第8話 草系男子

日が落ちるけどまだ明るい。

その光景はももうすぐ春が来ることを知らせる。


「なんかこのこの瞬間この時期に見るとなんだか涙があふれるよね」


聖子が涙を流す。


「花粉症?」


そしてムードを壊す恋次。

これが恋次がモテない理由のひとつだ。

でも聖子はそれが慣れっこだった。


だから笑顔で言う。


「ぐーぱんいい?」


「それは痛そう」


「いたくしないよ」


「え?」


「恋次は私専用のぐーぱんされ機だよ。

 誰にも渡さない、私専用のサンドバック」


聖子が笑う。


「いたくしないってもしかして委託の方?」


「正解、よくわかったね」


「やったね、ご褒美は何かな?」


「んー」


聖子が迷う。

でも、恋次は何も期待はしていない。

期待してはいけない。


だって聖子は友達なのだから。


恋次は知っている。


Googleで「友達 恋人 昇格」と検索して上位3つは女の子の悩みだ。


きっと自分は女々しいのだろうと思う。


福山雅治が歌うからかっこいい【はつ恋】という歌。


自分が歌えば。

永遠のはつ恋も。


いやそんなものはない。


はつ恋は一度限り。


次に誰かを好きになれば永遠じゃなくなる。

そして自分の恋は実らない。


伝えなければ誰も傷つかない。

でもバレているかもしれない。


恋次はわかっている。

自分は肉食系男子でもない。

かといって肉食に食べてもらえる草食男子でもない。

自分は草食女子に食べてもらうのを待っている草系男子なのだ。


待つしかできない。

責める勇気もない。


食べたらお腹を壊す草なのだ。

雑草にすらなれない自分が情けなくなる。


自分が何草なのか気になる。

有毒植物といえばトリカブトとかかっこいいかも知れない。

でも、そんなメジャーな存在じゃない。


きっとメジャーになれてもブタクサとかだろう。

これからの季節、きっとヒノキかも知れない。


きっとヒノキだろう。


決して嬉し涙には変わらない花粉なのだ。


そう思って落ち込む恋次なのであった。

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