第9話 冨永月愛は覚えている。『…………す、凄いです、何ですかアレは!?』


※月愛視点※

 

「颯流の大きな手も好きです。颯流が私を目の前の危害から遠ざけようと本気になってくれた時は颯流の掌から生きる勇気が流れ込んで来ました。あのときに颯流が私の手を握ってくれたから、今日も私は元気で明るく生きられてます」

「えっと」

「颯流の誠実さが好きです。ママが居なくなって心を病んでいた私を決して邪険に扱うことはせずに、側に居ることを許してくれて私は孤独感に苛まれなくなりました」

「あの」

「颯流の優しさが好きです。私が1度高熱でベッドに倒れたときはわざわざ学校を休んでまで私の看病に1日中付き合ってくれて心がじんわりと来ました。颯流は不味い出来だと言っていましたが私にはあなたが作ったお粥が美味しく感じられました」

「だから」

「颯流の価値観が好きです。私がママから習ってきたフィリピン料理も『異文化交流は大歓迎だよ』と言ってくれて残さず全部食べてくれて本当に嬉しかったです。毎食欠かさずに美味しい、ご馳走様と言ってくれる一面も大好きです。私もご飯を作る度に次はもっと美味しいご飯を作りたいと思えるからです」

「俺は」

「颯流の笑顔も大好きです。スイッチーズで一緒に遊んでて颯流が勝負に勝って喜ぶときの無邪気な笑顔も、ラノベを読んでるときにふと溢れてしまう笑みと笑い声に、冗談でお腹を抱えながら高笑いするときの笑顔も好きです。いつまでも見ていたくなりますから」


 それだけ一気に捲し立ててあげると、私は彼の手を握って言葉を届けました。


「だから私の大好きな人が私の大好きな所を否定してあげないで下さい。颯流が自分を卑下する度に颯流のことが大好きな人が悲しみますので。また不安に思うことが出来たらいつでも私に相談して下さい、颯流が自分の不満点を述べる度に私が颯流の良い所を10個述べますから……颯流は颯流が考えているよりずっと魅力的な男性ですよ。それは今までずっと颯流の側に居てきた幼馴染の私が保証します」

「〜〜〜〜っ」


 んふふっ……今思い出しても自然と頬が発熱してしまう程に熱い告白場面でしたね。このときに颯流が将来の夢が見つけらない自分のことを宜しくない言葉で言い表してたので、叱る気持ちも含みながら愛を伝えていました。最初は猛烈に恥ずかしくしていた颯流でしたが次第に真剣な表情で私にこう言い聞かせました。


「ありがとう月愛、気持ちが嬉しいよ。もう今日からなるべく自分を下げないように気をつけるからさ。……それで返事だけど、俺はお互いが両思いじゃないと付き合う気になれないから、そこだけはどうしても譲れないんだ。だからごめん」

「いいえ謝らないで下さい、私は今すぐ颯流と付き合うのが無理なことを承知な上で告白をしたのですから。颯流の恋愛観は以前から知っていましたし、今は高校受験に集中して下さい」


 当然かもですがこれから受験生になる颯流が勉強を疎かにする選択肢を取るはずも無かったので私はフラれてしまいましたが、悔し泣きしたことはありませんね。もっとも後ほど私が1度目の高校2年生に上がるときに嫉妬が爆発し始めるのですが──


 あの告白の日以来は私の態度が一層露骨になったようで颯流も戸惑っていましたがどうしてでしょうか、次第に私からの好意を億劫に感じ始めたんですよね。それでも颯流が私のちょっとした悪戯に大袈裟に反応してくれて嬉しく感じる私も私ですが。


 愛情表現に次第に大人っぽい要素も付け加えたら反応が凄かったのが原因なんですからね颯流? 今でもこの目に焼き付けておいたあの光景は鮮明に覚えてますから。




 ※




 思春期の男女のことですから、周囲を見渡してから私が運動して脱いだ汗だくのシャツに鼻を埋める様を見て私もドキドキしたり、隠せてると思い込みながら私の脱ぎかけのブラを触ってることも本気で可愛かったですよ! まあ意図的に居間に放置したものですから、こうなることは私の仕掛けによるものでもあるわけですが……。




「…………よし、月愛は居ないな」




 そして極め付けは……んふふふふふっ〜。今でも本人には内緒にしてますが、本当は知ってるんですからね? 私が意図的に洗濯機の上に放置させた脱ぎたてのパンツを持って、颯流がそれをおかずにしてオナニーしていたことを! 何故ならあのときも私は廊下で扉の隙間から見るようにして、自分を慰めていたんですから!


