第33話 洋の死

 ひろしの父親は頭を痛める。

 赤壁の家の呪いが普通でないことは、お祓いをしてくれる寺を探す時に知れた。

 しかし、実際に住職が死ぬところを見るとどうしていいのか分からなくなる。

 洋たちは震え、落ち込んでいる。

 父親はネットで赤壁の家について調べ始める。

 ほとんどが玄関の黒い影と居間のポルターガイストについて書かれているだけである。


 大和やまとは、父親に肝試しのことを話す

   「父さん、俺たち日曜日の夜、赤壁の

    家で肝試しをしたんだ。」

   「それで、帰りが遅かったのか。」

   「はい、俺たちは一番奥の部屋まで行

    ったんだ。」

   「噂の部屋か、何があった。」

   「頭の中に声が聞えてきた、少女の声

    だよ。」

   「なんて言っていたんだ。」

   「最初はお前、次はお前、その次はお

    前、最後にお前と言っていた。」

   「お前は何番目だ。」

   「2番目、1番目が洋で、3番目が

    日向ひなた、最後が博人ひろとだよ。」

   「そうか、お祓いをしよう。」

   「今日、しようとしたんだ。」

   「出来なかったのか。」

   「お祓いをしようとした和尚様が死ん

    でしまった。」

   「そうなのか。」

父親は黙り込み考える。

 そして、洋の父親に電話する

   「こんばんわ、佐藤さとうです。」

   「鈴木すずきです、お世話になっていま

    す。」

   「洋君に肝試しの件聞いています

    か。」

   「はい、今日お祓いに行きました。」

   「失敗したのですね。」

   「ええ、住職が亡くなりました。」

   「何か、次の手はありますか。」

   「分かりません。」

   「私にもどうしたらいいのか分かりま

    せん。」

   「そうですか。」

   「私も考えてみます。」

大和の父親は電話を切る。


 日向も父親に肝試しのことを話す。

   「お父さん、僕たち、洋、大和、博人

    との4人で肝試しに行ったんだ。」

   「どこへ行ったんだ。」

   「赤壁の家だよ。」

   「何かあったのか。」

   「一番奥の部屋で頭の中に少女の声が

    聞えてきました。」

   「なんて言っていた。」

   「最初はお前、次はお前、その次はお

    前、最後にお前と言っていた。」

   「お前は何番目だ。」

   「3番目、洋、大和、僕、博人の順で

    す。」

   「どうしたらいい。」

   「今日、お祓いに行ったんだ。」

   「どうだった。」

   「和尚様、死んでしまった、これまで

    にも赤壁の家に呪われた人をお祓い

    しようとして死んだ人いるみた

    い。」

   「そうか、どうすればいいんだ。」

父親は考え込む。

 すると大和の父親から電話がかかって来る

   「こんばんわ、佐藤です。」

   「木村きむらです、こんばんわ。」

   「日向君に肝試しの件聞いています

    か。」

   「はい、今聞いたところです。」

   「何か良い手はないかと思いまし

    て。」

   「お祓いダメだったそうですね、考え

    込んでいたところです。」

   「そうですか、また電話します。」

大和の父親は電話を切る。


 博人は両親が仕事で別の所に暮らしているため、1人である。

 彼はネットで赤壁に家について調べる。

 しかし、ほとんどが玄関の黒い影と居間のポルターガイストについて書かれているだけである。

 彼は粘り強く検索していくが一番奥の部屋について書かれているものがない。

 彼は疑問に思う、町の人ならほとんどの人が一番奥の部屋について噂を聞いているはずであるが、ネットでは知られていないのである。


 火曜日の朝、洋、大和、日向、博人の4人は登校する。

 さくらが洋に声をかける

   「昨日、連絡なかったけど、お祓いど

    うだった。」

   「ダメだった、和尚様が死んでしまっ

    たんだ。」

さくらは青くなり

   「どうするの。」

   「分からない、このままだと明日死ぬ

    かもしれない。」

