第14話 百合の家族
日曜日の夜、
「準備はできたか。」
「私は行かないわよ。」
「何を言っているんだ、このままだと
死んでしまうぞ。」
「私の話信じなかったくせに。」
「突然幽霊の話をして信じる方がおか
しい。」
「お父さんはまだ信じていないの。」
「半信半疑だ。」
「石頭。」
「親をバカにするな、お前のことを考
えてしているんだぞ。」
「あなた、ここは私に任せて。」
「頼むよ。」
「お父さんあなたのことを一番に考え
ているわ。」
「嘘だわ。」
「お父さん、仕事辞めるつもりよ。」
「どうして。」
「遠くに住むからよ。」
「お父さん何をするつもりなの。」
「遠くに逃げて、百合が助かったら、
新しい家を見つけてやり直すの
よ。」
「お父さんが・・・」
「準備を始めましょ。」
「夜逃げみたい。」
「そうね。」
百合は出かける準備を始める。
月曜日の朝、百合の父親は
霊に距離は関係ないという言葉は気になる、また除霊を勧められたが考えを変えるつもりはない。
そして、家族3人で車に乗り出発する
「お父さん、昨日はごめんなさい、言
い過ぎた。」
「いいよ。」
「本当のことだから仕方ないわよ。」
「お前まで、できるだけ遠くへ行く
ぞ。」
「はい。」
車は西向けて走っていく、タイムリミットは今夜来る、それを乗り越えればいいのだ。
午前中、いくつもの街を抜け4時間くらい走る。
昼は道沿いのレストランで昼食を食べる。
百合は言う、
「3人揃って外で食べるの久しぶり
ね。」
「そうだな、これからは久しぶりでな
くなるさ。」
父親が答える
「お父さん仕事を変えるの。」
「そうだよ。」
「私のため。」
「仕事が忙しかったからお前たちのこ
と放っておいたからな。」
「うれしい。」
「そうか。」
「これからは一緒に食事しましょう
ね。」
母親が言う。
そして、また西に向かって走り出す。
街を抜け道は山沿いを通っていく。
午後3時頃、道の駅に立ち寄り父親は仮眠をとる。
彼はここ数日、百合のことが心配で寝ることが出来なかったのである。
母親と百合は邪魔しないように買い物をして時間をつぶす。
彼は2時間ほど眠った。
再び走り出す、午後7時、道沿いのうどん屋で夕食を摂る
「お父さん、引っ越すなら海が見える
町がいいな。」
「ゆっくり探せばいいさ、百合の気に
入ったところに住もうか。」
「本当、うれしいな。」
百合は喜び、両親は笑う。
午後8時頃、再び出発する。
道は人里を離れて行き山越えのルートになる。
午後10時頃になる車は父親が運転し母親が助手席、百合が後部座席の運転席側である。
突然、助手席側の後部座席に黒い穴が開く、百合は気が付かない。
車は走っているのであるが、穴から2本の手が出てくる。
やせこけた青白い腕が伸びる。
手は穴の周りをビタビタと探る。
この時になって百合はそれに気づく
「きやああぁぁー」
叫び声を上げる。
「どうした。」
父親は運転しながら聞く
「百合、しっかりして。」
母親が後ろを見る
「手が・・・」
百合は後部座席の助手席側を指さす。
母親が見るが何もない。
父親は車を止めて後ろを見るしかし何もないが百合は怯えている。
呪いはさらに這い出てくる、頭が出てくる、黒いばさばさの長髪である、目は黒い虚空になっている、口からは
「あああああ」
とうめき声が聞こえる。
百合が見る前でズルズルと這い出てくる、やせ細った肩、あばらの浮き出た胸が穴からでてくる。
呪いの手が百合の手に触れる、冷水のように冷たい。
父親は車がら降りて後部ドアを開け、百合を引っ張り出そうとするが体は座席に吸い付くように動かない。
「百合、諦めるな。」
彼は自分に言い聞かせるように言う。
呪いはズルズルと穴から這いずり出ながら百合に体に掴まる。
今度は母親が助手席側の後部ドアを開け、百合を押し出そうとする。
