帰国子女の愛情表現


洗濯物をこっそり自分の部屋に干した。

ママが帰って来たら乾燥機付いてるやつおねだりしよ。



階下からは悠君の変な鼻唄が聞こえてる。

時々聞こえるとりゃ! うりゃ! って声はなんなんだろ。



悠君は普段だいたいがこんな感じ。

端整な見た目と子供っぽい中身のギャップがすごい。だからなのか、時折見せる男っぽさの威力が半端ない。



しかも何気に成績もよかったりする。普段がおバカだから、カンニング疑惑とか双子説が出るくらい。勉強してるとこも、そういえばあまり見たことがないな。



悠君いわく、ヤマを張るのが上手いだけらしい。でもそれで上位にいつもいるのはおかしい。



運動神経もいいしヴィジュアルもいい、しかも掴み所がなくてどこか謎めいてる。気まぐれで天才肌な感じがするのも間違いなく魅力的。



私にちょっかい出すのだって小さい頃を懐かしがって、面白がってるだけなんだろうな。フィアンセがいるのなら、ここに泊まろうとしないのも頷ける。

ちょっと残念だったり……しないもんね。



とにかく、彼のやることにいちいち首を突っ込んでたららちがあかないのは確か。だいたいほんとにクッキーを作るなんて思っていなかった。


「悠君、これちゃんと分量計ったの? レシピとかあるの?」



降りていってキッチンの様子を伺ったら、あるべきはずの調理器具がどこにもなかった。



「何言ってんの? 甘党O型男子の完全感覚派クッキングにレシピなんかあるわけねーだろ、うりゃ!」


「クッキーってそんなに叩きつけるものだっけ?」


「違うの? じゃあ、優しくもみもみか。しくった!」



生地を伸ばしたらそれらしく見えたけど、型抜きはどこ?



「生地ねかして、そのあと型抜きでしょ。型で抜いて焼くんでしょ」



私でもそれくらい知ってるのに。



「沙羅ってA型だっけ?」


「うん、だからその作り方にムズムズしっぱなしなんだけど」



そう答えたら目をキラキラさせて悠君は私を見た。



「やっぱりそうかぁ。AとOが相性バッチリっていうのは事実だったか」



赤くなってモジモジしてこのイケメンは……中学生なの?



「それに沙羅になんかあったら俺の血分けてあげられるってことだ。どーしよう、感激」


「なにそれ。私はあげられないの?」



ちょっと不安になってしまった。

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