   「そんなの嫌だよ。」

さくらは泣きそうになる。


 洋の父親はお祓いをしてくれるところを探し始める。

 そして大和の父親にも電話する

   「鈴木です、今よろしいでしょう

    か。」

   「はい、どうぞ。」

   「私はもう一度、お祓いをしようと思

    います。」

   「はい、あてはありますか。」

   「ありません、してもらえるところが

    あるのか分かりません。」

   「なら、私も探してみます。」

2人はお祓いしてくれるところを探すことになる。

 洋の父親は割と近くの寺を当たっている。

 しかし、赤壁の家について話し始めると断られてしまう。

 大和の父親は割と遠くの寺を探す。

 洋、大和、日向、博人の4人は話し合う。

 洋が言う

   「このまま死んでしまうのかな。」

大和が応じる

   「お父さんに話をしたから、何か手を

    考えてくれるよ。」

日向も言う

   「僕もお父さんに話したんだ、何とか

    なるよ。」

洋は聞く

   「何かって、何があるんだ。」

大和と日向は黙り込む。

 博人が話す

   「昨日、ネットで赤壁の家について調

    べたんだ。」

   「どうだった。」

洋が聞く。

   「玄関の黒い影と居間のポルターガイ

    ストについて書かれているだけだっ

    た。」

博人は答え、質問する

   「町の人ならほとんどの人が一番奥の

    部屋について噂を聞いているはずな

    のに、ネットでは出てこないんだ、

    おかしくはないか。」

洋が言う

   「怖くて、みんな、奥まで行けないん

    じゃないのか。」

大和が異論をはさむ

   「俺たちは行ったよな、全くないとい

    うのはおかしい。」

日向が言う

   「それより。呪いを解く方が大事だ

    よ。」

   「そうだな、ネットで調べてみる

    よ。」

博人が答える。

 その頃、大和の父親がお祓いしてくれるところを見つける。

 常光寺じょうこうじ井本俊良いもとしゅんりょうである。

   「佐藤と言います、お願いがあるので

    すが。」

   「何でしょう。」

   「息子たちをお祓いして欲しいので

    す。」

   「何かあったのですか。」

   「息子たちは赤壁の家と言う心霊スポ

    ットに行って呪われてしまったので

    す。」

   「どうして呪いだと。」

   「昨日、お祓いをした和尚様が亡くな

    りました。」

俊良は手が震える

   「その赤壁の家で何があったので

    す。」

   「息子たちは頭の中に聞こえる声を聞

    きました。」

   「なんと言っていたのですか。」

   「最初はお前、次はお前、その次はお

    前、最後にお前と言っていたそうで

    す。」

   「そうですが命がけですね。」

   「はい、お願いできないでしょう

    か。」

俊良にはこれまでお祓いを何回かした経験がある

   「分かりました、いつにしましょ

    う。」

   「明日、朝出発しますので、昼頃はど

    うでしょう。」

   「お待ちしています。」

俊良は引き受けることにする。

 大和の父親は洋の父親に連絡する

   「鈴木さんですか、見つかりまし

    た。」

   「本当ですか。」

   「はい、そこは遠いので明日の朝出発

    しましょう。」

   「ありがとうございます。」

明日の朝7時に洋の家に集まることになる。

 その夜、洋はさくらにLINEで連絡する

   お祓いしてくれるところが見つかっ

   た。

   良かった、一安心ね。

   もし俺が助かったら、付き合ってほし

   いけど、ダメかな。

   いいよ。

   ありがとう、助かるのを楽しみにする

   よ。

洋はさくらに告白する。


 水曜日の朝、洋の家に洋たち4人と洋の父親、大和の父親が集まる。

 4人は2台の車に分乗する。

 車は高速道路を使って4時間近くかけて常光寺に着く。

 6人が境内に行くと俊良が待っている

   「こんにちは電話をした佐藤です。」

