いびつな形の片想い
そしてその翌日。
私達が学校に行っている間にほんとにママはいなくなってしまった。
ママは元から猪突猛進な人だけど、それにしても早すぎない? 私にだって心の準備をする時間がほしかった。
「あっちから美味しいイカを送ります。母より」
帰ったらテーブルにそんな書き置きがあったけど、特に書き置くことでもないような気がする。
それに私がほしいのはイカじゃない!
覚悟を決めたり準備を整えたりする時間なのに。
とにかく帰って来たママを怒らせない程度には家をちゃんとしておこう。ご飯もなるべく作って食べようという誓いだけは立てた。
今日は部活も休みだし、寄り道もせずに帰宅した。悠君に頼るのも違う気がして、置いて帰って来てしまった。
「ただいまぁ」
玄関に入ると癖で言っちゃったけど、もちろん返事はない。なんか……孤独、かも。
早々にひとりぼっちを実感してしまった。
今日学校での出来事を思い出して、今頃悠君何してるのかなぁ、って早くも寂しさと心細さを感じ始めていた。
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「俺泊まるのは無理だよ」
それは今日の昼休みのこと。
京ちゃんも一緒に3人でお昼を食べながら悠君は真顔でそう言ったんだ。
荷物持ち込んでいい? とか、一緒にお風呂に入ってもいい? なんていつものようにふざけてベタベタしてくるものとばっかり思って応戦する気マンマンだったのに、まるでその構えは無駄だった。
「なら京ちゃん泊まりにきてよ!」
「いいよー、週末とかなら全然OK」
「えっ、週末オンリー?平日ダメ?」
不安丸出しで京ちゃんにはすり寄ってしまった。
「そんなに心細いんならもう平日は佐野君に甘えちゃえば? 沙羅ってほんとめんどくさいとこあるよね」
「めんどくさいって……ひどい」
京ちゃんは思ったことをすぐ口にする素直ないい子なんです。私も自分のことをめんどくさー! って思うこと多々あるし。
「ね、佐野君。沙羅が実は寂しがり屋で甘えん坊って知ってるでしょ?」
「いやいや私は自立した大人女子を目指してるってば!」
京ちゃんには私がそんなふうに見えていたんだろうか。てか私って……そうなの?
「沙羅の力にはなってあげたいけど泊まるのは無理なんだって。けど連日パーティーはあり」
「なにふざけてんの、悠君のアホ!」
彼の脳内はやっぱアメリカンなんだ。
いや、それはいいとして、悠君が泊まらないと言って譲らないのはなんでだろう。なんか、すごく気になる。
「でも今日は沙羅の一人暮らし記念に俺クッキー焼いてあげるね♪」
「……あんたはステラおばさんか?」
「いやあそこまで上手には焼けないわ」
「つっこんでんのはそこじゃないよ!」
そんな私達を見て、京ちゃんはいつものように一人だけ大人びた表情でぽつりと呟いた。
「なんかふたりっていつも息ばっちりだねっ」
ふふふ、と余裕のある微笑みをたたえて。
「やっぱりそう思う? だって俺たち幼なじみだもん。ね、沙羅?」
「え? あぁ、うん」
幼なじみ。かぁ。
その言葉が胸に突き刺さる。痛い。
「あっ、そーいえばさぁ。佐野君告られたんだってね?」
「ぎやぁぁぁ、京ちゃんそれはっ!」
いきなりの話題転換にも驚いたけど、テーマがそれなの?これだから非処女は! デリカシーどこに忘れてきたの?
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