第32話 法進のお祓い

 ひろしは帰宅すると父親に話をする

   「こんなに遅くにどこに行っていたん

    だ。」

   「ごめんなさい、友達と4人で肝試し

    に行っていたんだ。」

   「例の赤壁の家か。」

   「はい。」

   「どうせすぐに引き返してきたんだろ

    う。」

   「いいえ、一番奥の部屋まで行きまし

    た。」

   「そうか、大したものだ、いや、危な

    いからやめなさい。」

   「それで、お願いがあります。」

   「何だ、言ってみなさい。」

   「お祓いをお寺にお願いして欲しいの

    です。」

   「何でだ、怖い想いでもしたか。」

   「はい、一番奥の部屋で声を聞きまし

    た。」

   「なんて言っていた。」

   「最初はお前、次はお前、その次はお

    前、最後にお前と少女の声で言って

    ました。」

   「お前は何番目だ。」

   「1番目です。」

   「何が起こるか分かっているのか。」

   「分かりません、でも去年、ユーチュ

    ーバーが一番奥の部屋へ行って3日

    後に死んでいるそうです。」

父親は考え込む

   「分かった、今夜は遅いから明日、時

    間を見て貞観寺じょうがんじに電話して頼んでみ

    るよ。」

   「おとうさん、ありがとう。」

洋は父親に感謝する。

洋はLINEでさくらに連絡する

   一番奥の部屋に行ってきた

   凄いね、負けたよ

   でも変なことがあったんだ

   何?

