悠介、1日の終わりのお勤め
山側の出入口をそっと開けるとギギギギギィィ……
「きゃあぁぁぁ!」
思わず叫んでしまった。
私はホラー映画や心霊系全般が大の苦手。
恥ずかしくってあまり声を大にして言えないんだけど、お風呂にもトイレにも行けなくなるほどにビビり。
開けることがほとんどないから錆び付いて妙におどろおどろしい音をたてた扉のせいで、心拍数は一気に跳ね上がった。
どーしよう。怖い、怖いよぉ。
「ほぉら~悠介にとって~、大事な人ほどっ、すーぐ、そおばにいるのっ♪」
「えっ……なに?」
なんか声が近づいてくる。
なんか歌ってる?
ねぇ、これって、悠君のカラオケの定番ソング。
「沙羅いなーい? いないよね?」
暗がりに呼び掛けてるのって悠君?
もしかして、私の安否確認してる?
「返事ないなら本日のお勤めは終了かな。あー腹減ったぁ、沙羅ママのハンバーグ5個たべよーっと」
悠君、待って。あのね。
「あの……沙羅、います」
悲しいくらいに震えた声が出た。
「は? なんで?」
悠君は私の声がしたほうを振り返って、なんの迷いもなくテニスコートに入ってきた。
「なにやってんだよこんな時間まで。テニス部とっくに練習終わったろ?しかもひとりって……」
フェンスにもたれて座り込んでた私のそばに、猛ダッシュでやってきた悠君のその声は、語気が強くて少しだけ怖かった。
「山に打ち込んだボールを取りに行こうとして……」
悠君の顔を見たら、ホッとして泣きたくなってきた。でも、もうボールはいいの。
明日素直にみんなに報告して、お昼に探すつもりだから。
そう言おうとしたら、悠君は荷物を投げ出してスマホを手に錆び付いた扉を潜ってしまった。
「なくしたの、一個?」
「そうだけど、今日はもういいの! 悠君危ないから行かないで?」
「視力いいから大丈夫!」
「何バカなこと言ってんの、ほんとにやめて?」
「5分だけだから」
「5分だけって?」
そう聞いたら、悠君は少し悲しそうに笑った。
「5分だけ沙羅のこと、そこでひとりぼっちにさせちゃうけど、ちゃんと待っててね」
「悠君……」
彼はほんとに山のなかに消えてしまい、そしてきっかり5分後、テニスボールを3個みつけて戻ってきた。
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