第5話 元幼馴染は性癖がバレる。「どれどれ、タイトルを読み上げてみますね♪」
「……これはヤバいな」
「んふふっ。ええそうでしょう〜? 今日から颯流との同棲生活が始まるんですね〜! 考えてみただけでソワソワして来ましたぁ♪」
「こっちは今からヒヤヒヤしてんだよ畜生」
結局2時間もたっぷりビュッフェを堪能した後は親父を次の飛行機まで見送り、そろそろ夕暮れが差して来そうな時間帯に俺たちは俺の家へと向かうことになった。
改めて隣の月愛を見てみても茶髪を風に靡かせながらお洒落な格好だ……それで背中に鞄を背負いながらキャリーケースを転がせてる姿はまさに旅行者のようだ。
「……ラゲッジの方、やっぱり俺が持つよ」
「ぁ……んふふっ、有難うございます! 颯流ったら自然に手伝ってくれるんですから、そういう所も本当に大好きですよっ! んふふ……それじゃあお言葉に甘えて」
「……あっ、ああ──ぅおっ?」
手に持ってみたら見た目以上の重量で軽く驚いてしまった。
明らかに大量のお土産が入ってるな……オーストリアのウィーンでの旅行か……。
「そういえば月愛、ゴールデンウィーク中に親父に会いに行ったようだな。マジでどうやって居場所を突き止めたんだ?」
「ええ、そうですね。ちょっとだけ衛星の力をお借りしたかも知れないですね〜」
「それってハッキングしたってことか!?」
マダファッカーならぬ、マダハッカーになっちまったようだなこいつは。
「んふふっ、まあことの詳細は女の子の秘密ですよ〜。そんなことよりもキャリーケースが結構重たくてビックリしたでしょう? 当然ですが折角外国に赴いたので、もちろん観光がてらブラブラして来ましたよ〜それで沢山の品が手に入ったんです!」
「随分楽しそうな1人旅行だな」
「ええ、それはもうすっごく楽しかったですよ〜っ! また今度颯流も連れて行きますね〜!」
「そう……それでどこに行って来たんだ?」
そう聞いてあげると喜びを爆発させたように溜め込んでいた話題を投下していく月愛の横で、自分なりに想像力を働かせて文章のイメージを頭の中で展開していく俺。
「そうですね! 先ずは読書大好き人間がオーストリアで行く場所と言えばプルンクザールという、オーストリア国立図書館ですよ!! あそこは本当に綺麗だったんですよ!? ほら写真撮って来たので見て下さいよ、この世界で1番美しいと言われている絢爛豪華な図書館を!!」
「うわ、スッゲーなこりゃまた」
「ええ、そうでしょう!? ど真ん中に立っているカール六世の像もカッコいいですよね。なんとここにある蔵書はハプスブルク家のもので20万冊を超えるんですよ! あ、そうこれ、これです! ウィーンのバロック建築の多くを手掛けた──」
純粋に楽しそうな笑顔を浮かべて自分の体験談を語る月愛はやっぱり可愛かった……例えるならば断崖絶壁に咲き誇る一輪のチョクレートコスモスの花だ。
やがて2時間程も電車や徒歩で月愛のトークに付き合うのを繰り返してると、俺の家の前に着いた。
かつては俺の親父が買った家で両親も住んでいたから3階も部屋があって広くて、何とガレージにプチ庭園まで備わっている程の無駄に豪華な自宅だ……のは良いんだが、何故か1台のトラックが停まっており庭の手前に段ボール箱が積まれていた。
「おい月愛……これってもしかして」
「ええ、私が事前にお気に入りの私物を運んで頂くようにお願いしていたんですよ」「は、マジで!? いやいやちょっと待て……お前が出かけてたんじゃ元の家の扉が開けられるわけ無いだろ? 一体どうやって」
「んふふっ……実は旅行へ旅立つ前にスペアキーを信頼出来る人間に貸していたんですよ。それで一言LINERでメッセージを飛ばしてあげただけですよ」
「何だよそいつは……お前に執事でもいたか?」
いや居なかったはずだ……まあ月愛なら高校生が1人で生きていくにしては十分過ぎる稼ぎを得ているらしいから、恐らくやろうと思えば何人も雇えるんだろうが……いやもうこの際、こいつが国の上層部と繋がりを持っていても驚かないぞ俺は。
