第20話

 次の日、隣人の家に来た。

 2台ほど止められる車庫には相変わらず、空になっておりあの少女以外住んでいる気配がない。


 庭には、鳩が呑気に不法侵入をしている。餌を探しているのだろうか。その割には、闘争心というか、餌を探してやるぞーという心意気は感じられない。


 大きく、綺麗な庭園ではあるのに、鳩が複数羽お邪魔しているせいで台無しになってしまっている。


 さらに2階のカーテンは閉められており、それがより一層不気味さを増していた。昨日殺人事件が起きたのだろうか。



 インターホンを押したら、血塗れの殺人犯が出てきそうで、中々押す勇気が出てこない。

 ボタンに浅く触れる。

 音がなった気配などない。


 鳩がクルックと鳴く。

 鳴くな、鳩。私がここにいることがバレる。

 いや、それは矛盾しているのか。

 私は、彼女に会うためにここに来たのに。


 もう一度、インターホンを押す。

 今度はしっかり奥までおす。やはり静かである。


 空を見る。

 雲がゆっくり、ゆっくりと流れておりそれが時の流れを教えてくれていた。


 今日は出る気配がないな。

 帰るか。

 そう思い踵を返そうとした。すると扉がゆっくりと開いた。


 まさか少女が出た。

 それも肩を震わせて。何かに怯えながら。

 目は赤く腫れている。先ほどまで泣いていたのだろうか。


 やはりあのカーテンの奥で何か惨劇があったのだ。

 そうなると、やはり先ほどからずっと鳴いている鳩の存在が場違いなものになる。平和の象徴の鳩も今はただの空気の読めない鳥だ。


「ど、どうしたの?」


 聞いてみる。

 彼女は口をゆっくりと開ける。

 一体、何を喋るのか。

 自分の心臓すらもドクンと激しく脈を打った。


 赤崎さんはゆらゆらとメトロノームのように体を動かしながらこちらへ、ゆっくり、ゆっくり。鳩よりもゆっくり、ゆっくりと前進してくる。

 足はまるで浮いているようだ。


 そして反射的に私の体は後ろへ退けそる。


 後ろへ行くけど、彼女の歩幅の方が大きいからすぐに私の体のところまで到達した。

 そして言う。


「助けて」


 と。

 ひ弱な女性の声で。

 そしてさらに


「やつがでた」


 と。 

 奴とは一体何だ。

 生い茂る草をみても、電気が消えている家の様子をみても誰かがいるような気配などない。


 そんなところに奴がいるのか。


「やつって、誰ですか?」


 私は彼女の肩を握った。

 赤崎さんの微妙な振動が私の方にまで伝わってくる。


 赤崎さんの薄い、唇が今にも取れてしまいそうだ。

 そして彼女はさらに言う。


「黒い物体。ゴキブリがでた」


 と。

 なんだ。そんなことか。そう思ったが取り敢えずそれは胸の奥にしまい込んでおく。

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