第23話 彩の死

 火曜日の夜9時、あや早苗さなえにLINEで連絡するが返信が来ない。

 電話をかけてみるが電話にも出ない。

 心配した彩は、恵子けいこ咲子さきこにLINEで連絡する。

 しかし、連絡は取れない。


 翌日の水曜日の朝、早苗の家に電話をかける。

 母親が電話に出る

   「彩です、早苗さんはいますか。」

   「早苗は昨晩亡くなりました。」

そして、母親の鳴き声がする。

 彩は呆然ぼうぜんとする。

 次は自分の番である。

 タイムリミットは金曜日の夜である。

 良信りょうしん義行ぎぎょうの死に顔が頭に浮かぶ。

 恐怖に顔が歪んでいた、どんな恐ろしいことがあったのだろう。

 彩は恵子と咲子に連絡する。

 恵子と咲子は早苗の死に愕然きょうがくとするとともに自分の運命を悟る。

 しかしまだ時間はある。

 咲子は小池清純こいけせいじゅんに会うことを考える。

 恵子は新しい霊能者を探し始める。

 彩は恐怖に何も手が付かない。

 自分は死ぬんだという思いに駆られる。


 恵子が小泉浄音こいずみじょうおんと言う霊能者に仕事を引き受けてもらうことに成功する。

 彼女は午後1時に赤壁の家に集合するように彩と咲子に連絡を入れる。

 3人は午後1時に集合する、小泉浄音は5分ほど遅れて赤壁の家に来る。

 恵子が浄音に事情を説明する

   「私たちはこの家の一番奥の部屋で呪

    われました。」

   「どんな呪いですか。」

   「死ぬ呪いです、昨夜、友人が死にま

    した、お祓いをしようとした人も2

    人死んでいます。」

   「そうですか。」

浄音の顔がこわばってくる

   「除霊できるでしょうか。」

   「任せておいてください、家でどんな

    体験をしましたか。」

   「玄関で黒い影を見ました、居間では

    ソファーが飛んできました、台所で

    は包丁が飛んできました。」

   「分かりました。」

   「まだ終わっていません、3つある居

    室の一番奥の部屋に入ると頭の中に

    声が聞えて来たのです。」

   「どんな声ですか。」

   「若い女のかげりりのある声です。」

   「何を言っていましたか。」

   「順番を言いました、最初はお前、次

    はお前、その次はお前、最後にお前

    と言っていました。」

   「そうですか。」

浄音は話を聞くだけで完全に手に余るを思う

   「お願いします。」

浄音から冷や汗が出てくる。

 そして意を決したように

   「待ってくれ、これは私の手に負えな

    い、この仕事は受けられない。」

恵子は呆然とする。

 咲子が言う

   「代わりにこの仕事を受けてくれる人

    はいませんか。」

   「分からない、こんなものを引き受け

    られる人を知らない。」

   「そうですか。」

彩が言う

   「呪いから守ってくれるだけでもでき

    ませんか。」

   「無理だ、私は死にたくない。」

浄音は答える。

 彩は肩を落とす。


 咲子は家に帰るとインターネットで検索を続ける

 そして遠い場所だが六角堂の除霊をした情報を見る。

 無数の霊を一度に除霊したとある。

 公方良賢くぼうりょうけんと言う人が除霊したことまで突き止める。

 彼について調べていくうちにかなり強力な祓い屋だと分かる。

 彼女はリストアップし、明日、公方良賢と小池清純に連絡を取ることを考える

 恵子もネットで検索している。

 なかなか、霊能者は見つからない。

 そして、一番奥の部屋についての書き込みを見つける。

 書き込みには

   これを読んで赤壁の家には近づかない

   ようにしてください。

   私たち3人は、ポルターガイストなど

   にあいながら奥の部屋にたどり着きま

   した。

   そこで頭の中に響く声を聴きました。

   それは1人づつ呪い殺す順番を告げる

   ものでした。

   私の他の2人は既に死んでいます。

   死に顔は恐怖で歪んでいました。

   私たちは呪いを解くためにお祓いをし

   たり、霊能者を頼ったりしましたが全

   て無駄に終わりました。

   あの呪いは解けません。

   だから赤壁の家の一番奥の部屋には行

   ってはいけません。

   もうすぐ、私の番が来ます、さような

   ら。

と書かれている。

 これを見た恵子は絶望的な気持ちになる。

 書き込みには自分たちの未来が書かれている。

 彼女は思わず

   「誰か助けて。」

と独り言を言う。

 彩は自分の部屋で泣いて過ごしている。


 木曜日の朝、咲子は公方良賢に連絡をとろうとして彼が死んでいることを知る。

 咲子は自分たちが完全に呪われているのではと思う。

 彼女は最後の願いを込めて小池清純に連絡を取る。

 清純とは喫茶店で会うことになる。

