第60話 イカの心臓はどこにある?

「多分、さっき壊した核と同じような感じのやつなんだろうな。ここからじゃ見えそうにないけど」


 どうしたもんかな、と千紘が困ったように頬をき、少し離れた場所からダイオウイカの姿を眺める。


 とりあえず三つめの核を探して壊そう、と意見がまとまった千紘たちだが、まずはその場所を見つけなくてはならない。

 しかし、離れた場所から人間の目で核を探すのは、さすがに難しいように思われた。


 三つめの核もすでに壊した二つと同じく体内にあるのではないか、と予想したまではいいが、あの身体のどこにあるのかが見当もつかない。

 千紘たちから見れば大きい核だが、ダイオウイカの身体と比べればとても小さなものなので、見つけにくいのは当然のことである。


「確かにここからじゃわからないですよね」


 律も表情を曇らせながら、千紘に同意した。


「なあ、秋斗。イカの心臓って、具体的な場所はわかんないのか? もしイカと同じならそこにありそうな気もするけど」


 千紘が背後の秋斗を振り返って訊くと、秋斗は「そうだなぁ……」と何かを思い出そうとするかのように、ちゅうにらむ。

 千紘と律は、秋斗の返答を黙って待った。


 少しして、視線を戻した秋斗がゆっくり口を開く。


「確か、胴体の真ん中辺りだったと思う。あの辺かな。あ、ちなみにイカの頭は腕がついてる方で、胴体は上の大きい方だからな。間違うんじゃないぞ」


 そう答えながら、秋斗はダイオウイカの胴体、その中心辺りを指差した。

 秋斗の指に導かれるように、千紘と律が顔をダイオウイカの胴体へと向ける。


「へー、じゃあ今は頭が下で逆さまになってるってことか。って、そんな豆知識今はいらねーよ……。あ、いや、今だから必要なのか。てことは、結構上にあるな」


 場所をざっと確認した千紘が、納得した口調でうなずいた。


 秋斗が示したのは、目のずっと上の方である。

 目は比較的下の方、海の近くにあるから、胴体はその上方じょうほうになる。今千紘たちがいる地面からだと、空でも飛ばないとそこには辿り着けそうにない。


(スターレンジャーに変身してジャンプすれば、もしかしたら届くか……?)


 千紘はちらりとそんなことを考えた。


 変身すれば身体能力が上がるが、さすがに空を飛べないことはわかっている。スターレンジャーの設定に、そんな便利な能力はないのだ。

 それでも、全力でジャンプすれば、目視で胴体に核があるかどうかの確認くらいはできるかもしれない、と思ったのである。


 だが、千紘は自分が今無意識に考えてしまったことを、すぐに後悔する。


(いやいや! 変身だけは勘弁してくれ! あれは最終手段だ!)


 勢いよく何度も頭を振ると、その恐ろしい考えを懸命に振り払った。


 千紘の隣では、首を傾げた律が、不思議そうな表情で千紘を見つめている。

 それに気づいた千紘は、少し気まずそうに小さく咳払いをすると、


「……まあ何とかして、胴体に核があるかどうか探してみるしかないか」


 冷静を装いながら、ダイオウイカを改めて見上げた。


 どうやら、律はまだ変身できることを思い出していないらしい。

 ならば変身のことは言わないようにしないと、と千紘は心に固く誓う。

 もし、律までが「変身しましょう」などと言い出したら、たまったものではないからだ。


「そうですね」


 千紘の考えていることを知るよしもない律は、真剣な表情に戻ると、素直に首を縦に振った。


「まずは少し近づいてみてからだな。そこから透けて見えればいいんだけど。ここからじゃ全然わかんないしな」

「じゃあ、僕もできるだけ近づいて探してみます」


 千紘が長剣を手に、歩き出す。

 律もダガーを両手に構えると、千紘の後に続いた。


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