第26話 沙也加と美月

 みおと咲子さきこが事務所を訪れてから直ぐ。

 沙也加さやかさんの事務所に全身を黒色の衣装で包んでいる妙齢の女性が訪れる。

 女性は機嫌良さそうに

   「たすく様いますか。」

と言うが、咲子を見ると真剣な顔になり

   「あなた、呪われているわよ。」

と言い出す。

咲子が女性に聞く

   「分かるのですか。」

   「ええ、2、3日と言うところね。」

   「2、3日とは。」

   「あなたが死ぬまでの時間よ。」

咲子の顔が青くなる。

 みおは沙也加さんに聞く

   「こちらの人は誰ですか。」

   「こちらは五條美月ごじょうみつきよ、呪い屋をやっ

    ていて、たすくにちょっかいを出し

    ているの。」

沙也加さんは迷惑そうに言う。

 みおは五條で呪い屋と言うことに五條樹ごじょういつきを思い出す、いずれにしても五條家の人間に間違いない。

 みおは美月に自己紹介する

   「私は一条いちじょうみお、隣は友人の咲子で

    す。」

美月はみおの名前を聞いて、この子が樹の言っていた霊が見える子ねと思い。

 赤壁の件を思い出す。

 沙也加さんが美月に聞く

   「あなたなら何とかできますか。」

   「ええ、できるけど、元をたたいてか

    らでないと無理ね、これ怨霊の仕業

    よ。」

   「まずは事情を咲子さんに聞きまし

    ょ。」

美月はおおよその事情は予想できたが本人に聞くことにする。

 咲子が話始める

   「私は友達と4人で肝試しに行きまし

    た。」

   「どこに行ったの。」

美月が聞く

   「赤壁の家です。」

美月は昨年のことを思い出す、家長代行の五條樹が失敗しているのだ。

樹は失敗の責任をとって家長代行を辞めている。

旧知の草薙純教くさなぎじゅんきょうは怨霊に敗れて亡くなっている。

ここで、赤壁の家が関わってくるとは思っていなかった。

美月は家長として2度目の失敗は許されない。

沙也加には頑張って怨霊を除霊してもらうしかない。

   「何がありましたか。」

   「玄関に黒い影がいて、居間ではソフ

    ァーが飛んできました、台所では包

    丁が飛んできました。」

   「それだけですか。」

   「いいえ、一番奥の部屋に入ると若い

    女の声で頭の中に声が聞えてきまし

    た。」

   「なんと言っていましたか。」

   「最初がお前、次がお前、その次がお

    前、最後にお前と言っていまし

    た。」

   「咲子さんあなたは何番目ですか。」

   「最後です。」

美月は震えが来る、既に3人死んでいるかもしれないのだ。

   「あなたたちは何かしましたか。」

   「お祓いを2回しました。」

   「どうなりましたか。」

   「お祓いをしようとした2人が死にま

    した。」

   「他の友だちはどうなりましたか。」

   「2人呪い殺されました、1人は自殺

    しました。」

美月は樹から報告を受けていたが、自分が対処するとなると冷や汗が出てくるのを感じる。

沙也加も予想外の惨状に青くなる。

沙也加は除霊はかなり危険だと判断するが放っておけないと考える。

沙也加さんは美月に聞く

   「時間稼ぎはできますか。」

   「1日ならば、できるわよ。」

   「分かりました、怨霊は私たちが何と

    かします。」

   「美月さんには、その子の保護と解呪

    をお願いします。」

   「分かりましたけど、私は高いわ

    よ。」

美月が答える。

咲子は五條家は代金が高いと聞いていた。

彼女は父親に事情を話し、依頼料を祓ってもらえることになる。

美月は五條樹に電話する

   「赤壁の家の呪いを扱うことになった

    わ。」

   「どうして、そのようなことに。」

   「たぶん先日、樹が電話で話した子

    よ。」

   「なんてことだ、私が向かいましょう

    か。」

   「私に恥をかかすの。」

   「すみません。」

   「私は2、3日動けないからよろしく

    ね。」

   「祓い屋は、沙也加ですか。」

   「そうよ。」

   「他にはいないですから。」

   「これは沙也加に来た依頼よ。」

   「そうですか、ご無事を祈っていま

    す。」

   「ありがとう。」

美月は電話を切る。


 美月は陣を作る準備に入る。

 彼女は事務所の家具をどかせる。

 そして、事務所の床に円を描き中に文字のような模様を描く、さらに外側に円を描き内側に文字のような模様を描く。

 相手は強力な呪いである美月の使える一番強力な陣を張る。

 沙也加さんが美月に聞く

   「随分、厳重な陣を作るのね。」

   「相手は強力な呪いよ、これでもやぶ

    られるかもしれないわ。」

美月は昨年この呪いを五條家で扱っていることを言わない。

 そして、咲子に言う

   「沙也加たちが戻るまでこの中にこもるわよ、何があっても声を出さないでね。」

   「はい。」

   「声を出すと。」

   「呪いに気づかれるわ。」

   「分かりました。」

美月と咲子は食事をすることにする。

 食事中、咲子は美月に聞く

   「五條樹さんを知っていますか。」

   「ええ、私の血縁よ。」

   「そうでしたか。」

   「あなたはなぜ五條を知っていた

    の。」

   「小池清純こいけせいじゅんさんに教えてもらいまし

    た。」

   「あなた、祓い屋を探していたの

    ね。」

   「はい。」

   「安心していいわ。」

   「沙也加は私の知る中で最強の祓い屋

    よ。」

   「そうなんですか。」

   「少し型破りだけどね。」

   「変わり物と言うことですか。」

   「本人に聞いて、実力者よ。」

 2人が陣に入るのは明日である。


 みおは沙也加さんと中野と赤壁の家へ列車を使って向かう。

 1日ではたどり着けないため、途中、ビジネスホテルに泊まる。

 沙也加さんと中野は同じ部屋に泊まる。

 みおは沙也加さんと中野の中が進展していることに驚く。

 彼女は中野に興味があったのだ、これはショックだが顔には出さない。

 翌日、列車を乗り継いで、夕方、坂井さかい町に着く。

 みおは赤壁の家へ沙也加さんと中野を案内する。

 彼女は久しぶりに赤壁の家を見る。

 家は真っ黒な塊になっている、1年前は黒い靄に包まれているだけだったのに彼女は驚きを隠せない。

 同時に彼女は、これから除霊をする2人を心配する。

怨霊は1年前より強力になっているのだ。

   「なにこれ。」

沙也加さんがつぶやき、中野と手をつなぐ

   「真っ黒で家が見えなくなっています

    ね。」

   「三角の家の時よりひどいですか。」

   「ええ、こちらのがかなりひどい

    わ。」

沙也加はこんなに強力な相手とは想像外である、呪いの強さから強力な怨霊であることは予想をしていたが、これは論外である。

 さらに複数の悪霊がいるのである。

 彼女はできれば引き返したかった、しかし、美月が除霊を待っている、逃げることは許されない。

 沙也加は赤壁の家から離れた所に三角形を描き、中に梵字のような模様を入れる

   「一条さんはこの中に入って待ってい

    て、決して出てはだめよ。」

   「は、はい。」

みおは沙也加に言われたとおりに従う。

 彼女は沙也加さんが草薙純教と重なって見える。

 1年前純教は戻ってこなかった、怨霊に敗れたのである

   「必ず戻ってきてください。」

みおは涙ぐみ、沙也加さんに言う

   「分かっているわ。」

   「お願いします。」

   「行ってきます。」

みおは沙也加と中野の無事を祈る。


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