。
京ちゃんは笑って聞いてくれたけど、私は寝不足と悠君への不信感のせいで頭がズキズキするほどだった。
「そもそも沙羅は彼に頼る気なかったんだから別によくない?」
「それは確かにそうなんだけど、戻るからって言われたらやっぱ待ってしまわない?」
「そうだね、佐野君てなかなか人を振り回すタイプかも。待つ方の身にもなれって思う思う」
「でしょ?」
机の上につっぷした。ひんやり気持ちいい。あぁ……眠い。
「クッキーは? 佐野君のことだからほんとに作ってたりしてってちょっと期待してたんだけど」
可愛く加工もできたし、京ちゃんにみてみて♪ って写真見せる気まんまんだったけど……。
「……ないでしょ」
もう、なかったことにしてしまおう。浮かれるような気分でもないし。
「そうなんだ? なんかね、アメリカでは男の子が特別な女の子にお菓子プレゼントするのは普通なんだって。そう聞いたから期待してたのになぁ」
「そ、そうなの?」
まさかあのヘンテコでやたらキュートなクッキーにそんな真意があるなんて!
やばいドキドキが固形になって口から耳からあふれそうになる。
「ま、いっか。じゃ、時々はうちらとも遊べるね。今度みんなでわいわいやろ?」
「う、うん!」
ドキドキはどうにか取り繕ったものの、1限目から猛烈な眠気に襲われて昼休みまでの記憶があまりない。しかも身体が丈夫なせいか午後には体力を取り戻してしまうという。
体育の授業で貧血起こしてみたいなぁ。
ふらっと倒れてしまったのを、大好きな男の子がお姫様抱っこで保健室へ運んでってくれるの!
マンガみたいなシチュエーションに憧れちゃう。でもやっぱあれは2次元限定なんだよねー。
しかも部活前に、平然とした様子でやってきた悠君に「迎えに行くから今日は一緒に帰ろ」って言われてしまった。
約束すっぽかしといてよく堂々と来れるもんだ、ってうんざりするはずなのに、そう言われてちょっと浮かれた自分が恥ずかしい。
ほんとに? 絶対だよ?
なんて、思ってても言わないもんね。だって悠君、無神経なんだもん。
普通は謝ったり、戻れなかった理由を話すのが先じゃない?
怒ってますよのサインの代わりに「気が向いたらね」って突き放しておいた。
我ながら素直じゃないし、可愛くない。私ってほんと、めんどくさい。
それに海の向こうで悠君のことを想ってる子がいるって思うと、そうするしかないような気もしてる。
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