第41話 階段を塞ぐ岩山

 この塔はずっと昔からここに存在しているらしく、タフリ村の村長もいつできたのかはさっぱりわからないそうだ。


 皆、あるのが当たり前に育ってきたから、誰も疑問に思わないのだという。


 それと同じように、誰も疑問に思わないことがもう一つ。


「ここにあるランタンがずっと消えないってすごいよな!」


 辺りを見回していた秋斗が、感嘆した声を上げる。


 そうなのだ。ここの壁にぶら下がっているいくつものランタンは、決して消えることがないらしい。


 これも塔ができた時から消えたことがないという話で、誰も何とも思わないそうだが、おそらく魔法の力ではないかと、村長がそのように話していた。


「まあおかげで明るいから、ランタンを持ち歩かなくていいってのはありがたいけどな」

「リリアさんから『念のために』って預かってきましたけど、使わなくていいですもんね」


 秋斗の言葉に、千紘と律も同意しながら頷いた。


「それでもやっぱり、少し不気味な感じはするんだけどさ」


 今度は秋斗が苦笑しながら、少し声のトーンを落とすと、


「確かにな。やっぱり洞窟や塔ってのはそういうもんなのかね」


 珍しくまた同意した千紘が「やれやれ」と両手を上げ、首を左右に振る。


「いくら一本道で明かりがあっても、ここを一人で通るのは嫌だな。何となく怖いし。千紘とりっちゃんがいてくれてホントによかったよ!」

「そりゃどーも」

「少しでも役に立ててるならよかったです」


 どうやら怖がりらしい秋斗にそれぞれが返事をすると、秋斗はさらにほっとしたような表情になった。



  ※※※



 少なくとも五階に魔物はいないようである。


 そのことに安心しながら三人は階段を探そうとするが、すぐに入り口からまっすぐ突き当たったところ――一番奥にそれを見つけることができた。


「リリアさんたちが言ってた通り、全然入り組んでないですね」

「でもこれが螺旋らせん階段だったら、まっすぐ一直線に一階まで行けたんじゃないか?」

「秋斗はそろそろ俺たちにツッコミ入れさせるのやめてくれ。一応真面目に答えとくと、当時はそんなことまで考えてなかったんじゃないか? 後は技術がなかったとか何か他の理由があるのかもだけど、今は別にどうでもいいしな」


 現在はほとんどが隠れてしまっている階段、その前で三人はそんなことをそれぞれ話す。


 階段が隠れてしまっている理由は簡単だ。

 塔に来る前にリリアと村長が話していた通り、『魔物が来れないように塞いだ』からである。


 おそらく急ごしらえで、何も考えず無造作に積み上げたのだろう。下へと続く階段を塞ぐ形で、大きな岩がいくつも、山のようになって積まれている。

 その高さは三人の中で一番身長が高い千紘以上、おそらく二メートルはあるように見えた。


「明らかにここが下への階段だってのはわかるけどさ」


 どうするよ、と千紘が岩山の隙間からちらりと覗く階段に目を凝らし、秋斗と律に問う。


 この岩たちを退かさないと四階には下りられない。そんなことは誰もがわかっている。


「そうだなぁ。とりあえず座って考えるか!」


 秋斗は言うなり、その場にどっかりと座り、考え込む仕草をみせた。


「そうですね」


 律も秋斗の意見に従ってしゃがみ込む。


「それしかないもんな」


 二人の様子に、千紘もおとなしく腰を下ろしてあぐらをかいた。


 階段が目の前にあるのはわかっているのだ。次は、それを塞いでいる岩を退かす方法を考えなければならない。


 そのためには、まずは落ち着いて座った方が楽だし、わざわざ立ったままで相談する必要もないだろう。


 三人ともそんな結論にすぐ至ったのである。


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