 午後2時、咲子は喫茶店に入る。

 清純は年を召していた

   「お嬢さん、どうしたのかね。」

   「私たちは呪われています、助けてく

    ださい。」

   「どんな呪いかな。」

   「友だちが1人亡くなっています、お

    祓いをしようとした人も2人亡くな

    りました。」

   「そうか、ちょうど1年位前に同じよ

    うな仕事があったのう。」

   「どんな仕事ですか。」

   「やはり友達が1人死んでお祓いをし

    ようとしたがそこの和尚が亡くなっ

    てしまっておった。」

   「よく似ていますね。」

   「赤壁の家と言ったのう。」

早紀は驚き立ち上がる。

   「どうしたんじゃ、落ち着いで座って

    おくれ。」

   「は、はい。」

咲子にとってはうれしい偶然である。

 赤壁の家の仕事をした人が目の前にいるのである。

 これは解決したのも同じことと思える

   「もしかして、お前さん、あの家で呪

    われたのか。」

   「はい、そうです、2番目の子のタイ

    ムリミットが明日の夜です。」

   「申し訳ない。」

   「どういうことですか。」

   「わしは仕事を受けたが、台所の悪霊

    にさえ、足止めしかできんかっ

    た。」

   「かなわなかったのですか。」

   「そうじゃ。」

   「わしは中に入り重傷の佐伯哲也さえきてつやを回

    収するので精いっぱいじゃ。」

   「そんな。」

咲子の希望が崩れてゆく

   「他に誰か知りませんか。」

   「わしは知らん。」

   「そうですか。」

   「前の依頼人には呪い屋を紹介し

    た。」

   「教えてください。」

   「良いが代金は高いぞ。」

咲子は呪い屋の五條家ごじょうけの連絡先を教えてもらう。

 彼女は帰宅すると気が抜けて眠り込んでしまう。

 疲れがたまっていたのだろう起きると次の日の昼になっている。

 恵子からLINEの連絡が来ている。

 彩が不安なので今夜はつきそうとの連絡である。

 彩は気が抜けたようになっている。

 自分でどうすればいいのか分からないのである。

 今は恵子が付き添ってくれている。

 彩の家は両親が仕事で別の所に住んでいて、家には彩しかいない。

 恵子も手を尽くしたが、霊能者は見つからなかった。

 夕方になり2人はファミレスで食事をする。

 そして彩は家に帰りたがらない。

 家にいると悪いことが起きると思い込んでいるからだ。

 外に居ればもしかして呪われずに済むかもしれない。

 彩と恵子は町の中をゆっくりと歩く。

 時間は午後7時になる

   「私、どんな風に死ぬのかな。」

   「まだ、分からないよ。」

   「気休めはやめて。」

   「助かって欲しいよ、彩が助かれば私

    も助かるもの。」

   「そうね。」

 この時、歩道に黒い穴が開く。

 その穴から2本の手が出てくる。

 彩は何げなく振り向き呪いに気づく

   「きやああぁぁー」

彼女は叫び声をあげる

   「彩、どうしたの。」

恵子が聞く、彩は歩道を指さす。

 そこには何もない。

 しかし、恵子は呪いが始まったと言づく

   「逃げるわよ」

彩の手を引っ張る、しかし彼女は動かない。

 呪いはズルズルと青白いやせ細った腕を伸ばす。

 手はビタビタと穴の周りを探る。

 彩は声が出せず動けなくなっている。

 彼女の目から涙が流れる。

 恵子は言う

   「逃げないと捕まるよ。」

しかし彩から返事はない。

 呪いはさらに這い出てくる、頭が出てくる、黒いばさばさの長髪である、目は黒い虚空になっている、口からは

   「あああああ」

とうめき声が聞こえる。

 恵子が自分のお札を出して彩に向ける。

 呪いはお札を黒い虚空の目で見る。

 するとお札ははじける

   「なにこれ。」

恵子は驚く。

 呪いはさらにズルズルと這い出てくる、やせ細った肩、あばらの浮き出た胸が穴からでてくる。

 彩は恐怖の正体を知る。

 そして、恐怖に顔が歪む。

 恵子は彩の顔に恐怖する。

 呪いは足まで出ると立つことも四つん這いになることもなく腹ばいのまま彩の方へ這いずっていく。

 緩慢な動きでズルズルと近づいて来る。

 呪いの手が彼女の足に触れる、それは冷水のように冷たい。

 そしてズルズルと足に掴まり、這い上がって来る。

 体に掴まりながら這い上がり、とうとう頭が彩の顔の所に来る。

 黒い虚空の目は彼女を見る。

 すると彼女は魂が抜けたように倒れる。

 呪いは足から穴に入り、穴は消える。

 恵子が叫ぶ

   「彩、起きてー」

見ていた通行人が救護隊に連絡する。

 救護隊が到着するが既に手遅れである。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る