第7話 冨永月愛は男性嫌い。「……ほんと気持ち悪い……」


※月愛視点※


 一般の男性なんてただただ気持ちの悪い下卑た生き物でしょう……まあこの考えは生まれたときからではなく、私が他人や環境に影響されて備わったのは認めますが。


「ほらおいで月愛ちゃん。体の調子がおかしいようだからおじさんが診てあげるよ」


 そう言えば私が根本的に男性を毛嫌いし始めたのは、私がまだ小学3年生の頃の保健室の先生が元凶でしたね。あれは保険診断のときに保健室の先生に放課後に再び行くように言われたので行ってみれば、このおじさんに身体を撫でられてましたか。


 頭を撫でられて折角ママが結んでくれたツインテールの髪型が台無しになったり、手に腕、肩に首、太腿に足、など満遍なく触られていたのが不愉快でした。はあ……今からあのおじさんの顔を思い出すだけでも眉を細めてしまいますがとにかく、胸を触られそうになった時はママの言いつけ通りに手を払うとそれきりになりましたが。


「月愛ちゃんは幼くて可愛いのに色気があるんだね。まだ小学生だというのに、君は色気と可愛さが物凄くアンバランスだから先生が矯正してあげるよ。だから、ね?」


 今から思い返せば当時の私は周囲の女性とは比べ物にもならない程に私の自慢だったママのセクシーなスタイル宜しく大人びた身体を持っていましたね。その頃は自分の美貌をまだ自覚していなかったので周囲の男子たちの視線が気になってましたが。


 あの先生が吐いたヒントと周囲の男子からの視線を当時の私が推理してみた結果、そして根拠を確かめるために図書室に置いてる本やママのパソコンを少しだけお借りしてネットサーフィンすると私が立てた仮説が正しかったことが判明しましたね。


「うわあ……男子は皆は私の服の下を見てたんだね……ほんと気持ち悪い……」


 ふふっ、あの頃は世紀の大発見のような事案でしたから当時に、まだ自分の中で敬語をコミュニケーションの基本にしなかった私が思わず呟いたセリフを鮮明に覚える程に衝撃的なことでしたから……それからはクラスの男子にも絶望する日々でした。


「松本さんのことが好きなんだ。俺と付き合ってくれ!」


 私が中学1年性の頃にそんな告白をしてきた男子生徒が居ましたね。人生で初めての告白を受けた私は最初は戸惑いましたが、すぐに嫌悪感で心が支配されました。私のことを好きだと言いながら視線は私の首から下を彷徨っていたのが露骨でしたし。


 ついでにその際に向こうが手を差し出して来ましたが少しは性知識を勉強していた私はこんなことを思いましたね、『毎日家で自分の肉棒を握っているその手で私に触れようとするの? 本当気持ち悪い、気持ち悪い、吐き気がする、醜い生き物』と。


 そもそもその男子の名前もその後に押し寄せて来た下卑た狼たちの名前も覚えることはありませんでしたね……最初から興味ないものにほんの少しでもリソースを割く価値が無いと感じていたので仕方ありませんでしたが。その頃に益々男子を毛嫌いするイベントがあと2つありましたね。ある日廊下を歩いてると歌声が聞こえました。


「I LOVE FUCKING SEX 中出し! 中出し! 中出し! 中出し! 中出し! 中出し! I LOVE FUCKING SEX ゴ〜〜〜〜〜ムに穴、開けろ! 中出し〜」


 そんな狂気じみた歌声が男子トイレから聞こえて来たんですよね。原曲はパーフェクトヒューマンだったはずですが何故か下ネタ風に歌詞が書き変わっており、それも複数の男子が歌っていたものだから完全に失望しました。結局彼らはその後に偶然通り掛かった学年主任の先生に痛い目に遭いましたが、私の心は晴れませんでしたね。


 かつてモデルをしていた私のママから受け継がれた遺伝子は余りにも優秀で、私はフィリピン人のママと日本人のパパでハーフになったおかげで数多の男子から溜息が出る程に話しかけられましたね……美少女に育ったというのに複雑な気分でしたよ。


