第18話
終業後、益田さんの提案で夜の海を2人歩くことにした。
その理由など分からない。
そして益田さんの車に乗っけてもらって海についた。海についたのはいいが、その瞬間益田さんは消えた。
一人ぼっちになった。
決して心霊的なものではない。神隠しというわけでもない。ちょっとあっちの方へ行ってくる、ここで待っててといって消えていったのだ。
しょうがないので、私は星を見た。
キラキラ輝く星。関東ではあんな星たちは見えただろうか。
あの空に輝く星の名前を私は知らない。というよりはあの星に名前があるのかすらも分からない。
もしかしたらあの星たち、実は名前などないのかもしれない。この地域にしか見えない星なのかもしれない。
いや、そもそもあれは星なのか。
UFOの可能性だってあるじゃないか。
そうだ。実はあれが未確認物体という可能性もある。
もしかしたら、私たちが当たり前と思っている世界は、他のところに行ったら当たり前ではないのかもしれない。
とそんなことを考えていたら首筋に、ジューっと言った熱が走った。
「うわっ」
驚く。そこには満面の笑みの益田さん。
美人ではあるが、どこか不気味で本当は人間の面をしたエイリアンなのではないかと思ってしまう。
「ほら、コーヒーどうぞー」
「あ、ありがとうございます」
缶の表面を見る。開けられた気配なし。毒を塗られた気配なし。
遠くからはバイクがブンブン。余分にエンジンを余分に吹かす音が聞こえる。
「この土地にもこんな暴走族みたいな人がいるんですね」
「そりゃ、一定数はいるでしょ。いくら治安が東京よりもよかったとしても」
「そうですか。そうなんですか」
缶のプルトックを開ける。
そっとそれを口つける。少々、アルミの味がしたがそれ以外、東京で飲んだ缶コーヒーと何も変わらない。
「それで、どうしてここに連れてきたのですか」
「鳥取の海を見て欲しくて」
「鳥取の海ですか」
あかりも何もない海は真っ黒。
どこを見ても真っ黒である。
「どう?」
「分からないです。これだけ暗かったら東京の海も、大阪の海も、鳥取の海も一緒です。ただ水があって波をたてる見たいな」
「そうか。そりゃ、残念。あっ、でもこの海魚が泳いでいるらしいよ」
「そりゃ、海なんですからどこでも魚泳いでいるでしょう」
そしてこんな浅瀬では、魚なんているはずがない。
ざざー、ざざー、ザザー。
相変わらず、海は海らしいテンポで波の音を立てている。
その音は、昔大洗の海に行った時と変わらないので、どこかに録音テープが仕掛けてあるのではないかと思う。
もっと言えば、遠く離れた国の海も、多分一緒の音がするだろう。
全て一緒なのである。特別なものなどない。
「いやー東京人に海を見せたらどんな反応をするかと思ったら、案外普通だね」
「普通ですよ。もしかしたら私の感情が死んでいるだけかもしれませんけど」
「そっか、そっか。それじゃ、缶を握っていない手の方を差し出して見て」
そう言われたから、左手をパーにする。
すると、サラサラとした感触が伝わる。
「どう? この砂」
「どうって、感想に困ります。ただの砂としか思えないです」
「そっか、そっか。なんか鳥取は特別! みたいなことを感じて欲しいんだけどなー 難しいね」
「そんな地域によって特別! みたいなことってあるんですか」
「そりゃ、あるでしょ」
「それじゃ、人によっては東京の人は、人手なしとか思ってしまうこともあるんですか?」
「うーん、それは人によるんじゃないかな。そこら辺に関してはあまり思わないし。東京も、鳥取も同じ日本人だし。あれ、なんだろう。なんだろうね」
「例えば、広島の人が、ここは今日から私たちの物と言われたらどういう感情になります」
「いやいや、広島さん。何を言っているのですかってなる。あれ、あれ? 不思議だね。別にここは広島のものになったとしても私の生活は変わることないのに」
そうだ。話がややこしくなってきた。
「結局、地域ってなんだろうね」
逆に質問された。
どこからか、遠くから汽笛がなる。
益田さんはその汽笛に関して何も反応しない。だからこんな夜遅くに汽笛がなるのはこの地域では当たり前なんだろう。
しかし私にとってはそれが当たり前ではない。異世界の出来事なのである。
そして益田さんは、東京では毎分どこかしらの電車が来ていることを知っているのだろうか。
もし、知らなければ彼女にとってそれが異世界になる。
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