両親は必死に百合を車から引っ張り出そうとする。
しかし百合の体は動かない。
百合は声が出ず体も動かない状態である。
彼女には必死に自分を助けようとする両親の姿が見えている。
眼には涙があふれている。
これは恐怖のためだけではない、自分を助けようとする両親への感謝の気持ちもある。
呪いの頭が百合の顔の所に来る。
黒い虚空の目が百合を見る。
百合は魂が抜かれるように死んでゆく。
すると突然、百合の体が動き出し、勢いが付き両親と一緒に道路に投げ出される。
そこへトラックが走って来る。
見通しが悪い山道であるブレーキは間に合わない。
トラックは車に衝突するとともに3人を
翌朝、高志は朝刊の交通事故の記事で百合とその両親の死を知る。
昨日から泊まり込んでいる
月曜日の夜、赤壁の家から帰った来た後、高志は純教に赤壁の家に入った時のことを話す
「玄関のドアはカギが壊れておりカギ
がかかっていません、玄関では何も
おきませんでした。」
「そこは
すよね。」
「はい、次に居間へ行きました、広い
部屋でソファーが飛んできまし
た。」
「ポルターガイストですか、居間に1
人はいますね。」
「次に台所へ行きました、すると包丁
が飛んできて壁に刺さり、包丁2本
が宙に浮いていましたので、後ずさ
りをして台所から出ました。」
「ここもポルターガイスト、台所に1
人はいますね。」
「そして廊下に出ました。」
「台所の霊は追ってこなかったんです
か。」
「はい、追ってきませんでした。」
「清純と
ってきていますね。」
「その通りです、私の時は違います、
それに娘たちの時も台所から追って
来ていません。」
「そうですね、やはり祓い屋に対して
攻撃的ですね。」
「私は次に手前から1つずつ手前から
部屋を見て行きました。」
「どうでしたか。」
「手前の2つは何も起きませんでし
た。」
「そして最後の部屋ですね。」
「はい、3つ目の部屋は入る前に圧迫
感を覚えました、部屋の中に入ると
私の頭の中に声が響きました。」
「何を言っていましたか。」
「お前、決まっている、死ぬ、死ぬ、
死ぬと言っていました。」
「死ぬのが決まっているという意味で
すね。」
「おそらくそうです、若い女の
ある声です。」
「部屋には他に何がありました。」
「引き出しの中にノートがあって城に
とじ込まれたお姫様が困難に打ち勝
った騎士に城から連れ出される話が
「他には、日記があったと言ってまし
たね。」
「はい、日記には家に閉じ込められ
呪う気持ち、誰かが連れ出してくれ
る期待がつづられていました。」
「他にはどうですか。」
「思い出せるのはこれくらいです。」
純教は確認する
「台所の悪霊は清純でもかなわなかっ
たんですね。」
「はい、かなわないから引き返してき
たと言っていました。」
「やはり、居間と台所の霊は除霊をせ
ずに置きましょう。」
「どういうことですか。」
「力を温存するために、居間と台所の
霊は動きを一時的に封じるだけにし
ます。」
「怨霊のためにですね。」
「そうです、余裕のある状態でないと
怨霊に勝てる見込みがありませ
ん。」
「それなら確実に勝てますか。」
「かなり難しいでしょう。」
「そうですか。」
高志は肩を落とす
「今回は相手が強すぎるんです、勝て
る見込みはありますから、信じてく
ださい。」
樹が高志に説明する
「今回は呪い発動と同時に除霊をしま
す。」
「同時ですか。」
「はい、怨霊が呪いに力を使っている
ときに除霊をします。」
「分かりました。」
「それで、高木さんには連絡係をして
もらいます、呪いを防ぐ陣の中では
携帯を使えません、音を出せないの
です。」
「はい、おねがいします。」
高志は2人に期待する。
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