どどど動揺!

「あーあ。なんで伝わらないのかなぁ? 俺はこんなに沙羅のことが好きなのに。片想いはしんどいんだよ? それにもう飽きた!」


「はいはい、そうですか」



無表情を装って受け流した。だってこんなのにいちいち反応してたら心臓がもたないよ。

ちらりと悠君を見たら露骨にへそを曲げた顔をしてる。



小さい頃は頭をよしよししてあげると機嫌も直ってたよね。でもそれは昔のこと。

今じゃ背伸びしたって頭のてっぺんに手なんか届きそうにない。



悠君がふくれて立ち尽くしてるのがわかったけど、私は彼を置いてどんどん先を歩いた。



「……あの、これ、受け取ってください」



悠君の前をだいぶ行きすぎてしまったけれど、後ろから聞こえた女の子の震える声に足が止まった。

汗がじわりと額に浮く。

もしかしてこれって。まさか。



「俺にくれるの? ありがとう」



思わず振り向くと、ニコニコで受け取っちゃってるし!



「返事……ください」



朝から告られてます。それもなかなかの美少女に。



「返事って……もしかして恋の文……」



悠君は小声で、しかもヘンテコな日本語になった。テンパると悠君はこうなる。てか、ラブレター以外あり得ないでしょ。



私は足早に学校へ向かった。それは自然と小走りになった。だって見たくない!知りたくないんだもん。先の展開!


「……そう。ラブレターです」



その場を立ち去ったはずなのに、女の子の消え入りそうな声がまだ耳に届く。

やだやだやだ。こういう場面に遭遇したくなかった。



悠君がその子と話してるのがわかったけど、早歩きでとにかく逃げた。耳を塞いで、見なかったことにしようとした。



それなのに動悸が打って、汗がこめかみを滑る。もう、メイクが台無し。



「沙羅おはよっ。何急いでんの?」



顔を上げたら親友の京(きょう)ちゃんが、キレイな髪を揺らして笑ってた。汗なんかかいてない涼しげな顔で。



「京ちゃん、なんかもう……朝から疲れちゃって」



彼女の顔を見たらホッとして泣きそうになってしまった。



「メイクよれっよれだね、パウダーで押さえてない証拠だ?」


「ちゃんと押さえたもん!」



だけどもうどーしようもなくなっている模様。


「珍しく佐野君いないんだ? この涙目と尋常じゃない汗は、そのことと関係してたりする?」


「ねぇ話聞いてくれる? 涼しい教室で!」


「涼しい教室で?」


「そう、そこ大事」



だって冷や汗だか脂汗だかが普通じゃない。それくらい私は動揺していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る