第11話 三郷の声

 サンライズに乗るさらに前。どれだけ前に戻るのかと思うぐらいさらに前。


 大学3年生の頃。


 周囲に対する私の評価にまともな評価などなく辟易していた。


 友人と呼べる友人はいなく、友人に模した化け物は私のことを「取っつきにくいやつ」と評価する。


 インターン先の企業の人たちは私のことを「素直ではなく不器用なやつ」


 アルバイト先では「今日は名和さんが出勤なのか」


 それはあれだ。昔の鉄道でいうところの青春18切符で旅をしていたら211系が来た。そのような感じだろう。


 だけどよく考えて欲しい。

 

 どうせ211系が引退したら、人々は211系はよかった。とかもう一回211系に乗りたいとか言ってくるのだろう。

 人というのは随分と身勝手である。


 身勝手であるから、神様は何度も人類を滅ぼそうとしているのだろう。なんだが同じ人間として申し訳ない気持ちになった。


 ただ、神様。私は人間様が嫌いなのでどうか私を滅ぼさないで欲しい。というか私を神に昇進させてお金を、風呂の方舟に大量の金を詰めて欲しい。私は他の人間と違って傲慢でもないし、欲などございません。


 初詣、ちょっと遊び感覚に神社に行って5円ぽっちのお金を払い、沢山の願い事をするリア充ともとは違うのです。だからどうか、お願いします。


 人間など愚かだ。


 そんなことを思いながら私は、三郷JCTの高架の下に来ていた。

 タービン型のジャンクションで常磐道、東京外環、首都高の分岐である。

 いざ下から見ると右、左と高速道路は複雑に上下クロスをしている。こんなものを作るなど人間は偉大である。


 その途中かかる歩道橋上空には高速道路と、まんまるのお月様がいた。

 そのお月様は私を見て笑っているようにも見える。何を笑っとるんじゃ、こら。


 そして上から、下から。車のエンジン音、トラックの走行音が聞こえる。

 しかし生身の私は、私だけ。


  そのせいか、この交わる世界を支配したような気持ちである。


 私しかいない。


 だから私は泣いた。

 シクシクと。暖かい涙は、私の頬に伝わる。

 無機質なコンクリートに囲まれ、車はまるで私などいなかったかのように無視して通り抜ける。


 人は無機質だ。


 時折、嫋嫋と吹く風が鬱陶しい。

 そのせいで、体が凍り、涙が熱を持つ。


 足の骨は弱々しく、立っているのはやっとだ。とても健康体の足とは思えない。


 と、目の前から人がやってきた。

 だけどそれは人ではないような気がした。

 こんな時間に、こんな時期に人などくるはずがない。


 しかもその人は小柄な女性であった。

 身長、140センチぐらい。フードを被っている。

 小学生か、中学生か分からない。しかし少なくとも大人ではない。


 誰だろう。

 子供がこんな夜中に、こんな無機質なコンクリートしかないところに、1人で歩いているのが不気味に思えた。


 そして少女は


「えすこ、えすこ。姉さん、えすこ」


 そう言った。言葉の意味は分からない。

 少女の顔の表情ははっきり分からない。

 だけどどうも笑っているように見える。


 私は急いで涙を拭う。


「えすこ、えすこ」


「えすこ?」


「そう。えすこ。えすこな縁」


「えすこって?」


「姉さん。山陰地方行ったことある?」


 彼女は笑みを浮かべてそういった。

 何の脈略もない質問。

 私はいう。


「行ったことない」


「それじゃ、行ってみて」

 

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