 私の肉体が男の本能を狂わせる程の破壊力を秘めていたのは自覚していたので自分の体が誇らしかったけど不快に思ったりもしましたね……例えばある日に数人の男子が私のことを話題にして話し込んでいた様を偶然聞いたこともありました。


「月愛の身体ヤベエよな。ありゃ何人の男とヤったらあんなスタイルになるんだ?」

「知るかよ、けどエロいよな。くう〜生中出しで白い花火を打ち上げてえ〜!」

「おっぱいの形もやべえっしょ。あれD……いやEカップくらいあるくね?」


 今から思い返してもただひたすらに生理的な嫌悪感を抱くような会話でしたね。当然私はまだ処女ですしあなた達がEカップだと勘違いしてる私のおっぱいの本当のカップ数はGカップですから……もちろんそんなことを指摘もせず立ち去りましたが。


「やっぱり一般的に男は誰も彼もが性欲に飢えたゴブリンね……卑しい生き物たち」


 時々映画やドラマで見るような恋愛に憧れることもありましたが現実では誰も彼も私の服の下よりも内側を見ようとして来た人は学校に居ませんでしたからね……彼らが自分に求めるのはセックスばかり。本来は愛し合う者同士が子作りや愛を伝え合う手段として用いるはずでしたが……彼らを思い返しただけで吐き気がしましたね。


 厳密に言えば1人だけ唯一その対象外の男の子が居ましたが……私が中学2年生に上がってすぐに事件は起こりました。今思い出しても無意識に握り拳を作ってしまう程のことでした……ある日に帰宅して家に帰ると、ママが男に犯されていたのです。




「ヒーッハッハッハッハ! やっぱり最高だぜこの女ぁ! ほら今度は横向けや!」




 家の扉が開いていたので不審に思って居間を除いてみたら私のママを粗末に扱うようにして、私が今までに見たことも無い男性が無我夢中に性行為に励んでいました。


 初めて遭遇する事態に私はどうしたら良いのか分からず呆然としていると、うっかり肩に掛けていた鞄を落としてしまい男性に私の存在が認知されてしまいました。


「お? はは〜ん。おいアレがお前の娘か? 流石モデルの子だけのことはあるな」


 男性はママにそう問いかけるが床でぐったりしていたママは意識が飛んでいたのか、一言も返事をしてくれず私は心底恐怖しながらも何とか男と会話を試みました。


「っ…………あ、あなたは、誰……ですか?」

「あ、俺が誰かって? ひーっ」

「……っ」


 するとニヤ〜っと汚らしい笑みを浮かべた男性がママから陰部を取り出してこちらへと歩み始めました……それを見て私は背筋が凍りついたのを肌で感じました。多少は性知識を勉強していたはずが、媚薬を用いると性行為でパートナーが意識を飛ばすこともあるとまだ知らなかった私には、ママが苦しんで殺されたように見えました。


 それに初めて見る大人の竿の色も相まって完全にママを撃ち殺した銃に思えたのです。生理的な嫌悪感を覚える前に私は自分の命が狩られるのではと思いました。少しずつ近づいて来るソレから逃げ出すように慌てて家の外へと走り去ろうとしますが、


「おっとぉ! 今更逃すわけねえだろ〜?」

「ぐっ……離して下さいッ!!」


 一歩だけ遅かったようで手首を掴まれると床に組み伏せられて覆い被されました。情けない限りでしたがこの頃の私はまだ自分の身を守る術も知らないごく普通の女子中学生だったので、組み伏せられたらもう何も出来なかったのが当時の私でした。


「うるせえ黙ってろクソガキが。今度はお前の番だからよぉ?」

「や、辞めて下さいッ!! それにママ、ママに何をしたんですかッ!?」

「なあに、媚薬漬けにしてやったらイキ狂ってイっちまっただけさ」

「ヒッ」


 身体がオーガズムを達することに『イク』という別の呼び方があったことをまだ知らなかったこの頃の私はその言葉を『逝った』と解釈し、のんびり帰宅していた間にママが殺されたと思い込んだ私は自分の愚かさに絶望して泣き崩れてしまいました。


