第10話 サンライズに乗って

 本編から離れて、私が経験した不思議な話を

しよう。

 実は鳥取に行ったのはこれが初めてではなかった。

 あれは大学生の頃だった。 


 恥ずかしい話、私がまともに電車に乗って初めて旅をしたのは大学生の頃であった。


 通勤で京浜東北線やら、京急を使うことはあった。しかし特急という種別に乗ったことなどない。


 だから、最初自動券売機で切符が2枚出てきたのは驚いた。


 ネットで予約して緑の券売機へ。そしてQRコードを読み取り、ワンパスワードがスマホに送られる。そのワンパスワードを券売機にうちこんで発券。

 私が若者でよかった。

 こんなの、ネット環境が疎い世代は出来ないだろう。


 しかし問題はその後だ。

 出てくる切符が一枚かと思ったら2枚出てきた。

 しかももう一枚は寝台券と書かれており、細長い。


 一体これはどうやって使うのだろうか。

 分からない。

 それを手に持って私は自動改札へ。通す。

 するとビコン。と改札がなって扉が閉まった。


 耳目が私に集まる。

 悪いことをしたわけじゃない。それでもどうもかなり悪いことをしたような気分になる。

 だから、無意識にペコリと頭を下げたが、それも尚更悪いことをしたのを認めたことになったようで恥ずかしくなった。


 どうやら細長い、寝台券は改札に通してはいけないらしい。これは車内検札になるらしい。

 車内検札。まるで田舎くさい。

 いや、まぁ湘南新宿ラインでも一応車内検札は行っている。行っているけど、今はSuicaグリーン券が主流になっているから大抵は検札という行為が必要ないらしい。


 それを持ってホームへ。

 21時50分発。

 昔は22時発だったらしいが、特急湘南が出来たのでこの時間に変更された。


 しばらくして電車が来た。

 肌色の車両。オール二階。

 珍しい。一部湘南新宿ラインで二階建て車両はあるが、これが全てなんて珍しい。


 ほんの少し昔にはMAXというE4系新幹線がオール二階建てだったらしいが、今はもう走っていない。


 それに乗り込む。

 中は鉄道とは思えなかった。

 小さなホテルのような……カプセルホテルのような雰囲気であった。


 私の部屋の扉をあける。

 bシングル。


 サンライズのコンセプトは、かつて走っていたあけぼののようなブルートレインの1つ上のランクというものを目指して作られたと聞いたことある。


 なるほど、それはこういうことか。

 ベッドと簡易的な机。あるのはそれだけ。だけど足はキチンと伸ばすことできるし、大きな円形になった窓は、まるで宇宙船に乗っているような、秘密基地で睡眠をつくようなワクワクがある。


 ゴロン。仰向けになる。

 藍色の空が私の顔を見つめている。

 なるほど。なるほどな。

 これは快適だ。


 通常のホテルよりは洗面台もなく、トイレも備え付けではないので、一旦外に出ないといけな。


 それでもだ。


 ちゃんと鍵はついているし、何よりも電車に揺られながら寝ることが出来るという貴重な経験ができる。


 ちなみに最上級のA寝台は、洗面台もちゃんとついていて本当にホテルのようであるらしい。


 ドンっ。

 大きな衝撃と共に鉄道は発車した。

 それと同時に私の心臓も高鳴る。ついに動き出した。


 そして思う。

 そういえば、どうして私は鳥取にこの時旅行しようと思ったのだろうか。


 それはあの時、見知らぬ声に呼ばれたからであった。

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