第9話 呪い屋の守り

 赤城家あかぎけ桐生雫きりゅうしずくが訪れる。

 早紀の部屋は1階の奥にある。

 雫は早紀の父親に言ってベットをどかしてもらう。

 そして、部屋の床に陣を描く。

 雫は早紀に言う

   「この陣があなたを守るわ。」

   「はい。」

   「陣の中にいる間は何があっても声を

    出してはダメよ。」

   「分かりました。」

早紀は雫に命を預けるしかない。

 早紀と雫は早めの夕食を摂ると陣の中に入る。

 まだ夜7時だが早紀は緊張している。

 雫は平静を装っているが、強力な怨霊が相手である、五條家ごじょうけで修業は積んだがこのような相手は初めてである。

 陣を張ったが怨霊の呪いに通用するかは分からない。

 夜10時頃になる床に黒い穴が開く。

 その穴から手が2本出てくる。

 早紀は雫にしがみつき震える。

 雫も出てきた手の禍々まがまがしさに顔が青くなる。

 穴からはズルズルと腕が出てくる、それは青白くやせ細っている。

 手はビタビタとあたりを探る。

 早紀は体が動かなくなる。

 穴からは、さらに這い出てくる、頭が出てくる、黒いばさばさの長髪である、目は黒い虚空になっている、口からは

   「あああああ」

とうめき声が聞こえる。

 続けてズルズルと這い出てくる、やせ細った肩、あばらの浮き出た胸が穴からでてくる。

 居間では早紀の両親が娘の無事を祈っている

   「あなた、どうして早紀が死ななくて

    はならならの。」

   「まだ、決まったわけではないよ。」

   「でも、亜紀あきちゃんも定海和尚ていかいおしょうも死ん

    でしまったわ。」

   「桐生先生が何とか守ってくれる

    よ。」

2人は身を寄せ合う。

 呪いは足まで穴から出てくる。

 そして、立つことも四つん這いになることもなく腹ばいのまま這いずりまわる。

 呪いは陣を張っているため早紀の詳しい居場所が分からないのだ。

 早紀は恐怖のあまり涙を流し始める。

 呪いは手でビタビタとあたりを探りながら、這いずりまわる。

 雫は呪いが陣に気づかないように必死に祈っている。

 しかし、祈りは通じない、呪いがズルズルと陣に向かって這いずって来る。

 ゆっくりした動きだが確実に近づいている。

 早紀は耐えきれなくなり叫びそうになる。

 雫が口を塞ぐ。

 ビタビタ探る手が陣に触れる。

 呪いは

   「うああああ」

と声を上げる。

 手が陣をビタビタと叩く。

 呪いは陣の中に入れないようだ。

 雫はホッとする。

 だが、次の瞬間呪いの片手が陣の中に入る。

 呪いは苦しいのか

   「ぐわああぁぁ」

と声を上げる。

 雫は陣を破られパニックにおちいりそうになる。

 そして、どうすればいいか考える。

 雫は陣に入って来た手を蹴りだす。

 手は冷水のように冷たい。

 するともう1つ床に黒い穴が開く。

 そこからは2本の手が出てくる。

 雫は呪いに触れたため自分も呪われたのだと理解する。

 陣の外では呪いがビタビタと陣をたたき続ける。

 そして2体目の呪いが穴からズルズルと青白くやせ細った腕が出てくる。

 手は同じくビタビタとあたりを探る。

 呪いはさらに這い出てくる、頭が出てくる、黒いばさばさの長髪である、目は黒い虚空になっている、口からは

   「あああああ」

とうめき声が聞こえる。

 さらにズルズルと這い出てくる、やせ細った肩、あばらの浮き出た胸が穴からでてくる。

 足まで這い出るとズルズルと腹ばいのまま這いずりまわる。

 また、陣の中に手が入る。

 雫は再び手を蹴りだす。

 すると2体目の呪いが陣に向かってゆっくりとズルズル這いずって来る。

 1体目の呪いが陣に沿って手を上に伸ばし始める。

 そして肩、胸と立ち上がっていく、それは人間の動きではない。

 最後に足まで立ち上がると入れない陣にもたれかかるような姿勢になる。

 雫は直感で陣が壊れると判断する。

 彼女は早紀を抱えて逃げようとするが体が固まっているように動かない。

 そして陣が壊れる1体目の呪いは早紀に倒れ掛かる。

 早紀の顔は恐怖で歪む。

 黒い虚空の目が早紀の顔を見る。

 早紀は魂を吸われるように倒れる。

 居間にいた両親は物音を聞いて早紀の部屋に向かう。

 2体目の呪いが雫の足を掴む、ズルズルと彼女の体を掴みながら這いずり上がって来る。

 呪いの頭が雫の顔の位置にくる、黒い虚空の目が彼女の顔を見る。

 雫も魂を吸われるように倒れる。

 両親が早紀の部屋のドアを開ける時ドンと音が聞こえる。

 早紀の部屋の中には倒れる2人の姿がある。

 2人とも恐怖で顔が歪んでいる。

 2体の呪いは足からズルズルと穴の中に戻っていくが両親には見えない。

 母親が叫び声をあげる。

 父親は娘の名を呼び涙を流す。

 そして救護隊に連絡する。

 しかし、2人は手遅れである。

 両親は泣き崩れる。



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