第9話 サイタマにサヨウナラ

 埼玉からサヨウナラ。関東からサヨウナラ。

 そんな時期がやってきた。


 次、住む場所は鳥取である。

 難易度が高い。


 名古屋や大阪と呼ばれる大都市ですら私にしいたら外国みたいなものである。

 だとしたら鳥取は宇宙だ。つまり鳥取は宇宙だ。


 ……何を言っているんだ。私。


 ある日、私は早乙女さんに「これで勉強しな」と言って鳥取の観光ブックを渡された。

 だから、私は別に観光で鳥取に行くんじゃないんだっけ。


 そんなことを言っても彼女の耳には入ってこない。彼女は鼻歌混じりに鳥取行きの準備をしていた。


 それに比べて私は憂鬱である。

 今まで長く住んでいた関東からお別れをすることになるのだから。

 渋谷や池袋のあのビルの街並みからさらばしてしまう。


 嫌だ、嫌だ。


 ある日、早乙女さんは休憩中に鳥取の観パンフレットを見ていた。


「鳥取行ったらまずどこ行こうか。宍道湖、出雲大社とかそこ行きたいな」


「それら、鳥取じゃなくて島根ですよ」


「それじゃ、松江城」


「それも島根なんだって」


 そっか。そしてペラペラと紙を捲る。

 どうしてそんなに楽しみにすることが出来るのか。どうしてそんなにプラス思考なのか。私には理解できない。


「それじゃ、観光する場所は砂丘?」


「それ以外にも鳥取には仁風閣・宝扇庵、鳥取城後、皆生温泉やら浦富海岸、大山とか色々あるでしょ」


 と私が言ったところ、彼女はページを捲り目を点にした。


「な、なんですか。その顔」


「いや、なんか鳥取に詳しいなと思って。鳥取に行ったことあるの?」


「うん、まぁ……少しだけ」


 少し遠い過去のことを思い出した。

 そうだ。あれは私が大学生の頃である。

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