温度差

「これならどう? 遠近法」

「遠近法って!」



悠君アホすぎる。

笑える!



「でも沙羅が遠いんだよなぁ、こんな遠くから見てるだけなんてやだなぁ。いつだって近くにいたいのにこの物理的な距離すげーいや!」



どうせ冗談なんだろうけど、胸をかきむしってのたうち回って苦しんでます、彼。



「整形で身長って低くなるの?整形じゃなく形成?日本語ってむっず!」



顎に手を当てて、真剣にアホなことを考えてる顔が美形すぎていやになる。うん、たまには無視してみよう。



「部活辞めるか……そしたら筋肉落ちるでしょ。10キロくらい増量したらぽよぽよになれるかな?どーしたら沙羅の理想に近づけるんだろ?」


「ちょっと待ってよ、ミニサイズのぽっちゃりが好きっていつ誰が言った?」



部屋を出て階段を降りると、悠君もあわてて付いてきた。



「こら、迎えに来てやったのに置いてくな!そうやっていつも俺をないがしろにする!」


リビングに下りると、今度はキッチンからママのうんざり顔が覗いた。


「あんたやっと起きたの?」

「ちゃんと起きて支度してましたぁ」

「いつも迎えに来させてばっかりで悠君に悪いでしょう?たまには悠君起こしに行きなさい!」



ママの発言に悠君の表情が輝く。



「それすごくいいね!」

「ごめんそれは無理」



即答したら悠君はすねてしまった。


「ママ、俺にも味噌汁ちょーだい」


「はいはいどーぞ。お汁だけじゃダメよ?ご飯もおかずもサラダもヨーグルトも果物もグラノーラもヤクルトもね。育ち盛りだもん。蜂蜜なめてく?」


「朝御飯の量えげつないし全力でおばちゃんだね」


あんまり口うるさいと毒も吐きたくなるよね。



「でも沙羅ママのご飯美味しいし、俺これから太らなきゃいけないからちょうどいいよ、その量で」



悠君がママに極上のスマイルを見せたから、睨まれなくてすんだ。



「もう悠君ったら朝から嬉しいこと言ってくれちゃってママ幸せ! でもさ、なんで太る必要があるの? 悠君スタイルいいのにもったいないよ?」


「スタイルとかどーでもいいわけ! 大好きなあの子の理想の男になりたいの俺」


「なにそれ! なんかママきゅんきゅんしちゃう!」



悠君とママは果てしなく気が合うらしい。

二人がしゃべってるとまるでガールズトークなんだもん。盛り上がっちゃって私が入り込む隙もない感じ。

てか悠君、私が太め好きって思い込んでない?


ご飯を食べ終えて、歯磨きして軽くメイク直しても、まだふたりの恋愛トークは尽きてない。


「あのぉ、先行きます。悠君ごゆっくり」


一緒に登校するのが目的じゃなかったのかぁ。目的は美味しい朝御飯とママとのトークなんだな。やっぱりいろいろ期待するだけ傷つきそう。

ほんとに置いてっちゃうもんね。

ふぅ、と小さなため息が出た。



玄関でローファーに片足を突っ込むと、隣には悠君の靴。足までこんなにサイズ違うんだ。胸がぎゅっとなる。

悠君は、17歳の男の子なんだよね。

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