   明日、話すよ

さくらは気になったが明日聞けばいいと思う。


 月曜日の朝、教室でさくらが洋に話しかける

   「昨日何があったの。」

   「俺たちは一番奥の部屋まで行ったん

    だ、そこで声を聞いた。」

   「どんな声。」

   「少女の声だと思う、頭の中に聞こえ

    てきたんだ。

   「気持ち悪い、なんて言っていた

    の。」

   「最初はお前、次はお前、その次はお

    前、最後にお前と言っていた。」

   「順番はどうなっているの。」

   「俺、大和やまと日向ひなた博人ひろとの順だよ。」

   「一番初めじゃない、どうするの。」

   「お祓いをしてもらう。」

   「そうなんだ。」

   「でも去年、ユーチューバーが一番奥

    の部屋へ行って3日後に死んでいる

    そうなんだ。」

   「えっ、死んだの。」

   「うん、もしかすると死ぬかもしれな

    い。」

   「そんなの、いやだよ。」

   「まだ分からないよ。」

   「そうね。」

さくらは不安になる。


 洋の父親は仕事の合間を使って貞観寺に電話をする。

 電話には亡くなった定海ていかいの息子長海ちょうかいがでる

   「鈴木です、お世話になります。」

   「鈴木さん、いつもお世話になってお

    ります、今日はどんな用件でしょう

    か。」

   「お祓いをお願いできないでしょう

    か。」

   「お祓いですか。」

   「息子をお願いします。」

   「どのような事情でしょうか。」

   「息子が赤壁の家へ行きまして、変な

    声を聞いたのです。」

長海の顔色が変わる

   「それで何かあったのでしょうか。」

   「声は最初はお前、次はお前、その次

    はお前、最後にお前と言っていたそ

    うです。」

   「あの、申し訳ありませんが引き受け

    ることはできません。」

   「どうしてですか。」

   「3年前、父が亡くなったのはご存じ

    だと思います。」

   「心不全だと聞いています。」

   「違うのです、お祓い中に呪い殺され

    たのです。」

   「それは本当ですか。」

   「その時、赤壁の家の一番奥の部屋に

    行った高校生をお祓いしようとした

    のです。」

   「そうですか。」

洋の父親は青くなる

   「息子はどうしたらいいのですか。」

   「分かりません、私には無理です。」

洋の父親にとって思いがけない話である。

 彼は仕事を早退する。

 そして、お祓いをしてくれる寺を探し始める。

 隣町の威徳寺いとくじに連絡を入れる

   「鈴木と言います、お願いがあるので

    すが。」

   「どうしたのですか。」

   「息子をお祓いして欲しいのです。」

   「何があったのですか。」

   「息子が赤壁の家の一番奥の部屋に行

    ったのです。」

   「申し訳ありません、お祓いはできま

    せん。」

   「なぜですか、2年前、ここの住職は

    呪い殺されています。」

   「呪いですか。」

父親は冷や汗をかく

   「はい、赤壁の家の一番奥の部屋で呪

    われた大学生をお祓いした時で

    す。」

   「その大学生はどうなりました。」

   「死んだそうです。」

父親は目の前が暗くなる。

 父親はネットで寺を探し始める。

 しかし、噂が広がっているのかお祓いを断られる。

 また、勝川寺かちがわじでは2年前に赤壁の家の関わったお祓いで住職が亡くなっている。

 そんな中、お祓いをしてくれる寺が見つかる。

 川原寺かわはらじ法進ほうしん和尚である

   「鈴木と言います、お願いがあるので

    すが。」

   「どうしました。」

   「息子をお祓いして欲しいのです。」

   「何があったのですか。」

   「息子が肝試しで赤壁の家の一番奥の

    部屋に行ったのです。」

   「そこで何がありましたか。」

   「変な声を聞いたのです。」

   「どのような声ですか。」

   「声は最初はお前、次はお前、その次

    はお前、最後にお前と言っていたそ

    うです。」

   「そうですか、それは心配ですね。」

   「あの、息子の友だちもよろしいでし

    ょうか。」

   「構いませんよ。」

   「それでいつ、していただけます

    か。」

   「早い方がいいでしょう、今日の放課

    後に来られますか。」

   「はい6時でどうでしょう。」

   「分かりました。」

父親は一息つく。

 洋の携帯に父親から連絡が来る。

 洋は大和、日向、博人に放課後、お祓いすることになったことを知らせる。

洋はさくらに話しかける。

   「お祓い決まったよ。」

   「本当、良かった。」

   「放課後に行くことになったよ。」

   「成功を祈っているわ。」

さくらは安心する。

 放課後、洋、大和、日向、博人の4人は一緒に下校する。

 洋の家では父親が待っている。

   「いらっしゃい。」

   「ただいまー」

   「お願いします。」

5人は挨拶をする

   「さあ、車に乗って。」

   「お父さん、貞観寺ではないの。」

   「車の中で話すよ。」

5人は車に乗る。

 父は洋に話す

   「3年前、定海さんか亡くなっただ

    ろ。」

   「覚えているよ。」

   「あれ、赤壁の家の呪いで死んだそう

    だ。」

父の話に4人は青くなる。

   「いろいろ調べてお寺に電話路かけ続

    けたんだ。」

   「そうなんだ。」

   「みんな、赤壁の家と言うだけでお祓

    いを断られたよ。」

   「でも、見つかったでしょ。」

   「そうだ、他にも2つの寺で赤壁の家

    の呪いのために住職が死んでいるん

    だ。」

4人は震えが来て心配になる

   「俺たち死ぬの。」

洋が聞く

   「分からない。」

父は答える。

 車で1時間程走ると川原寺に到着する。

 境内に入ると法進和尚が待っている

   「鈴木さんですね。」

   「はい、よろしくお願いします。」

父親が答える。

 4人も挨拶をする

   「本堂に入ってください。」

5人は本堂に入り正座する。

 法進和尚が言う

   「気持ちを落ち着けてください、そし

    て霊の成仏を願ってください。」

そして、お経が始まる。

 しばらくすると本堂の畳の上に黒い穴が開く。

 穴から2本の手が出てくる、手は青白く小学生の高学年くらいの小さな手だ。

 続けて腕がズルズルと出て来る、その腕は細く短い。

 手がビタビタと穴の周りをたたいて探る。

 法進和尚のお経が止まる、声が出ないのである。

 和尚はゆっくりと振り返る。

 そこには畳に黒い穴が開き青白い腕が2本出てきている。

 和尚の顔に冷や汗が浮かび、指で穴を指す。

 正座をしていた5人は何が起こっているのか分からない。

 指さす所を見ても何もない。

 呪いはさらにズルズルと出てくる黒髪のおかっぱ頭が出てくる。

 顔は少女の顔をしているが青白く、目は黒い虚空になっている。

 口は半開きで

   「ああああああ」

 とうめき声を出す。

 さらに肩、胸と続けて出てくる。

 和尚は体が動かない。

 5人は和尚が発作を起こしたと思い、寝かせようとするが彼は固まってしまい畳に吸い付いているように動かない。

 彼の顔が恐怖に歪む。

 少女の形をした呪いは足まで穴から出る。

 呪いは立つことも四つん這いになることもなく腹ばいのまま和尚の方へ這いずっていく。

 手が和尚の足に触れる、手は冷水のように冷たい。

 洋の父親が救護隊に連絡する。

 呪いの手が和尚の足を掴む、さらに体に掴まりながらズルズルと上がって来る。

 そして、呪いの頭が彼の顔の所へ来る。

 黒い虚空の目が和尚を見る。

 彼は魂を抜かれるように倒れる。

 洋の父親が呼びかけるが反応はない。

 救護隊が駆けつけ和尚を病院に搬送するが手遅れである。

 洋の父親は呆然ぼうぜんとなる。

 洋たち4人は和尚の死に顔に震える。





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