第17話

 夜の閉店作業の頃だった。

 返品手続き書が一枚足りない。

 レジのドロアを探しても、返品手続き書が一枚足りない。


 早乙女さんに聞こうと思ったが彼女は既に帰っていた。


「どうしたのー?」


 とそんな状況、間延びした口調で1人の女性が聞いてきた。

 彼女はこの店の店長の益田さんである。


「返品手続き表が一枚足りないのです」


「そうなんだ」


 えへへ。

 それだけ。


「返品手続き書が一枚足りないと確かマネージャーに報告しないとダメだったはず」


「別に報告しなくてもいいんじゃないかなー。だって報告しなくてもバレないわけだし」


 この人は適当だ。

 確かに返品手続き書は一枚なくなったところで誰にもバレない。しかもその紙はただ返品しましたと書いてあるだけで、いくらでも捏造できる。


 なくなったら、単純に捏造をすればいいだけだ。

 だけどそんなことをしていいのだろうか。


「バレた時、処分とか下りません?」


「処分ー? なんでー?」


「いや、だって書類をなくしたって割と重要なことで」


「でも会社の損害になるようなものをなくしたわけじゃないでしょー? この返品手続き書を一枚なくしたからって会社の利益が下がるわけでもないしさ」


「まぁ、確かに。そうかもしれませんけど」


「だから、大丈夫だよ。そんなものなくても。なんとかなるさ」


「なんとかなるって。随分お気楽なんですね」


「うん? 埼玉の方とかはもっとしっかりしていたの?」


「そうですね」


 埼玉の店舗の店長はもっと真面目である。返品手続き書一枚なかったら多分大騒ぎしているだろう。


「これって鳥取県の人柄なんですかね」


 すると益田さんは大きな口を開けて笑った。


「そんなわけない。これは私の人柄だよ。鳥取県にもヤンチャな子がいれば、大人しい子もいる」


「だけど国によって人柄が違うというじゃないですか」


「それは教育や環境が違うから。日本では教育が違うとかあんまりないでしょ。だから鳥取県だから、東京だからとかそんなことはないと思うよ」


 本当にそうだろうか。

 例えば、環境。日本だけでも暑い、寒い場所というのははっきりとある。

 北海道は雪がたくさん降って、四国は雪がほとんど降らない。


 他にも、教育だって県によって違う。

 言葉の違いだって日本のあちこちに見られる。


 それを考えると、鳥取県だからこういう人格の人が多い。

 そのようなことはあるのではないか。


「さて、帰るよ」


 レジのドロアは開けっ放しである。

 驚いた。

 このまま帰る。このまま帰るって。


「これも鳥取県の県民性なのかな」


 いや、流石にこれは違うや。

 この益田さんの性格は鳥取県とは何も関係ないや。

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