第22話 義行の護摩祈禱

 早苗さなえの部屋に4人が集まる。

   「どうしたらいいと思う。」

早苗が切り出す

   「やはり、霊能者に頼んだ方がいい

    よ。」

恵子けいこが言う

   「それがいいと思う。」

あやが言う

   「誰か良い霊能者、知っているの。」

咲子さきこが尋ねる、彼女は並の霊能者では通用しないと考えている

   「それは分からない。」

恵子が答える

   「とりあえず調べて連絡してみましょ

    う。」

早苗が言い、3人が同意する。

 4人はネットで調べては、連絡をしてみる。

 しかし、赤壁の家と聞いてだけで断る者や法外な報酬を要求する者が多い。

 半日かけて続けたが霊能者は決まらない。

 咲子が提案する

   「家で調べてリストを作って、明日集

    まりましょう。」

   「そうね。」

   「調べないと良い人見つかりそうにな

    いわ。」

   「明日、また私の家に午前10時でど

    お。」

と明日再び集まることになる。


 家で咲子はインターネットで赤壁の家関連の霊能者を調べる。

 佐伯哲也さえきてつやの情報が載っているのを発見する。

 彼は昨年、赤壁の家の除霊に失敗し重傷を負っている。

 他にはやはり、除霊を断られた話が多い。

 そんな中、一番奥の部屋について書かれている書き込みを見つける。

 書き込みには

   これを読んで赤壁の家には近づかない

   ようにしてください。

   私たち3人は、ポルターガイストなど

   にあいながら奥の部屋にたどり着きま

   した。

   そこで頭の中に響く声を聴きました。

   それは1人づつ呪い殺す順番を告げる

   ものでした。

   私の他の2人は既に死んでいます。

   死に顔は恐怖で歪んでいました。

   私たちは呪いを解くためにお祓いをし

   たり、霊能者を頼ったりしましたが全

   て無駄に終わりました。

   あの呪いは解けません。

   だから赤壁の家の一番奥の部屋には行

   ってはいけません。

   もうすぐ、私の番が来ます、さような

   ら。

と書かれている。

 咲子は、自分たちの運命が書かれているように思う、しかし、いたずらで書かれている恐れもある、そのまま信じることはできない。

 深夜までかかって数人リストアップする。


 月曜日の朝10時、早苗の部屋に4人が集まる。

 早速、4人がリストアップした霊能者へ連絡をする、。

 連絡する霊能者は今日か明日の日中にお祓いをしてくれる霊能者に限られる。

 やはり、赤壁の家と言うだけで断る人がはとんどだ。

 そんな中、お祓いを引き受けてくれる霊能者が見つかる。

 九条義行くじょうぎぎょうである、勝川寺かちがわじの住職をしているが護摩祈禱でお祓いをするらしい。

 早苗が説明をする

   「私たち4人は赤壁の家で肝試しをし

    ました、その時、一番奥の部屋で頭

    の中に声が聞えたのです。」

   「どんな声ですか。」

   「若い女のかげりのあるこえです。」

   「なんと言っていましたか。」

   「最初はお前、次はお前、その次はお

    前、最後にお前と言っていまし

    た。」

   「一番最初の人は誰ですか。」

   「私です。」

   「それでは、まだ何も起きていませ

    んね。」

   「いいえ、昨日、和尚様にお祓いを頼

    んだのですが、亡くなられてしまっ

    たのです。」

   「それは・・・」

義行の言葉が詰まる

   「どうか、お願いできないでしょう

    か。」

   「しかし」

   「私は明日の夜、おそらく死にます、

    助けてください。」

義行は答えない。

 彼は、和尚がお祓いで死んだと聞いて命がけの仕事だと分かったのだ。

 断ろうかとも思う、しかし、電話の相手は助けを求めている。

 しばらくの沈黙の後、義行は返事をする

   「分かりました、明日午後1時に勝川

    寺まで来てください。」