「んふふっ、気になりますか? まあ今のところは考えていませんが、もしかしたら颯流にも合わせることがあるかも知れないので楽しみにしていて下さいね?」
「あ、ああそうだな」
「んふふ……今はそんなことよりもちゃっちゃと家を片付けましょうか。それじゃあお邪魔しますね!」
「はあ、ガキかよ……『──ガチャリ』ってオイなんでお前が俺の家の鍵を持ってるんだよ!?」
月愛が持ってないはずの家の鍵を持っているぞ……今までも俺の方から渡したこともない家の鍵を何故持っている……まさか、
「何故って、ママになった私がパパから家の鍵を譲り受けていても何もおかしくないじゃないですかぁ?」
「やっぱりかよッ!」
「んふふ〜。それじゃあ早速ママらしく、主婦力を久しぶりに全出力で解放してお掃除しちゃいますね〜! 颯流のことだからどうせ掃除を疎かにしてただろうし」
「ぐはっ……何故バレた」
「んふふっ、私が何年颯流とのお付き合いをして来たと思ってるんですか〜。それじゃあ先ずは……颯流の部屋から真っ先に取り掛かっちゃいますね!」
「なっ、待てゴラ」
慌てて靴を脱いで月愛を追いかけるが、1階の玄関を真っ直ぐ進んだ突き当たりにある俺の部屋に入った月愛に俺が追いつくことは不可能だった。
気がついたら床に散らばっていたエロ漫画やら官能小説を見ていた月愛は──、
「……アハっ♪」
「それ以上口を開くな」
赤ちゃんが面白いおもちゃを見つけてキラキラ光らせているような目で月愛が漫画の方を黙って手に取ると、パラパラとページを捲り始めた。クッソ……しかもよりによってあの方が床においてたのかよ……マジで恨むぞ朝方までの俺めっ!!
「……ふふふっ」
「月愛よ、これは誤解だ」
「ふふふふふっ。そうですか〜颯流も年頃の男子だからこういうのに興味津津なのは察してましたけど……まさかこんなことに興味がありましたとはね〜アハハっ!」
「ああ俺だって思春期の男子だからポルノに興味があったのは認める。認める! ……だがっ、それは本気で違うぞ月愛!?」
「んふふっ……さてどうでしょう……どれどれ、タイトルを読み上げてみますね♪」
「辞めろおおおおおッ!!」
だが普段から甘えん坊で小悪魔な彼女が俺の静止なんて聞くはずもなく、ニヤニヤとひたすら意地の悪い笑みを浮かべながら俺の羞恥心を抉り出して来やがった。
「『時間を止める能力に覚醒したマザコン童貞な俺が、親父が出勤中に大好きなど淫乱の母親と近親相姦に明け暮れ始めた日々』の第5巻ですか……アッハハっ」
「……っ、もう黙れよ月愛」
「んふふっ、嫌ですよ〜ん。あ、へえ〜こっちは『父親が再婚して義母ができたんだけど、親父が出張した朝からセックスしては夜は電話させながら挿入して羞恥プレイしてみた』ですか。イヤ〜ん颯流ったらとんでもない熟女好きでエッチですねぇ〜」
「ギャアアア!! もういっそ俺を殺してくれえええッ!?」
何の拷問だって言うんだよ畜生!?
次から次へと俺の性癖を暴露しやがって!
穴があれば今すぐシュレッダーへ飛び込みたい!
サイコロステーキの如く切り刻まれたら塵となって消えて無くなりたい!
今まで月愛には俺のストライクゾーンが年上だと言うことを隠して来たってのに、こんな些細なミスで白日の下に晒されるとは思っていなかったぞ。しばらくはもう月愛を視界に入れることそのものに耐えきれなくなって目を逸らしてしまう。
「んふふ〜顔が今にも噴火しそうで可愛いですよね。ええ……では仰せのままに、颯流のお望み通りに夜になったら生殺しにしてあげますね〜」
「相変わらずご都合主義なその耳の聴覚も腐ってんなお前は、いつ誰がそんなことを言ったよ!? ああもう頼むから俺の部屋から出て行ってくれよっ!」
「あらら、もうママへの反抗期ですか……もはや泣きそうで仕方ないので私はここ以外をお掃除して来ますね〜」
「……くっ」
ついでに完全に俺のことをガキ扱いしてやがるのも気に食わねえ……悔しい。
【──後書き──】
エロ本はちゃんと片付けましょう。
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