第14話 敵対

いよいよ遠征訓練が間近に迫ってきていたが俺は久しぶりにミハイルとの訓練を行なっていた。その後の休憩と雑談をしている時のことだった。


「ミハイルも俺と同じように気が見えるんですよね」

「んーん、見えないよ」

「あれ?前にそう言ってませんでしたか」

「見えるというより、感じる?みたいな?」


ミハイルは珍しく歯切れが悪そうに言った。


「第六感ってあるでしょ」

「直感とか霊感とかありますよね」

「そうそう、僕はそれがプラスで2つくらいあるんだよ。それぞれ『糸』と

『波』って呼んでるんだけど気力を操作しているとその影響が波として知覚できるんだよ」

「『糸』の方は何がわかるんですか」


続く説明を俺なりに解釈したところ、『糸』は心の感知能力で『波』は物理的影響の感知能力だと思われる。

『糸』は心の感知能力と言っても直接人の感情が分かると言った者ではなく物や動作に紐付いた意図が分かるもののようだ。

『波』は水面に落とした石が波紋を作る様子が見えるように気力や人が与える影響がはっきりと観える予知に近いものということだ。


ミハイルは『糸』を使うことで初見の技能のコツを習得し、『波』による限定的な未来予知によって高速なトライアルアンドエラーを行い技能の発動なしに練度を高めることができるらしい。


「つまり、ミハイルは祝福ギフト持ちということですか」

「他の祝福ギフト持ちを見たことがないから分からないけど、多分そうだよ」


祝福ギフトとは後天的に習得する技能とは異なり、生まれ持つ特殊な技能のことである。一部は技能に似たような効果を持つものが存在するがそのほとんどは再現が未だできていない不思議な能力だ。

