第42話 岩を取り除く方法

「せっかくなんだから楽しく行こう! 将棋崩しとかさ、三人でゲームっぽくやったら面白くないか?」

「このサイズで将棋崩しやれってか。そんなことホントにやってみろ。死人が出るぞ」


 ワクワクという言葉が表情に現れている秋斗に、すかさず千紘が釘を刺す。


 そもそもこの大きさでは、将棋崩しみたいに音を立てず岩を取り除くのは無理難題すぎる。


 呆れて溜息を漏らす千紘に向けて、秋斗が「はいはい!」とまた勢いよく手を挙げ、身を乗り出してきた。


「じゃあ、千紘の剣で派手にずばーっと行こう! 多分その剣なら岩くらい簡単に斬れるよな」

「アンタ、全然懲りてねーな……。俺はやだよ。こんなとこで自分一人だけ体力使いたくねー。これから魔物だって出るかもしれないんだぞ」


 またも速攻で拒否する千紘に、恐る恐る手を挙げたのは律だ。


「だったら、少しずつ上から下ろしていくのが一番早いんじゃないですか?」

「まあ、方法としてはそれくらいしかないんだろうな。シンプルだけど、地道にやるのが手っ取り早いか」

「ならそれで行こう!」


 幸いというか、当たり前というべきか、岩山の上の方にはあまり大きな岩は乗っていない。一番上に至っては、千紘たちの拳程度の大きさのものも見受けられた。

 下の方は大きいものを転がすなり、どうにかして持ってきて置いたのだろうが、上まではさすがに乗せられなかったのだろう。


 そんな分析は置いておいて、それほど苦労することなく岩山を退かす方法を決めた三人は、早速行動に移すことにする。

 その時、秋斗が明るい声を上げた。


「あのさ! スターレンジャーに変身した方が力出るし、その方がいいんじゃないか!?」

「……秋斗」


 そわそわした様子の秋斗を、千紘が低い声で思わず睨みつける。しかし、当の本人はどうして睨まれたのかまったく気づいていないようで、ただ不思議そうに首を傾げるだけだ。


「ん? 何、千紘?」

「……はぁ。これくらいなら、別に変身しなくても大丈夫だろ」


 溜息をついた千紘が、秋斗の意見をあっさり却下すると、


「そ、そうですよね!」


 律も慌てたように、千紘に同意してきた。


 どうやら律もここで変身するのは嫌らしく、千紘の陰でこっそり安心しているようだった。



  ※※※



 それから小一時間ほど経って。


「これで、最後!」


 一番大きな岩を三人が一斉に横に大きく転がすと、ようやく階段の姿がはっきりと現れた。

 とはいっても、ただ下の階へと続くだけの、特筆するところもない、石材でできた普通の階段である。


「意外と重労働だったな……」


 額に汗を浮かべた千紘がそう言ってしゃがみ込むと、


「だから変身した方が絶対早かったって!」


 同じく額にかいた汗を腕で拭いながら、秋斗が口を尖らせた。


 確かに秋斗の言う通りだったかもしれないな、と千紘も思うが、今さらそんなことは口が裂けても言えない。


(まあ、変身しないまでも俺の剣で一気に叩き斬るか、秋斗だけ変身して全部やってもらえばよかったか……)


 若い男三人がかりだったので、それほど時間はかかっていない。だが、終わった今になって思えば、かなりの重労働だった。


 律も千紘と秋斗のそばで座り込んで、深呼吸を何度も繰り返している。


 千紘は少々後悔しつつも、ようやく姿を見せた階段に視線を向けた。

 そのまま両手を床に置き、階段に向かってうように進む。数歩で辿り着くと、そこから下を覗き込んだ。


 階段の壁にもランタンがぶら下がっているおかげでそれなりに明るいが、下の様子はここからではまだよくわからない。


「普通、塔ってのは基本的にのぼっていくもんじゃねーのか? 何で下りる羽目になってんだよ。ある意味斬新だな」

「千紘、それは言っちゃダメだって。とにかく先に進もう!」


 階段の先を見下ろしたまま、疲れた声で千紘がぼやくと、秋斗が苦笑する。

 秋斗の言葉に、律も真剣な表情で頷いた。


「そろそろ行かないといけないですよね」

「ほら千紘、行くぞ!」

「……この先はいつ魔物が出てきてもおかしくないもんな」


 秋斗に再度急かすような声を掛けられ、千紘も渋々ではあるが頷く。


 二人の言う通り、このままずっとここで休んでいるわけにもいかないだろう。そんなことは千紘だって重々承知だ。


「念のために抜いておくか」


 千紘はそう言って立ち上がると、腰に下げている長剣に手を伸ばした。


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