 それにあのパンツは私が今朝に1度脱がずにそのままオナニーしたときに使ったものですから、今もあんな風に鼻を当ててるとさぞ酸っぱいチーズのような匂いがして頭がクラクラすることでしょうね。アハっ、予想通りに気に入って頂けたようです♪


 ふふふっ、本当に可愛いですね……あんな風に必死に活用して頂いてる様を見せられたら興奮するじゃないですか。……そう思っていると颯流が近くの椅子に座り始めたのですが、角度的にこちらからバッチリとそれが見えるようになって私は──


「〜〜〜〜ッ!!」


 声を出しそうになり私は咄嗟に自分の口を両手で塞ぎました……ちょっと待って下さいよ、へっ!? …………す、凄いです、何ですかアレは!? ……私が最後に颯流の大きくかったおちんちんを見たのは、小学4年生で最後に一緒にお風呂に入った日でしたが……あの頃とは比べ物にもならない程に立派になってるじゃないですか!


 なんて逞しくなられたのでしょう……あまりの迫力に目が離れないじゃないですか……ああこれは不味いですね。今すぐここから離れなければ私の覗きがバレちゃいます。なので私は溢れる液体を決して床に零さないようにして寝室へと逃げました。


「……見ちゃいました……」


 ここは颯流のママの寝室で長らく使っていなかったので颯流も寄って来ない絶対安全の領域……なので私はベッドにダイブすると、颯流が昨日運動する際に使っていた匂いのきっついパンツを抱えながら先程まで見ていた光景を何度も再生させました。


 5年前とは比べ物にならない程に進化してしまった颯流の──


「逞しいです、凄く硬そうです、ビール瓶みたいです、アレは危険です、あんなにふっくらと、ちゃんと入るでしょうか……アレは絶対に女を泣かせますよ〜っ!」


 アレが……アレが、颯流の漲った男性器。

 あんなカッコいい顔して、あんな可愛い笑顔を浮かべて、最近は冷たく振る舞うようになった颯流があんな……あんなに興奮して私のパンツで直接アレを〜〜っ!!


「キャ〜っ!」


 私はベッドで両手を頬に当てて全身をくねくねさせるのを止められませんでした。

 んふふふ〜っ、本当に凄いです……現実の見え方がオセロで全ての盤面をひっくり返すように、こんなにも一瞬でガラリと変わるものなんですね〜。んふふふふ〜っ。


 だって……だって、普段は温厚で私が悪戯する度に眉を顰めて反論してた颯流が、目をギラつかせて深呼吸をしながら、私の衣服で自分を無我夢中に慰めてて──


「……うぇへっふへへっうへへっふふふ〜」


 ヤバい、ヤバいですさっきからニヤけが止まりません。それにこれは致命傷ですね、颯流に見られたらイメージが崩壊しちゃいます。なので一旦落ち着きましょう。そうですか〜颯流のはもうあんなに立派に成長されたんですね〜。えへへ〜私大丈夫でしょうか〜? いざ颯流に押し倒されて『挿れたい』と言われたら出来ますか〜?


 もちろん私の純潔も身体もこれから颯流専用ですけど、凄く大きかったですしやっぱり最初は痛くなりますかね? だって、あんなの入って来たら確実に今までに無いくらいに拡張されちゃいますよ……無様に喘いだりしないでしょうか私は〜?


