第95話 『未知数の強さを持つラスボス』に対抗する術は?
ギウスデスが魔法で作り出したのは、巨大な岩石だった。
直径一メートル以上はあるかと思われるそれは、ギウスデスによって
「みんな
五人は散り散りになって必死にかわすが、間髪入れずに追撃がやってきた。
一つかわすことができても、次から次へと容赦のない攻撃が来るせいで、千紘たちはずっと反撃できずにいる。
ひたすらに駆け回って攻撃を避け続けているだけでは、
先ほどギウスデスが召喚した魔物を倒すのにも少なからず体力を使っているのに、ただ逃げることしかできないことがもどかしい。
「これじゃ攻撃する暇がないな!」
「じゃあ、おれが魔法で頑張ってみる!」
千紘の様子に、秋斗はほんの一瞬だけ苦笑を浮かべたが、すぐに真面目な表情に戻るとそう答えた。
「秋斗、頼んだ!」
「秋斗ちゃん、頑張って!」
「わかった! とりあえず攻撃が止まればいいんだよな!」
千紘と香介の応援を受けた秋斗は足を止めて、迫ってくる岩石を迎え撃つように振り返る。
岩石に向けて突き出した両手を開き、肩の高さで固定すると、そのまま早口で詠唱を始めた。
「聖なる水よ今ここに水流となりて
凛とした声音の後、秋斗の手のひらから水魔法が勢いよく放たれる。
それは太く長い水の塊となり、岩石に向かってまっすぐに伸びていった。
どうやら水で岩石を押し返そうとの魂胆らしい。確かに少しでも押し返すことができれば、攻撃する隙も生まれるだろう。
水の塊が岩石に正面から激突する。空中でぶつかり合う二つの魔法の力は
岩石の飛んでくる勢いを殺し切ることができず、水魔法が逆に押し返されてしまったのである。
「そんなもの効かないよ」
ギウスデスが不敵に笑い、秋斗に向けて大きな岩石をさらに一つ飛ばすと、
「くっそー!」
秋斗は悔しそうに
これまで秋斗のいたところに岩石が直撃し、粉々に砕け散る。
あと少し攻撃を避けるのが遅ければ、確実に秋斗は大怪我をしていた。いや、生きていない可能性の方が高かっただろう。
倒れ込むようにしてやって来た秋斗を支えたノアが、心配そうに声を掛ける。
「秋斗、大丈夫か?」
「全然平気! ノア、心配してくれてありがとな!」
「それならいいけど。今度はオレがやってみるよ」
ノアはほっとしたように息を吐くと、秋斗から離れ、飛んでくる岩石に右手を向けた。赤い石でできた
そのままノアが無詠唱で炎魔法を放つと、右手で作られた大きな火球が、岩石を目がけて飛んでいく。
「無詠唱で魔法使えるっていいなぁ」
その様子をじっと見つめていた秋斗は、心底羨ましそうに呟いた。
足を止めた千紘も、離れた場所から炎魔法を使うノアを見ていたが、すぐさまノアの思惑に気づき目を見張る。
「まさか、炎で丸ごと溶かすつもりか?」
千紘が口にしたとほぼ同時に、火球は岩石に直撃した。
ノアは左手も突き出して、炎を必死に制御している。
だが火力が少し足りなかったようで、一部は溶けたものの完全に溶かすのは無理だった。
「みんなごめん!」
一部だけが溶けた岩石をかわしながら、ノアが大きな声で謝る。
「ノアちゃんが謝ることじゃないわよ! ギウスデスが全部悪いんだから!」
「そうですよ、ノアさんは悪くないです!」
香介と律は口を揃えて、ノアを懸命に励ました。
確かにノアは何も悪くない。むしろ秋斗と一緒に頑張ってくれている。
ただ、ギウスデスの強さの方が上だった、それだけのことである。
それはわかっているのだが、
「何でこんなにめんどくさいんだよ!」
思わず千紘の口からは
「それは君たちの認識のせいだね。もちろんわかってるだろうけど」
けれど千紘の言葉を一切気にする様子のないギウスデスは、そう言いながら目を細めた。
もちろん千紘だって頭では理解できている。
全員がギウスデスを『得体の知れない不気味なラスボス』にプラスして、『未知数の強さを持つラスボス』と認識してしまっているせいで、今まさに苦戦する羽目になっているのだ。
その時である。
「ねえ、千紘ちゃん」
千紘は不思議そうに首を傾げる。
「何だよ?」
「あたしたちはこのまま、ただ逃げ回ることしかできないのかしら?」
その台詞に、千紘は少しだけ考える素振りをみせた。
長剣を持つ千紘だけでなく、刀を使う香介も敵の近くまで距離を詰めないと攻撃ができない。残念ながら、遠距離から攻撃できるような技は持ち合わせていないのだ。
「そもそも攻撃したくても近づけないからな……。あ、そうだ。秋斗!」
眉を寄せてそう答えた千紘だったが、すぐ何かに気づいたのか、少し離れたところにいる秋斗の名を呼んだ。
ちょうどギウスデスの攻撃をかわしたばかりの秋斗は、息を切らしながら返事をよこす。
「なに!?」
「リュックの中に何か使えるアイテムとか入ってないか!?」
「え、リュック? 何かあったかな。ちょっと思い出してみる!」
わざわざリュックを下ろして確認しているだけの余裕がないからか、秋斗は中身を思い出すつもりのようだ。
「何でもいいから早く思い出してくれ!」
もし魔法のかけられたアイテムなどがあれば、突破口になるかもしれない。
そんな期待を込めて、千紘は秋斗の返事を待つ。
ややあって、秋斗が大きな声で答えた。
「ダメだ、使えそうなものは何も入ってない! サンドイッチが入ってるくらい!」
「それで
千紘は反射的に怒鳴ってしまったが、これも別に秋斗が悪いわけではない。
結局、
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