第13話 帰る場所

 東京や新宿、渋谷を知っている私からすると岡山は田舎のように見えていた。

 しかし、実は岡山というのは大都会だったのかもしれない。


 倉敷まではまだ町の形があった。

 それ以降だ。


 高梁川が現れ、家の数が進めば進むほど減っていく。

 やがて視界には川と国道しかなくなっていた。


 さらに、ここら辺は山通り抜けているせいか、カーブが大量にあって車体が右に、左に揺れる。

 右に曲がったと思ったら左に曲がって、かと思ったら右に曲がって。


 落ち着かない。


 それが再び、私に対して眠気を誘った。

 また、私は睡眠についた。

 その間、電車は新見を、根雨を通過した。


 そして再び目が覚めた時にはサンライズはカーブの多発地帯を抜けていた。


 そして、白銀の世界が広がっていた。


 鳥取といえば、鳥取砂丘がある。そのせいでサハラ砂漠のような一面砂金に覆われた世界が広がっている。


 そんな偏見がある私からしてみればその世界というのが意外だった。


 空からは無限の雪。

 それが車に覆い被さり、まるで雪兎の大群のようになっている。


 空はどんより暗く、王子製紙の工場が出している大きな煙突の煙はやがてその雲へと吸収される。


 ランドマークのようなものはその工場だけ。

 本当に何もない。

 雪と雪兎と工場……


 それでも何故だろうか。

 どこか懐かしい気持ちがあった。


 私は生まれた時も、そして今も東京育ちなのに。

 さらに、東京で感じていた人と人が密集する息苦しさというものがそこにはないような気がしていた。


 自由である。


 東京暮らしは素晴らしい。

 買い物に不便することもないし、遊ぶ場所もたくさんある。


 だけどどこか満足していないところがあった。


 その満足していないところの答えがどうもこの場所にありそうな、そんな気がした。

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