モヤモヤ
「えーなんで知ってんの?」
悠君は平然とたまごサンドをもぐもぐ。
「ね、可愛い子?」
「うん、1年だって」
うん。って
可愛いって言った。思いがけずショックがおっきい。
「でも断るよ、実は俺フィアンセがいるからね」
「悠君それ……初耳なんだけど」
「うそじゃん」
驚きのあまり詰め寄ってしまった。
そっか、親同士が決めた子がいるんだ。たぶん、あっちに。
悠君のパパは向こうで立ち上げた会社が危うくなって、戻ることを決めたと聞いていた。その後経営は安定したらしいけど、会社の重役である大人の世界にはきっと私達にはわからないいろいろがあるんだろう。
悠君も中学までは行ったり来たりしてた。
考えてみれば向こうでの悠君の生活や交遊関係を、私はなんにも知らない。元カノやフィアンセがいてもなんにもおかしくないんだ。
「昨日うちのクラスに珍しく来なかったよね? それはなんで?」
「それはまぁ、行けない日もたまにあるよ」
私の代わりに聞いてくれた京ちゃんの手を握った。アイコンタクトで「聞いてくれてありがとう。ストレートすぎて目ん玉飛び出そうと思ったけどほんとありがとう」そう伝えた。
それからまたひしし、と京ちゃんの手を強く握って再度アイコンタクトで伝える。
「悠君今、答を誤魔化したよね? ね?」って。そんな私はもちろん涙目。
昼休みが終わって、悠君が行ってしまったら、すぐ京ちゃんに言われてしまった。
「佐野君にしがみついてたら沙羅はおばあちゃんになっちゃうかもしんないね」
「そんなこと言わないでよぉ~」
「うーん。次いってみよっか!」
「京ちゃんみたいに切り替え早くないもん」
この竹を割ったような性格で京ちゃんはリア充を謳歌できてるんだと思う。
京ちゃんに彼氏がいなかったことって、ほとんどないもん。普通に美人だしなぁ。
「なんなら紹介しよっか? タカヤの友達でよかったら」
タカヤ君ていうのは京ちゃんの年上彼氏で大学生。
「うーん、ちょっと考えさせて」
そっちに目を向けた方がリア充になれるのかな。楽しい高校生活が待ってるのかな。
そんな一日を過ごして放課後どこにも寄らず帰宅して、今ママの意味不明な書き置きをチェックしたところ。
寄り道とかこれからはできないな。
京ちゃんの誘いも断ってしまうことが多くなるかもしれない。
掃除、洗濯、炊事。やることたくさんあるんだもん。この3つに貴重な青春の一ページを費やすなんて……なんか私もしかして不憫なのでは?
悠君も部活休みって知ってたから、ほんとは一緒に帰ろうって誘いたかったけど、誘えなかった。アメリカにいたときのこと、根掘り葉掘り聞いてしまいそうな自分が嫌だったから。
ふぅ、とひとつため息をついた。
いくらグズグズ言ったところで、魔法みたいにご飯は出てこない。
だから気持ちを切り替えて、洗濯機をスタートさせると、その合間で掃除機をかけた。エプロンつけて、せめてやる気出そう。
形から入るってきっと大事だもんね。
これくらいの家事はなんてことないって思わなきゃ。
ただ、帰宅してからこれをやるってめんどくさいな。明日から部活でへとへとになって帰っても、ご飯できてないの? お風呂わいてないの?
ママって私達が学校に行ってる間に部屋を掃除したり洗濯したり……買い物に行ってご飯の準備したりアイロンあてたり、それを毎日欠かさずにやってくれてたんだなぁ。
いなくなってわかる、ママのありがたみ。
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