中には本当に心を読めると言ったものも存在しているらしい。


ただ俺も初めて見たのでこの国では祝福ギフト持ちは稀な存在であることは確かだろう。

正直毎日訓練に明け暮れている身としては彼の能力は喉から手が出るほど羨ましい。ぜひ気術での再現ができないか研究してみたいと思う。


その後もクラスメイトの暴走の話や、新しく友人となったモールのことも話した。


特にミハイルとしては先日の教会での話は少し引っかかる部分もあるらしくいつになく真剣な様子で聞いていた。



――――――――――



今日の訓練は早めに昼前で切り上げた。

遠征訓練の際の持ち物の分担を3人で決めるためである。

目的地は休日も開放されている街の中央付近にあるカフェである。

まだ集合よりも早いが問題はないだろう。


「あれ?」


見ると建物の影でモールが複数人の子供に囲まれて立っていた。

3人のヤンチャそうな男子生徒の後ろにフェリクスの姿があった。教会で見かけた顔ぶれであった。


「おい、お前この前教会のところにいただろ?」

「何こそこそかぎ回ってんのお前」

「教会?し、知らないですぅ」

「ハァァぁあ、うそつくなよお前」

「うそなんて、ついてないですぅ」


先日の俺の行動がモールに迷惑を掛けてしまっていたようだ。

ただでさえ小さいモールがさらに体を縮こまらせて震えていた。

先ほどまでより少し歩幅を広げて彼女の前に出る。


「もうすぐ待ち合わせの時間ですよ。モール、行きましょう」

「なあ、今俺たちその子に用があるんだけど」


男子生徒の手が肩にかかる。


「おまえ誰だよ」

「ドットルート・アデルです。先日、教会でそこのあなたの演説を聞いていたものです。あなた達が用があるのは俺だと思うのですが」


フェリクスへ視線を向けながら自供する。これで少なくともモールが被害を受けることは無いはずだ。


「ハハッ、やはり亜人だったか。盗み聞きなどマナーがなっていないことだな」

「そりゃ亜人排斥のための演説なら盗み聞きするのはその対象の亜人に決まってるでしょう」


彼の挑発を適当に流すと、先ほどまでモールを包囲していた3人組が次のターゲットを俺に変えて、俺の退路を塞ぐ。


「逃すわけないだろ。おまえ」


「別に盗み聞きくらい良いじゃないですか。犯罪の話をしてたわけでもないし。それともやる予定でもあるんですか」


「黙れおまえ」


「それに1人相手に3人がかりで囲んだりして、普人って誇り高い種族なんですね」


「黙れっっ!!」


左側の生徒が殴りかかってきたので、右手で受け流しつつ足を刈り取り右側へと転がす。石畳に体を叩きつけられ呻き声を上げる。

それを見た残りの二人の生徒も襲いかかってきた。


「なにしてんだオメェらあぁあぁぁ!!」


一人が飛びかかるというところで、上から誰かが落ちてきて煙が舞う。


腕で口元を覆いながらしばらく待っているとやがて煙が晴れてきた。


灼熱を連想させるような赤髪茶色の瞳、そして気性を表すかのようなトゲトゲした髪型。額に角のの生えた少年の姿が目の前にあった。


そう、ギドだ。


彼はその怒りを見せつけるかのように赤色の気を迸らせながら静かに言った。


「俺の仲間に手を出すなら、覚悟しておけよ」


「ぐっ」


彼の気迫に圧されたように襲ってきた二人の生徒は少し後退る。

そこで彼らの後ろにいた少年、フェリクスが声を上げる。


「まあ、犯人が分かったならもう用はない。帰るぞ」

「ただで返すわけねえだろ」


そう吐き捨てると、滾らせた気を拳に込めてギドがフェリクスに殴りかかる。

それを見たフェリクスはギドに向かって掌を向け呟いた。


「『シールド』」


半透明で球状の壁がギドの攻撃から彼の身を守った。


「ちっ」


彼の技は以前俺が魔術師と戦った際に使っていた技だ。魔術師以外も使用するが、それを狩人が使うのは、それも実用レベルのものは珍しいので驚いた。


感覚で防がれたことを察したギドは、舌打ちをした後追撃を与えようとする。


しかしフェリクスの手には次の瞬間には魔術式が織られていた。彼は魔術まで使えるのか!


「『ゲイル』」


彼の手元から圧縮されて空気が一気に開放され俺たちは思わず後ろに飛ばされてしまう。


後ろの壁に叩きつけられ、眼前を閃光がチラつく中素早く体勢を整える。

向こうには背を向けてこの場を走り去っていくフェリクスと、先ほど倒した一人を抱えて走る二人の生徒の姿があった。


逃したか。

この場で取り押さえなければ彼らの暴行を証明することは難しくなるが、こちらの怪我もある。無理をしてまで追うのは得策ではない。


「全く。なんだよあいつら」

「どうやらこの前俺が彼らの会合を覗き見していたのがバレてしまったみたいで」

「ルート、おまえそんなことしてたのか」


彼を引っ張り上げて立ち上がらせると、彼は少し不機嫌に俺のことを責めるような態度をとった。俺が一人でこそこそしているのが気に食わないらしい。


「俺たちが省かれている原因が彼らにあるようです」

「ふーん、そうなんか」


興味なさそうだ。


「そういえばモールは」

「あれ?どこだ」


「キュゥ…」


モールは吹き飛ばされた後近くにあった木箱の中で気を失っていたが、幸い大きな怪我は無かった。

慌ててモールを起こし、彼らへの対策を考えることにした。



「その、今日の感じだと遠征のときにも何かしてきそうですよねぇ」

「間違いなく仕掛けてくると思います」

「めんどくせぇな、正面からくれば潰してやるのに」

「いえ、向こうのほうが数が多いですから正面からだとこちらの方が不利です」


今回のイザコザによって萎縮気味のモールに、向こうの嫌がらせに対して辟易している様子のギド。確かに向こうから一方的に仕掛けられている現状はもやもやとしてしまうが、こちらから手を出すわけにもいかない。万が一その様子が見られれば問題となる。


「そこで、遠征の際はモールに手伝ってもらうことにします」

「ふぇ?」


彼らは間違いなくモールを侮っていた。それこそが彼らの隙になる。

向こうが遠征を利用して仕掛けてくるならばちょうど良い。こちらも遠征を利用してカウンターとしてやろう。


精々楽しみにしておけば良い

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