第93話 具現化された諸悪の根源
千紘は右手を腰に下げた長剣の
「ギウスデス、まさかこんなに早く見つかるとは思ってなかったよ。もっと先にいるかと思ってたからな」
「ここが最上階で、私の部屋だからね」
ギウスデスは
「へえ、そうか。いいご身分だな」
千紘もできる限りの平静を装って返す。
廃城になっていたこの城を勝手に乗っ取っていることについては、あえて触れなかった。
千紘たちとギウスデスは、互いにまだその場から動こうとはしない。遠くから会話をしているだけだ。
さらに千紘が続ける。
「で、お前はいつからこの世界にいた? あらかじめ準備してないとそんな簡単に教団なんて立ち上げられないよな?」
「私が具現化されたのは、君たちが前回この世界に来た時だよ」
「前回? ならどうして存在が消えてないんだ?」
俺たちはあれから一度地球に帰ってるんだぞ、と千紘は思わず目を見張る。
地球に帰ると、千紘たちの記憶から具現化されている者は、この世界から存在が消えてしまう。
それなのに、ギウスデスだけはどうして消えないのか。ラスボスだから、などという意味不明のふざけた理由はさすがにないだろう。
「それは簡単なことだよ。君たちの私に対する認識が
ギウスデスの言ったことは、千紘の中で妙に納得できた。おそらく他のメンバーも同じだったに違いない。
千紘は一つ浅く息を吐いて、ギウスデスをまっすぐに見つめた。
(確かに、あの頃は曖昧にしか認識できてなかったな……。もちろん今もそこまでしっかり認識できてるわけじゃないけど)
ドラマの撮影でも現時点ではギウスデスは姿を現しただけで、スターレンジャーと戦ったりはしていない。
主役の千紘たちですら、ギウスデスが居城で偉そうに四天王に指示を出しているシーンしか見ていないのだ。
その撮影が行われたのも比較的最近、前回のダイオウイカ事件を解決して帰ってきてからのことである。
ギウスデスが具現化されたのはダイオウイカ事件の時だが、当時監督によってあえて詳しい設定を伏せられていた千紘たちの認識は、『ギウスデスというラスボスがいる』という程度だった。
そのため、ギウスデスの存在がはっきりと具現化されていなかったということらしい。
それから千紘たちが撮影で少しばかり認識を深めてしまったせいで、今のギウスデスは姿が保てるようになってしまっているのだと、千紘には容易に想像できた。
おそらく、香介とノアが召喚された頃には実体を持っていただろう。
「じゃあ俺たちが地球に帰った後も、この世界に存在してたってことか。その頃から教団の準備をしてたんだな」
「そういうことだね。教団は君たちが帰ってから水面下でゆっくり準備していたよ。幹部にする人間を洗脳したり、結構やることは多くてね。まずは数人でもそれっぽい信者がいないと他の信者が増えないからね」
やれやれ、と言わんばかりにギウスデスは肩を
「また随分と手の込んだ教団だな。そんなもん作ってどうするつもりだった?」
問い詰めようとする千紘の声が鋭くなった。
「決まってるだろう? 私の存在はこの世界を支配するためにあるんだよ。そのためにはまず使える駒を増やしておく必要があった。それだけのことさ」
「使える駒……ね。つまり四天王みたいなのを量産しようとしてたわけだ。どうしてノアを利用した? ノア、いやグリーンはお前の敵だぞ?」
眉をひそめる千紘に向けて、ギウスデスは少し困ったように嘆息する。
「信者を集めて駒にしようとしたまではよかったけど、教祖にできるだけの器を持った人間がいなくてね。その辺の適当な者にやらせるわけにもいかないだろう?」
「なら自分でやればよかっただろ。その方が手っ取り早いのにどうしてそうしなかった?」
千紘が訊くと、ギウスデスはまた困った素振りで首を横に振った。
「あいにくと私は表に出たくないのでね。そこで教祖にできる人間が近くに現れるのを待つことにしたというわけだ」
「あくまでも裏から操る黒幕でいたいってか。いかにもお前らしいよ。でも教祖にするのはノアじゃなくてもよかったはずだ」
そう口にする千紘の表情がさらに険しくなった。
「ちょうどグリーンがこの城の近くに召喚されたんでね。眠っていたから、洗脳がしやすかったんだよ。後はグリーンを教祖にすれば、君たちがやって来るかと思ってね」
「まんまとおびき出されたってことか」
ギウスデスの言葉に、千紘は苦虫を
「そういうことになるね。グリーンを手元に置いておけば、いつか必ず君たちが現れるだろうと思ったんだよ」
「要は邪魔者の俺たちをノアで釣って、まとめて消そうとしたわけだ」
たまにリリアによってこの世界に召喚されるスターレンジャーの存在が邪魔だったギウスデスは、スターレンジャーをおびき寄せる
簡単に言ってしまうとそういうことである。
そこで、これまで黙っていた秋斗が一歩踏み込んで、声を低める。
「たったそれだけの理由でノアを洗脳して、教祖に仕立て上げたのか?」
「理由としては十分だろう?」
「人間を一体何だと思ってる!?」
ギウスデスの答えに、秋斗は声を荒げ、さらに一歩踏み出そうとする。それを千紘が腕を掴んで止めた。
「秋斗、今は落ち着け」
「でもこいつがノアの自由を奪って勝手に利用してたんだぞ!? そんなの許せないだろ!」
振り返った秋斗は、今にも泣き出しそうな顔で千紘に
千紘にも秋斗の言いたいことはよくわかっていた。
ノアは記憶がないせいか何でもないように振る舞っているが、今回一番の被害者である。
仲間が利用されていたのだから、正義感の強い秋斗が
「いいから、今は我慢しろ」
「……っ……わかった」
千紘が言い聞かせながら秋斗の震えている両肩を強く掴むと、ようやく秋斗は渋々といった様子で黙り込んだ。
それを見届けてから、改めてギウスデスに視線を投げる。
「何が『侵略者から世界を取り戻す』だよ。『侵略者』は自分の方だろうに」
呆れたように千紘がそう零すと、
「そうかもしれないね」
ギウスデスは千紘や秋斗の言葉を一切気にすることなく、ただくつくつと笑った。
その様に千紘は苛立ちを覚えつつも、改めて口を開く。
「じゃあ四天王は? いつ具現化されたんだ?」
「彼らは、今回君たちが召喚されたタイミングで具現化されたものだよ。彼らもたまたまこの城の近くに具現化されていてね、それを私が回収したんだ。四天王が私の
「そんなわけないだろ。単に俺らに倒されるためだよ。駒としての役目すらも果たしてないしな」
実際にあっさり倒してきたんだから、と千紘がすぐさま否定する。
「もしかしたらそうだったのかもしれないね。でも、それももうどうだっていいことだ」
ギウスデスは否定されてもまだ余裕があるらしく、さらに笑みを深め、続けた。
「さて、君たちはこれからどうしたい? 私を倒すのかね?」
千紘は大きく息を吸う。そのままギウスデスをまっすぐに見据えて一つ頷くと、きっぱりと言い切った。
「この世界にも生きてる者たちがいるんだよ。お前をこのまま放っておくとろくなことにならないだろうからな。これまでお前がドラマで陰からやってきたことを考えればわかる。だから遠慮なく倒させてもらう」
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