第28話 美月の解呪

 美月みつき咲子さきこは夕方前に陣の中に入る。

 そして、午後7時を過ぎたころ。沙也加の事務所に異変が起こる。

 事務所の床に黒い穴が開き、その中から2本手が出てくる。

 これは霊の見えない咲子にも見えているのである。

 美月は声を出さないように咲子に指示する。

 咲子は1人なら恐怖のあまり叫んでいたに違いない、だが今は必死にこらえている。

 それは青白くやせ細っている。

 ズルズルゆっくりと腕が出てくる、手はビタビタと穴の周りを探る。

 そして、頭が出てくる、黒いばさばさの長髪である、目は黒い虚空になっている、口からは

   「ああああああ」

とうめき声が聞える。

 咲子は体が動かなくなる。

 さらにズルズルと這い出して来る、やせ細った肩、あばらの浮き出た胸が穴から這い出てくる。

 それは足まで完全に事務所内に出るが、立つことも四つん這いになることもなく腹ばいになりながらズルズルと這いずる。

 動きは緩慢だが何か探しているようだ。

 咲子は声を出すのを必死にこらえているが、恐怖のあまり目から涙が出ている。

 美月は呪いが予定していたより早く出てきたので沙也加たちが帰るまで陣がもつか心配である。

 しかし、自分が作れる最強の陣である、持たなければ五條の名に傷がつく。

 携帯の連絡は、解呪の前に呪いに気取られるので使うことが出来ない。

 少なくとも1日半は陣をもたせなければならないのである。

 美月と咲子は陣の中で頑張り続けることになる。

 呪いは事務所のあちらこちらをズルズルと這いずりまわっている。

 咲子は陣に呪いがぶつかったらどうなるのか心配だが声を出せないので美月に聞けない。

 そして呪いが、陣に向かって這いずって来る。

 とうとう呪いは陣にぶつかる

   「ああああああ」

うめき声をあげながら、陣にビタビタと触る。

 美月はとうとう陣に気づかれてしまった、後は時間との戦いだと考える。

 呪いは陣に入ることが出来ず陣にビタビタとまとわりつく

「うあああああ」

と声を上げると手を陣に沿って上に上げ始める。

 ズルズルと腕を上げ、肩、胸と陣に沿って上がっていく

 さらに腹、腰と上がる。

 人間の動きではない。

 おぞましい動きに美月は青くなる。

 そして足がズルズルと上がっていく。

 咲子は立ち上がった呪いを見てもう限界だと思うが美月が口をふさぐ。

 しかし、彼女は声が出ない。

 彼女は顔が恐怖に歪み、泣き続ける。


 みおと沙也加さやかさん、中野なかのは再び列車を使って事務所へ向かう。

 途中、ビジネスホテルに泊まる。

 今回も沙也加さんと中野は同じ部屋になる。

 そして次の日の昼近く沙也加たちは帰って来る。

 沙也加さんと中野は事務所の中の光景を見て、呪いの姿に寒気を覚える。

 みおは間に合ってホッとする。

 美月は沙也加たちを認めると懐から呪具を出して咲子の頭をたたく。

 1回、2回、3回、4回、5回と叩くがみおには歪んだ顔が叩くたびに変化して見える。

 そして5回目咲子は元の顔に戻る。

 すると呪いはズルズルと黒い穴に足から入って行く。

 そして、黒い穴は消える。


 沙也加たちが事務所に入って来る。

 直ぐ、美月は中野の顔色が悪いことに気づく

   「たすく様、どうなさいました。」

   「ちょっと血を流しすぎまして。」

中野が答える

   「そんな危険な仕事辞めて、私と組み

    ましょう。」

   「たすくは私の物よ。」

沙也加さんが割り込む

   「僕は沙也加が好きです。」

中野ははっきり言う。

 しかし、美月は

   「なら、妾にしてください、子種さえ

    いただければ文句はありません。」

と爆弾発言をする。

   「私のたすくを汚さないで!」

沙也加さんは叫ぶ。

 みおは参加したかったがちょっと恥ずかしい、決して中野に興味がないわけではない。

 あまりの恐怖に放心状態の咲子は放置されている。


 しばらくして、咲子は気が付く、騒々しい事務所を見て理解できずにいる。

 みおが咲子に話しかける

   「顔元に戻ったよ。」

   「顔って。」

   「咲子、呪われているとき顔が歪んで

    見えていたの。」

   「そうなんだ、私助かったのね。」

   「そうよ。」

咲子は緊張の糸が切れみおに抱き着き泣き出す。

 美月は沙也加さんに質問する

   「怨霊はどうだった。」

   「強かったわ、私1人なら死んでいた

    わ。」

   「たすく様に助けられたのね。」

   「そうよ、悪い。」

   「悪くはないわ。」

   「ならいいけど。」

   「私、あなたからたすく様をとったり

    しないわ。」

   「本当に。」

   「たまに貸してくれるだけでいい

    の。」

   「ダメよ。」

   「たすく様のことが業界に知れ渡れば

    どうなるか分かるでしょ。」

   「私が守ります。」

   「五條が付いていればどうかしら。」

   「それで子種が欲しいの。」

   「そうよ、たすく様は貴重だから。」

   「納得いかないわ。」

   「よく考えておいて。」

陽の光を出す中野は貴重な存在である。

 もし、知れ渡れば誘拐されることも考えられる。

 沙也加は中野を守る方法を考える。


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