見つめてみたい。その横顔
「備品増えてよかったね」
嬉しそうに斜面を上がってきたときの悠君には土埃や木屑がいっぱい付いてて、暗闇のなかを必死に探してくれたことが手に取るようにわかった。
「ごめんね、怖かったでしょ? 怪我とかしてない?」
心配になって駆け寄ると
「ごめんじゃなくてありがとうな? あと子供扱いすんな」
ばっさりそう言われてしまった。
「うん、ありがと悠君」
「たいしたことないでしょ、こんくらい」
胸のうちになみなみとあふれかえるこの気持ちは、なんだろう。
「それにしてもさ、3個出てきてラッキーじゃない?」
「ほんと。笑っちゃうね」
顔を上げた悠君がふわふわの笑顔だったから、こわばっていた心も身体もほろりとほぐれた。
「こんなのいちいち気にすんなよ。誰にだって不調や失敗はあるんだし」
「……うん」
誰にも知られず練習をして、その失敗さえこっそり隠そうとした自分が恥ずかしくなった。
「ただね沙羅。ひとりでなんでも片付けようとするのはよくないと思う」
悠君のまっすぐな視線が痛い。
「しんどいって誰にも言えないときこそ、俺にはちゃんと教えてよ。ちゃんと頼ってほしいし、沙羅に頼られる男になりたいんだ」
「……うん、そうだね。ありがとう」
「とにかく、怪我したり迷子にならなくてよかった。女の子がこんな時間まで一人で校内に残っちゃダメだよ、わかった?」
「……うん」
「よし。いいこいいこ」
優しく頭をぽんぽんされて、胸が苦しくなる。
「ね、このまま一緒に帰れるよね?」
悠君のキレイな瞳が天の邪鬼な私の目を覗きこんでくる。
「……うん」
勇気を出して頷いたら、悠君の方が私より照れているように見えた。
帰り道でも、やっぱり悠君の顔を見上げることができなかった。
私が今日1日情緒不安定になってしまったのは、やっぱり朝のことと、悠君が一度も会いに来てくれなかったことが一番の原因だから。
自分がいちばんよくわかってる。悠君に好かれて当たり前っていう自惚れがいつもどこかにあったんだと思う。
そんなのはきっと悠君のリップサービスなのに。家族みたいな人だからってだけなのに。情けないや。
悠君は隣で鼻唄を歌ってる。話してくれないのかな、朝のこと。
あのあとどうしたのか。
なんて返事したのか。
どうして1日、私を避けるように姿を見せなかったのか。
勇気を出してちらりと悠君を見上げた。
キレイな横顔。無邪気な鼻唄。
吸い込まれて、いつも目線を外せなくなるの。だから、うかつに顔を上げられなくて。
いつもの悠君ならその視線にすぐに気付いて「どーしたの?」って聞いてくる。だけど、どうして今日はそれに気づいてくれないの? わざとなの?
そんなふうに放ったらかされたら、悠君の横顔に吸い込まれたまま心がどこにも行けなくなるじゃん。さっきよりずっと好きになってしまうじゃん。
人の気も知らないでさ。
止まらないご機嫌な鼻唄。
「ねーねー沙羅聞いて? 俺、口笛吹けるようになったんだ」
唇を尖らせてすーひゅーすーひゆゅー、って。
「口笛じゃなくて呼吸困難だね」
やっぱり素直になれない私は可愛くない台詞で自分の気持ちを誤魔化すばかり。
「呼吸困難? 確かに苦しいや」
ケラケラと笑ってるけど、苦しいのは私の方だよ。もういっそ、このまま悠君が遠くへ行っちゃえばいいなんて。
月明かりのした、心にもないことを思ってしまった。
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