彼はお祓いを引き受けることにする。

 4人は霊能者が決まったことで解散する。

 明日、午前10時に早苗の家に集まることになる。

 咲子は帰宅後、直ぐインターネットで検索をはじめる。

 しかし、良い情報は見つからない。

 小池清純こいけせいじゅんに行き当たる。

 彼は最高の祓い屋との書き込みがいくつかある。

 咲子は彼をリストアップする。


 火曜日の午前10時、早苗の家に4人は集まる。

 そして列車とバスを乗り継いで勝川寺へ行く。

 勝川寺には午後0時に着くが時間が早いので近くで昼食を食べる。

 午後1時前、4人が勝川寺に行くと義行が待っている。

 彼が4人に声をかける

   「こんにちは、君たちだね。」

   「はい、私が早苗、こちらが彩、恵

    子、咲子です。」

   「これから護摩祈祷をします。」

   「護摩祈禱ですか。」

   「護摩祈禱は、火中に供物を投げ入れ

    て、ご本尊を供養して加護を求める

    ものです。」

   「それで助かるのですか。」

   「加護を受けられれば大丈夫です。」

   「分かりました。」

   「その前にお札を渡しておきます、も

    し護摩祈禱に失敗した時のためで

    す。」

   「あの、大丈夫ですか。」

   「私は断ろうとも思ったのだが、君た

    ちを助けることにした。」

   「では、失敗したら。」

   「私は和尚のように死ぬだろう。」

4人は黙り込む。

 そして、早苗が言う

   「信じます、お願いします。」

   「では、本堂へ入ってください。」

彼に言われて、4人は本堂に入る。

 義行は護摩祈祷を始める。

 しばらくすると本堂の畳に黒い穴が開く。

 その穴から2本の手が出てくる。

 呪いはズルズルと青白いやせ細った腕を伸ばす。

 手はビタビタと穴の周りを探る。

 義行の祈祷が止まる、彼はゆっくりと振り返る、そして呪いに気づく。

 彼の顔には冷や汗が出る、叫ぶが声が出ない。

 4人は昨日の和尚の時と同じだと感じる。

 早苗が聞く

   「どうしましたか。」

義行は畳を指さす。

しかし、4人には何も見えない。

 彩が救護隊に電話する

   「今、救急車を呼んだわ。」

4人は義行を動かそうとするが昨日と同じく動かない。

 呪いはさらに這い出てくる、頭が出てくる、黒いばさばさの長髪である、目は黒い虚空になっている、口からは

   「あああああ」

とうめき声が聞こえる。

 さらにズルズルと這い出てくる、やせ細った肩、あばらの浮き出た胸が穴からでてくる。

 義行は呪いがここまで強いとは思っていなかった。

 自分の力ではまるでかなわないのである。

 呪いは足まで出ると立つことも四つん這いになることもなく腹ばいのまま義行の方へ這いずっていく。

 義行は逃げようとするが体が動かない。

 呪いは緩慢な動きでズルズルと義行に近づいて来る。

 早苗が

   「義行さん、どうしたらいいですか。」

と聞くが、彼は声が出ない。

 また、彼にもどうしてよいのか分からない。

 呪いの手が彼の足に触れる、それは冷水のように冷たい。

 そしてズルズルと足に掴まり、這い上がって来る。

 体に掴まりながら這い上がり、とうとう頭が彼の顔の所に来る。

 黒い虚空の目は義行を見る。

 すると彼は魂が抜けたように倒れる。

 顔は恐怖に歪んでいる。

 呪いは足から穴に入り、穴は消える。

 早苗は声をかける

   「しっかりしてください。」

彼は反応しない。

 早苗は涙を流しながら言う

   「起きてください、起きてください、

    起きて・・・」

救護隊が到着して義行を病院に搬送する。

 しかし、病院では死亡が確認されただけである。


 早苗は言う

   「どうしよう。」

彩、恵子、咲子は言葉が出ない。

 4人は気持ちが沈んだまま帰宅する。

 早苗は帰宅してから元気がない。

 母親が心配して声をかける

   「どうしたの。」

   「私、今夜、死ぬかもしれない。」