「ウッヒョお〜。美少女が泣く様もグッと来るぜ、最高じゃねえかよオイ! はは〜っそうだ、もっと、もっとだ! もっと泣き叫べやなあオイ!? オラ股開けや」

「いや……いや! イヤッ!! 嫌でず……うぅ……ぐず……パパ、たずげて……」

「ヒーッハッハッハッハ! 今更助けを呼んでももう無駄だ、さっさと服脱げや」

 

 そう言えばパパとはもうかれこれ長い間会ってませんでしたね……当然でしょうけれどここで私を助けに来るヒーローが突然現れる事もなく、現実で私は少しずつ服を脱がされて行き下着に手を掛けられた所にどうしても気になったことを聞きました。


「あなた……こんなことをしてて、楽しいんですかっ?」

「あん? ハハーっ!! 当たり前だろ楽しくなけりゃ最初っから面倒なことはしねえんだよ! 泣き叫ぶ女を犯すのは最高に楽しいぜっ! だからお前も楽しめよ?」


 よし上手く引っ掛かりましたね……これで周囲を見渡しながら話を聞き続けます。


「……っ、心が痛まないのですか……こんなことをして、タダで済むとでも……」

「はっ、あまり抵抗しないご褒美に良いこと教えてやんよ、元モデルのガキ。この世の不利益は全て当人の能力不足なんだよ。仮にお前が体術の達人だったらこんな無様な格好で、これから俺に犯されることは無かったんだからよぉ? 呪うのはお前じゃなくて弱い自分自身にするんだな? ヒーッハッハッハッハ!」

「〜〜〜〜ッ!!」


 彼の言葉を聞いて私は自己嫌悪に打ちひしがれて再び現実に絶望しました。


 パパは居なくなり、ママは媚薬漬けにされて犯されて殺され、私も最後には犯されて死ぬ……こんな男に今まで守ってきた私の純潔が理不尽に奪われると言うのですか……なんて醜い最期なのでしょうと思っていると、怒りと悲しみで感情がグッチャグチャになりました……私は、なんて弱い人間なのだろうかと、自分に対してです。


 パパには早い頃から居なくなられてしまったため、もうほとんど顔も覚えていませんが……過去に人気なモデルとして活躍してたママには今まで愛情を注いで貰ったというのに、私はママに何かを返すどころかただ犯されて逝く様を見殺しにすることしか出来なかった、大した親孝行も出来なかったそんな自分を心底嫌悪しました。


 だけど目の前の男性には慈悲のカケラも無く私を犯す気満々でした。彼の手が私のパンツの紐に掛かった時は『もう、どうにでもなってしまえ』と自暴自棄になりましたが、そんな時でした──私は膝立ちになって片手で私の両手を拘束していた男に、持てる全ての力を振り絞って彼の股間に『ドスン』と重たい蹴りを叩き込みました。


「グオオオオオオオッ!!?」

「っ……邪魔ですっ!」


 先程は完全に諦めていたはずなのに何故私は現実に抗ったのでしょうか──その答えは私にも分かりませんでしたが、とにかく自分の股間を苦しそうに抑えていた男性が倒れていたので払い退けると、私はすぐ外出できる服装に着替え直しました。


 それからすぐに玄関で靴を履いて飛び出しましたが私の蹴りの威力が不十分だったのか、先ほどの男性がすぐに『待てゴラクソガキがああああ』と追いかけて始めたので、私は溢れ出る涙と鼻水を無視して行く当てもなくとひたすら走り続けました。


 そんな風に走っていると、私は1人で学校から帰宅中の男の子を見つけました。




「る、月愛!? おいお前、どうしたんだよっ! 何があったって言うんだよ!?」




 運良く私は幼馴染の颯流に遭遇して、私はそんな彼の胸の中へと飛び込みました。




【──後書き──】

 月愛視点による過去回のオンパレードなのであと3話ほど続きます。

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