第12話 サンライズと岡山
ガタンゴトン。
サンライズ出雲音を表すのにこんな古典的表現がピッタリあっていた。
ゴロンと横になる。
空は、満面の桔梗の花を咲かせていた。
東京の都会の空は首星が行方不明である。みんな平等に、ほこりのように、そしてそっと手を伸ばしたらそのままどこか消えてしまいそうに弱々しく光っていた。
その星たちは、電車の流れのお陰で箒星に変わっていく……。
この電車は出雲へ向かっている。
出雲は東京から遠く離れた土地である。
だけど、どこか東京よりももっと、もっと遠くへ、遠くへ向かっている。そのような気がする。
つい最近までストレスでまんじりともしない日が続いていた。
それが今日は嘘のように瞼が軽かった。
そして私は電車に乗りながら、船を漕ぐ。
薄らと、藍色の空が見える。半睡の状態。
「横浜駅発車をもちまして、明日岡山駅まで車内アナウンスは控えさせていただきす」
覚えていない。覚えていないけど恐らく車掌さんはそんなことを言ったのだろう。
それが私の記憶の最後であった。
そのまま微睡に溺れた。その海はフワフワとしていて不思議な気持ちであった。
白川夜船に乗っていた私。
朝、起きたら見知らぬ世界にいた。
小学生の頃、どこでもドアなど一生開発されないだろう。そんなことを思っていた。気づいたら知らない世界に飛ばされるなどそんな馬鹿な話などない。
しかしこのサンライズはそれが現実に広がっていた。
目の前には田畑が広がっている。
嘘みたいである。
昨日まで、人工物に囲まれた無機質なコンクリートの塊の中に溺れていたのに。
それは私からしてみたらどこでもドアを使ったと同じような感覚であった。
すぐ横に置いてあるスマホを取り出す。
地図アプリを開く。
今現在の場所は岡山県の三石あたりであった。
電車はスピードを落とすことなくガタンゴトンと音を鳴らしている。
それからしばらくしてサンライズは岡山駅に到着した。
「これから切り離し作業がありますので三度停車し……」
そんな車内アナウンスが流れる。
すると、あちこちの部屋からガチャ、ガチャと扉を開ける音が聞こえる。
私も釣られて扉を開ける。
人々は皆、駅のホームへ向かっていた。私もその流れに乗る。
初めて岡山駅のホームに立った。
驚いたことは、番線の看板が真っ白で、そこに1、2と数字だけ書かれていたこと。
東京では緑は山手線、オレンジは中央線と、番線看板に色がつけられてそれで行き先を区別していたのに。
そしてもう一つ驚いたのは、黄色の古っぽい電車が止まっていたこと。
それは今の時代にガラゲーを見るような感覚であった。
いや、もしかしたら地方ではこれが当たり前の世界なのかもしれない。
しかし私はその目の前の光景がどこか遠い国のようなものに思えた。
そして私は、今遠い国にいる。いる。
それから連結解除作業が開始される。
ガチャン。サンライズ瀬戸と出雲が分離された。
それを見届けて、私は部屋に戻る。
出雲は、サンライズ瀬戸を置いて岡山駅へでる。
サンライズ出雲はこれから伯備線に入る。
高梁川を沿って伯耆富士の麓へ。
サンライズ瀬戸は、瀬戸大橋を渡り高松へ。
ここまでともに歩んできた車両は別々の世界へ歩き進む。
そして夜になったらまたこの岡山で連結して一緒に東京へ帰る。
何とも不思議な話である。
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