   「何を言っているの。」

   「本当のことよ。」

   「まさか自殺するつもりじゃないでし

    ょうね。」

   「ちがうわ、呪い殺されるの。」

   「呪い?」

   「私、彩、恵子、咲子と肝試しをした

    の。」

   「まさか、赤壁の家に行ったの。」

   「そうよ、そこで声を聞いたの。」

   「どんな声。」

   「頭の中に聞こえてくる声で、若い女

    の翳りのある声よ。」

   「何を言っていたの。」

   「最初はお前、次はお前、その次はお

    前、最後にお前と言ったわ。」

   「早苗は何番目。」

   「1番目よ。」

   「なら何が起きるか分からないでし

    ょ。」

   「そうだけど、お祓いに行ったの。」

   「なら大丈夫ね。」

   「違うわ、私たち、芳美のお父さんと

    九条義行と言う人にお祓いを頼んだ

    の。」

   「何かあったの。」

   「2人とも死んでしまったの、それも

    死に顔が歪んでいたわ。」

母親は青くなる。

 早苗は泣き出す。

 そして父親が帰宅する。

 彼は泣いている早苗を見て

   「どうしたんだ。」

と聞く、母親は

   「早苗が呪い殺されるかもしれない

    の。」

   「何を言っているんだ。」

   「早苗たち肝試しに行って呪われたよ

    うよ。」

   「ばかばかしい。」

   「それでお祓いをお願いしたんだけ

    ど、その人たち死んでしまったの

    よ。」

   「何だって。」

父親の顔色が変わる。

 3人は取り合えず、夕食を食べる。

 3人は居間で黙っている。

 両親は何をすればよいのか分からない。

 午後7時になる、早苗が泣き出す。

   「辞めなさい、何が起こるか分からな

    いだろ、起こらないかもしれな

    い。」

父親が言う。

 早苗は自分の部屋に行く。

 しばらくすると部屋の床に黒い穴が開く。

 その穴から2本の手が出てくる。

 それを見た早苗は叫ぶ

   「きやああぁぁー」

叫び声に両親は早苗の部屋に駆けつける

   「どうした。」

   「手が、手が・・・」

早苗が床を指さすが何もない

   「落ち着きなさい。」

父親が言う。

 呪いはズルズルと青白いやせ細った腕を伸ばす。

 手はビタビタと穴の周りを探る。

 両親から見て早苗の様子は尋常じゃない

   「母さん、救急車!」

   「はい。」

母親が救護隊に連絡する。

 呪いはさらに這い出てくる、頭が出てくる、黒いばさばさの長髪である、目は黒い虚空になっている、口からは

   「あああああ」

とうめき声が聞こえる。

 早苗がお札を出す。

 黒い虚空の目がお札を見るとお札ははじけ飛ぶ。

 さらにズルズルと這い出てくる、やせ細った肩、あばらの浮き出た胸が穴からでてくる。

 早苗はお祓いをした2人が何を見たのか理解する。

 そして、自分は死ぬんだと思う。

 両親が早苗を部屋から出そうとするが床に固定されているように動かない

   「何なんだこれは。」

父親は焦る。

 呪いは足まで出ると立つことも四つん這いになることもなく腹ばいのまま早苗の方へ這いずっていく。

 緩慢な動きでズルズルと近づいて来る。

 早苗の顔が恐怖に歪む。

 呪いの手が彼女の足に触れる、それは冷水のように冷たい。

 そしてズルズルと足に掴まり、這い上がって来る。

 体に掴まりながら這い上がり、とうとう頭が早苗の顔の所に来る。

 黒い虚空の目は彼女を見る。

 すると彼女は魂が抜けたように倒れる。

 呪いは足から穴に入り、穴は消える。

 両親はやっと早苗を部屋から出す。

 しかし、早苗は息をしていない。

 救護隊が到着し早苗を病院に搬送する。

 病院で早苗の死が確認される。

 両親は泣き崩れる。

















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