第3話 私と彼女の出会い
私と彼女……の出会いは運命。それも良縁……ということにしておきたかった。
残念ながら良縁とはいかない。
それは手錠をかけられたような、運命を呪いたくなるような出会いであった。
元々、私というのはこの仕事に対してのモチベーションというのがそこまで高くなかった。
そりゃそうだ。
自分の憧れていた……絵に描いていた世界というのはこんなんじゃない、
複雑に複数の線路があみだくじのように交わり集中する、大都会のターミナル駅。その駅は街のシンボルであり、天井を見上げるのも首を痛めないと見ることができない。そこにやってくる電車は、わずか数秒で無数の人を吐き出す。
その人は本当は、男、女、若い人、年寄り、色々な個性があるのに、あまりの人の多さにそれらは一緒くたにせざる負えない。
その無数の点を、収納し、行き先案内板などで点の行き場所へ誘導する。エスカレーターに立ち止まって乗っている人などは、工場に出荷されるもののようである。
その無数の人の行き場所を導く場所は、荘厳で、その駅にくっつくようにある私が志望していた百貨店。
そこには、素敵な商品を求めて、綺麗な服を来た女性たちが来店。
私はその女性たちを、さらに綺麗に美しくするような仕事を。そしてその人たちの憧れの的になるような店員になるような仕事を志望していた。
それがどうだ。今は。
「おい、このうどん3割引されてねーぞ」
それがどうだ。
今はうどん3割引き、つまり8円引きされていないだけで怒鳴られる店員になってしまった。
一応言おう。
1着数万円の服を取り扱っている会社と同じ会社である。
私の店舗は、お土産や兼地域のコンビニとしての役割を担っている。だから地域の野菜なども仕入れていたりする。その野菜やら食材が他スーパーよりも安値で地元では好評である。
当然ながら私の店舗ではルイヴィトンを取り扱っていないし、野菜にグッチのマークがついていたりしない。
どうしてこうなった。
就職活動に失敗したから?
いやいや。就職活動には成功したのだ。
ちゃんと自分の希望の会社に就職をした。
ただそこは希望の部署ではなかっただけで。
就職活動を現在行っている諸君にいいたい。
希望の会社に就職をしたとしても、そこで終わりというわけではない。むしろそこからが真の戦いである。
私の場合、すぐ横に希望の職種がある。しかしそれは中途半端な距離。
月は地球から近いと言われているけど、実際に行こうとすると果てしなく遠い。それと同じ。
だから辛い。手を伸ばそうとすれば届きそうではあるから辛い。
これはあれだ。バレンタインチョコレートで手作りチョコレートを貰ったから告白をしたらフラれた。そのような現象に近い。
と、まぁ本来であればすぐ様退職届を出せばいいのに、まだ自分の希望の職種に行ける可能性があるということで中々退職届を出すことができていなかった。
そんな中、私の勤めている店舗の社員が1人辞めていくことになった。私はその社員の後追いをします。冗談でそのようなことを言ったら、店長が涙目になりながらそれだけはやめてと言った。
冗談です。と言ったら店長は顔を赤くして怒った。まさか、あの冗談でそこまで怒られるのか。それほどこちら側には人が不足しているのか。もしかしたら私は百貨店に戻れないのかもしれない。
本気でこの会社を辞めたくなった。
と、言った感じで辞めた社員の補充として1人入ってくることになった。
「早乙女さん?」
「知っているのか?」
「いえ」
一体どんな人なんだろうか。
聞いた話、私と歳の近い女性社員なんだけど。
そして早乙女さん、配属初日。
私は1秒でも早く彼女の様子を見たくて、その日は朝早くから出勤をした。
そして。
いた。
扉の前に女性が1人。
最初はその人が同じ店舗の店員かと思わなかった。いや、思えなかった。
すらりとした身長、輝く黒髪。整った柳眉。
モデルかと思った。何かの映画の撮影だと思った。
そして彼女は口を開く。
「クソみてーな店舗だな」
その美しい容姿からは想像ができない言葉。耳を疑う。
「早くこの店舗から異動しねーと私がダメになるな」
やはりだ。
聞き間違いではない。
これが私の最悪な先輩、早乙女女々との出会いであった。
彼女は美女に化けた鬼であった。
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