こんなの家族じゃん

「沙羅の理想のタイプ? 小学生のときはなんとかってアイドルにはまってたよね?あんな感じの王子様系がいんじゃないの?」


「王子様ってどんな?」



聞こえてきた二人の会話が出掛けようとしていた私の足を止めた。



「そりゃイケメンで、背も高くてスラッとスタイルも良くてキラキラで優しくて。あとお姫様しか見えてない一途さが大事だね!」


「白馬に乗った系?」


「そうそう、それそれ」


「イケメンとかキラキラとかわかんないけど、俺馬には乗れるよ。あっちにいたとき乗馬してたもん。ジュニア大会で賞もらったことがあんの」


「悠君、乗馬できる子もそうそういないと思うんだけどさ、とりあえずそれ置いといてまず、これだけ確認させて?」


「んー、なに?」


「あんた自分がイケメンだって自覚ないの?」


「えっ、俺ってイケメンなの?」


「告白されたこととか絶対あるでしょ?」


「告られたらイケメン自称していいものなの?」



二人の話が気になって気になって家を出るどころか、リビングに戻ってきてしまった。



「ママもう終わり! 悠君遅刻しちゃうじゃん」


「わっ、びっくりしたぁ! 娘が出戻ってきた」


「その言い方、悪意しかない!」


「冗談じゃーん、ねぇ悠君」


「俺のこと迎えに来てくれたんでしょ?」


「それもなんかちがーう!」



この二人とはどうも普通の会話ができそうにない。


「もうそんな時間? 悠君とおしゃべりするの楽しいんだもん、あんた達が学校に行っちゃったらママひとりぼっちだし」


「もう、わがまま言わないで!」


「なんか沙羅のがお母さんくさいね」



悠君はダイニングチェアから立ち上がってママにハグをした。


「行ってくるね。今日もママに神の御加護があらんことを」



ママは幸せそうに目を閉じてる。

生まれと育ちがアメリカだと、こんなふうに頬を寄せるのも挨拶みたいなものなんだよね。



だから悠君にくっつかれても深い意味はないんだ。家族としての親愛のしるしってこと。やっぱりもういちいちドキドキするのやめよ。



「二人とも気を付けてね!」


「うん、ご馳走作って待っててね」


「もっちろん!」



ママはニコニコ嬉しそう。

私は一人っ子だし、あんまりおしゃべりなほうでもない。

それにパパは単身赴任が長いから、懐いてくる悠君が可愛くて仕方ないんだろうな。



「じゃいってきまーす! 部活終わったら寄るね~」


「いってらっしゃーい!」



悠君は6歳で日本に戻ってきたものの、家族はまたあっちに戻っちゃって、今はうちからすぐのマンションで独り暮らし。

昔も今もほとんどうちの子みたいなもん。



「晩御飯ハンバーグって言ってたよ。楽しみだね」


悠君もニコニコして嬉しそう。

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