「絶対に涙目で喘いじゃいますよ〜! はあっ、はあ〜っ……」


 再び湧き上がってくる衝動の熱を発散させるように深呼吸を試みました。

 んふふ〜っ。これはもう勘違いする余地がない程に颯流は私のことをちゃんと1人の異性として意識してくれてますね。じゃないと私をおかずになんてしないでしょうし。私のアソコの匂いであんなにも興奮する姿を思い出すだけで切なくなりますね。


 それにしても驚きましたよ……当たり前でしょうけれど颯流も性欲旺盛な年頃の男の子だったんですね。私は颯流のパンツに顔を埋めながらだらしないニヤけ顔を浮かべるのを辞められなくなり、ただひたすらに嗅覚に集中しました。


 ああ〜この汗臭さとアソコの匂いがムワッと広がる空間……病み付きになりそうですねぇ……私も下着でオナニーするのを真似してみましたがこれは堪りませんよ……自分が大好きな人の下着を汚すことが、こんなにも背徳感を刺激させられる行為だったなんて私知りませんでしたよ……このパンツ家に持って帰りたいですね。それに、


「えへへ……匂いフェチ、下着でオナニー、私と一緒ですね〜♪」


 んふふっ〜。今日以降はあなたがどれだけ素気ない態度を取って不機嫌な顔を浮かべても、もう私には何一つ誤魔化せなくなりましたからね?


 今頃自分の下着はドロッドロになっていることでしょうね……再びあの光景を思い出しながら私は、下腹部に手を伸ばして指で自分の体の一部を弾いていくのでした。




 ※




 ふふふっ〜あれは今思い出すだけでも膣奥がキュンキュンしちゃうような私だけの秘密の素敵な思い出でしたね〜。アハっ、それを颯流にバラしたらどんな反応をするのか今からが楽しみですね……折角の切り札なので大事な場面まで温存しないと〜。


 結局私の予想は見事に当たりあの日以降に颯流は私からの更なるアプローチでより慌てふためくようになりましたね……それでも肉体関係に至らなかったのは彼の集中を妨げる恐れがありそうだと私の勘が告げていましたからね……仕方ありません。


 快楽堕ちで受験に失敗したら私は自分の軽率さを呪うでしょうから。ただ受験本番と言えば何故か颯流は私が通ってた花園高校以外の国公立を受けて高得点を取っていたから、他の進学路を潰すために久しぶりに実力を解放せざるを得なかったですが。


「また落ちたのか〜まあ花園も偏差値が高い進学校だし別に良いか」

「ええ、そうですね。そもそも大阪で1番良い高校に受かっておいて他の高校に浮気だなんて贅沢も甚だしくありませんか?」

「ふっ、確かにそうかもな……まあ元々第一希望だったし気にすることないか」

「ええ、そうですね! というわけでこれからも宜しくお願いしますね颯流っ!」


 颯流が志望校を絞るときに花園に来ませんか? と提案すると最初は違う高校を名に挙げていたので、私は繰り返し花園の魅力を伝えることでやっと納得してくれました。だって仕方ないじゃないですか、私はどうしても颯流と同じ学校に行きたかったんですから。


 それに大阪府の高校と言えば、偏差値が60代かつ年間行事イベントに物凄く気合を入れてる国立花園高等学校が代表格なのですから。普通科だけでなく国際文化科というコースもあって夏休みになればオーストラリアに宿泊学習へ行けるんですから。


 学年が1つ違うのがネックで今年は留年をするために試験でわざと赤点を取り、周囲の人間に私の存在を忘れるようにお洒落な格好を辞め、学校生活では伊達メガネやマスク、それから前髪というもので顔を隠すように準備をした程ですから。


「んふふ……私のクラスでの存在感は狙い通りに空気と化せたようですね〜」


 これで留年をしても「お前元々3組の松本じゃねえか」と同学年の人たちに指摘される心配性も無くなり、原級留置制度を取るときに教師陣が余計な情報を外部に漏らさないための説得にほんの数分だけ私と狭い空間に閉じ込められたら余裕ですから。


 夏にもマスクしてるせいで一層お肌のケアに慎重にならざるを得なかったのが少々ネックでしたが、これで颯流と幸せな学校生活を送るための布石が大体整いました。


 ……あと1つだけ目の上のたん瘤を残したまま、ですが。ある夏の日の放課後に、颯流が1人の女子生徒と楽しそうにして図書室へと入っていく所を目撃しました。




「この前私に貸してくれたラノベ超面白かったよ冨永くんっ!」

「そっかぁ、それは良かったよ! ほら読んでみて主人公が〜」




 この女の子が後に私の恋敵であり、颯流との幸せな学校生活を過ごすにあたって最大の障害物となることを、この頃の私はまだ知りませんでした。




【──後書き──】

 これは本気で恥ずかしい黒歴史ですね。

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