   「井本俊良です。」

洋の父親が質問する

   「この前お祓いをした和尚様が亡くな

    っているのですが大丈夫ですか。」

   「はい、私は何度かお祓いをしたこと

    があります。」

   「そうですか。」

洋の父親は安心する。

6人は本堂に入ると正座する。

俊良はお経を始める。

 しばらくすると本堂の畳の上に黒い穴が開く。

 穴から2本の手が出てくる、手は青白く小学生の高学年くらいの小さな手だ。

 続けて腕がズルズルと出て来る、その腕は細く短い。

 手がビタビタと穴の周りをたたいて探る。

 俊良のお経が止まる、声が出ないのである。

 彼はゆっくりと振り返る。

 そこには畳に黒い穴が開き青白い腕が2本出てきている。

 彼の顔に冷や汗が浮かび、何か言いたそうに指で穴を指す。

 正座をしていた6人は何が起こっているのか分からない。

 指さす所を見ても何もない。

 呪いはさらにズルズルと出てくる黒髪のおかっぱ頭が出てくる。

 顔は少女の顔をしているが青白く、目は黒い虚空になっている。

 口は半開きで

   「ああああああ」

 とうめき声を出す。

 さらに肩、胸と続けて出てくる。

 俊良は逃げようとするが体が動かない。

 洋の父親と洋、大和、日向、博人は、この前と全く同じだと思う。

 俊良の顔が恐怖に歪む。

 彼は呪いがこれほど強力だとは思っていなかった。

 少女の形をした呪いは足まで穴から出る。

 呪いは立つことも四つん這いになることもなく腹ばいのまま俊良の方へ這いずっていく。

 手が彼の足に触れる、手は冷水のように冷たい。

 呪いの手が彼の足を掴む、さらに体に掴まりながらズルズルと上がって来る。

 そして、呪いの頭が彼の顔の所へ来る。

 黒い虚空の目が彼を見る。

 彼は魂を抜かれるように倒れる。

 大和の父親が声をかける

   「俊良さん、大丈夫ですか。」

彼はすでに死んでおり、何の反応もない。

 洋の父親は頭を抱える。

 どうしたらいいのか分からないのである。

 6人は沈んだ気持ちで車で家に向かう。

 洋はさくらに連絡する

   お祓いダメだった。

   どうするの。

   分からない。

   居なくなるよいやだよ。

   俺も死にたくない。

   死なないで。

   別れる前に伝えるね、好きだよ。

   明日、自分の口で言って。

   分かった。

洋は何とか明日まで生きたいと願う。


 帰宅後、洋の父親は母親に事情を説明する。

 母親は今晩、洋が死ぬかもしれないことに困惑する。

 夕食後、洋は自分の部屋へ行く。

 両親は居間にいる

   「どうしてこんなことになるの。」

母親はつぶやく。

 父親は黙っている。

 夜10時頃、洋の部屋の床に黒い穴が開く。

 穴から2本の手が出てくる、手は青白く小学生の高学年くらいの小さな手である。

 洋は気づき、叫ぶ

   「うわああぁー」

両親は洋の部屋に行く。

 洋が床を指さす。

 しかし、両親には見えない。

 穴から引き続き腕がズルズルと出てくる

 洋は声が出なくなり、動けなくなる。

 呪いはさらにズルズルと出てくる黒髪のおかっぱ頭が出てくる。

 顔は少女の顔をしているが青白く、目は黒い虚空になっている。

 口は半開きで

   「ああああああ」

 とうめき声を出す。

 さらに肩、胸と続けて出てくる。

 両親は洋を部屋から出そうとするが床に吸い付いているかのように動かない。

 少女の形をした呪いは足まで穴から出る。

 呪いは立つことも四つん這いになることもなく腹ばいのまま洋の方へ這いずっていく。

 手が彼の足に触れる、手は冷水のように冷たい。

 母親は泣きだす

   「どうして動かないの。」

 呪いの手が洋の足を掴む、さらに体に掴まりながらズルズルと上がって来る。

 そして、呪いの頭が彼の顔の所へ来る。

 黒い虚空の目が彼を見る。

 彼は魂を抜かれるように倒れる。

 母親は声をかける

   「洋、洋、返事をして。」

 父親は救護隊へ連絡する。

 しかし洋は何の反応も示さない。

 両親は泣き続ける。

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