第94話 いけ好かないやつ
千紘が迷うことなく長剣を
「たった五人で私を倒せるとでも思っているのかな?」
「ああ、やってやるさ」
しっかりと頷いてみせた千紘だが、正直なところ、どの程度渡り合えるのかはまったくわからなかった。
ギウスデスの強さが未知数だからである。
これまで実際に剣を交えたことも、撮影中に戦っているところを見たこともない。どのような戦い方をするのかも知らないのだから当然だ。
千紘の中にあるのは、ただ『得体の知れない不気味な敵』という嫌な認識だけである。
「なら試してみるといい」
「もちろん、そうさせてもらうよ」
額と手のひらにじわりと
とりあえず今はやるしかない、そう自分に言い聞かせて、長剣を手に地面を蹴ろうとした時である。
「ああ、そうだ。この世界で君たちを待っている間にこんなこともできるようになったんだよ。すごいと思わないかい?」
言いながら、ギウスデスが愉快そうに右手を軽く掲げた。
次の瞬間、千紘たちとギウスデスとの間の床に、大きな魔法陣のようなものが浮かび上がる。
そこから現れたのは、魔物の群れだ。
見覚えのあるスライムやキメラだけでなく、他にも見たことのない色々な種類の魔物がいる。弱そうに見えるものからそうでないものまで多種多様だった。
「魔物!?」
「何でこんなところに!」
千紘たちが揃って声を上げ、
「どうかな、召喚って便利だろう? 他の大陸の魔物だってここに呼べるんだからね」
そう言って、どこか楽しそうに目を細めたギウスデスは、背後の玉座にまた腰を下ろすと、
どうやら魔物をけしかけて、その様子を観察するつもりらしい。さすがにラスボスだけあって、性格の悪さは四天王以上だ。
(まためんどくさいことしやがって)
思わず千紘の口から舌打ちが漏れ、額に滲んでいた汗が一筋、静かに頬を伝っていく。
「おいおい、何でもありだな。召喚術ってもっと珍しいもんだと思ってたんだけどな」
「ちょ、ちょっと待ってください! この大陸はルークスの加護で守られてるんじゃなかったんですか!?」
わざと呆れたように零す千紘の後に続けて、今度は律が焦った様子で声を荒らげると、
「いや、ルークスの加護は弱まってるかもしれないって話だったから、そのせいかも」
秋斗は魔物たちをまっすぐに見つめながら、そう冷静に分析した。
ルークスの加護とは、このルークス大陸を魔物から守るためのものである。魔物はそのせいで大陸に上陸することができないのだと、前にリリアが言っていた。
それなのに、こうも簡単に魔物が召喚できてしまうということは、やはりルークスの加護がほとんど役割を果たしていないということなのだろう。
しかし、今はそんなことに構っている余裕はない。
やるべきことは一つである。
「とにかく今はこいつらを倒すぞ!」
千紘は長剣を握り直しながら、他の四人に声を掛けた。
※※※
しばらくして。
床には大きさだけでなく色も様々な鉱物が大量に残され、壁に設置されたランタンの明かりを
五人全員で手分けして、魔物を倒し終えた後のことである。
「どうにか全部倒せたな。核を探すのがちょっと大変だったくらいで、それほど苦戦はしなかったか」
長剣を右手からぶら下げた千紘は、思ったよりも楽だったことに安堵しながら、大きな息を吐く。他のメンバーも同じような様子だった。
「さあギウスデス、全部倒したぞ」
これで満足か? と秋斗がギウスデスの方へと顔を向けると、一部始終を玉座から眺めていたギウスデスが改めて立ち上がった。
「ふむ、
「小手調べとか言って、実際にはあたしたちの体力を削ろうって魂胆じゃない!」
息を切らした香介が手を腰に当て、ギウスデスを睨みつける。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないね」
その言葉に、ギウスデスは声を出さずに笑った。
魔物をすべて倒されても、特に気に留める様子はない。おそらく、魔物が倒されるのは織り込み済みだったのだ。
そのうえで、千紘たちの戦いを見て、この程度なら自分一人でも余裕で勝てると確信しているらしかった。
それが千紘の心をまた苛立たせる。きっと他の四人も同じだろう。
(まったく、ラスボスだけあっていけ好かないやつだな)
千紘は大きく深呼吸をして、息だけでなく心も懸命に落ち着かせる。
苛立ちは戦闘において冷静さを失わせ、足を引っ張るだけだ。だから今ここで捨てておかなければならない。
「まあいいけどな。これからが本番ってことで」
呼吸を整えた千紘がまっすぐにギウスデスを見据えて両手で長剣を握り込むと、秋斗たちもそれに
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