第13話 偵察

「俺はギド、鬼人族のギドだぜ。よろしく」

「そのぅ、土人族のモールです。よろしくお願いしますぅ」


 早速次の日2人の顔合わせを放課後の教室で行った。他のクラスメイト達はどこかに行ってしまったらしく俺たち3人だけしかいない

 モールは昨日の俺との初対面ほどは緊張していなかったがギドの勢いに押され気味なところがある。

 その優柔不断気味なところがギドにとっては少しやりづらそうだ。


「というわけで今回の遠征訓練はこの3人で受けることにします」


 2人が頷いた。この遠征訓練は簡単にいうと、魔物が生息する森林で1週間を過ごすという訓練だ。

 そのため魔物との戦闘が必須となる。そこでその際の動きを決めておくことにした。


「2人は魔物との戦闘の経験はありますか?俺は無いです」

「俺はあるぜ、俺の村で仲間と一緒にゴブリンを倒したぜ」

「私は無いです。多分遠征の時には役に立たないと思いますぅ」

「分かりました。それでは、基本的にギドが前に出て俺とモールが援護する様にしましょう。その代わりモールには拠点の整備を頼みたいです」

「整備、ですか?」

「モールは罠を作れる様なので、適当な洞窟などを見つけてその周辺に罠を張ってもらい拠点の防衛を手伝ってもらいます」

「すげえな、モール。自分で罠作れるのか?」

「はい。まだ簡単なものだけですが、作れますぅ」

「今すぐ作れたりするのか?」

「ちょっと待って貰えるなら、できますぅ」


そう言うと俺とギドを教室から出るように促した。そっと扉に耳を澄ませてみると、モールは教室の扉に何やら細工をしているらしくカチャカチャとした金属同士が擦れる音が耳に入る。

そうして5分程度待っているとモールから合図があった。


「扉開けても中には入らない様にしてくださいぃ」

「それでは、入りますよー」


俺が引き戸の取手に手をかけ一気に開く。

視界外でカチリと音が聞こえた瞬間、目前を何かが横切った。

右を見ると両手に収まる程度の針が教室の壁に突き刺さっていた。


「足元にもワイヤーを引いているので、気をつけて入ってくださいぃ」

「!…気づかなかったです」

「お、おう」


針の罠に加えて単純だが足元のワイヤートラップ。この程度であれば、手持ちの道具だけでも作れるらしい。罠を作れることそのものよりも針をいつも持っていることの方が恐怖である。

しかし、今回の遠征訓練においてはとても頼りになりそうだ。


「ギド、これで文句は無いですよね」

「おう、すまないな、モール。実力を疑っちまって」

「い、いえ」


これで、訓練の際の連携に不安はないだろう。心配なのは、遠征中の食糧や寝床などだが、食糧については保存食が、寝床については寝袋が教官から支給されるらしくそこまで問題はないと思う。


そう、問題は…。



――――――――――



二人の顔合わせを終えた俺は翌日の放課後、街へと繰り出した。

モールが言っていた『集会』とやらを確認するためである。

その集会が亜人排斥運動と関係があるのなら、森人エルフとバレてしまっては騒ぎになってしまうことは容易に想像がつくので、外套を深めにかぶる。


追跡するのはなるべくクラスの中でも身長が大きく見失うことが無さそうな生徒だ。

盗み聞きによって今日『集会』が行われることも、彼がそれに参加することも確認済みであるので彼を追っていけば『集会』の様子を見られるはずだ。


どうやらそのまま『集会』に向かうわけではない様だ。


最初に向かったのは武器屋だ。狩人の街と言われるここでも、全員が狩人というわけではない。これほど規模があれば、もちろん戦士として戦う者もいる。


そのような層に向けて武器屋が存在しているわけだが、狩人学校の生徒の中には戦士に憧れを持つ子もいる。絵物語で描かれる主人公は大抵剣を持つからだ。

ギドだって種族柄、戦士として戦う大人達を多く見ているからか、戦士に憧れている。


兵士として訓練していると言ってもそこは人の子、憧れは簡単に捨てられない者である。


背高の少年は自分の背丈程の大剣をキラキラとした目で眺めたり、美麗な装飾を施された短剣をウットリと見つめていた。

あまりにもずっと武器屋にいるので集会はここでやるのか、それとも今日行われるという話は幻覚だったのか、と思ったところで彼は小腹が空いたのかお腹に手を当てる。そのまま店を出ると表通りへと出た。


このような人混みの中での追跡では、俺や彼のような子供は埋もれて見失ってしまう。そのため止むを得ず近距離での追跡となってしまうのだが彼は全く気付く様子が無かった。

不名誉なあだ名と共に得た歩法の技術がここで活かされているのは少しシャクだがこの際仕方ない。


彼は近くの屋台で掌ほどの柑橘系の果物を買うとそれを手に表通りを離れた。

どうやら目的の場所に向かうようだ。

人通りが少なくなってきたので、距離を離して追跡していると、他のクラスメイトと合流していた。


『今日先生が来る日だろ、すっかり忘れてたぜ』

『えぇ、ボクはキチンと覚えてたよ』

『その割には忘れてた俺と同じくらい遅いじゃんか』

『そ、それは』

『どうせまた武器屋に行ってたんだろ』

『ギクッ』

『毎日行ってるんだからわかるに決まってるだろ』



どうやら彼は戦士に対する憧れではなく単に武器が好きな様だ。

そんなどうでも良い彼の人柄の考察に想いを馳せていると目的の建物に着いたようだ。


「これは…」


二人が入って行った建物は教会だった。

この世界で教会と言えば光神教の教会を指すことが多い。

魔物が暴れている状況で神様も何もないだろうと思うかもしれないが、光神教の

教えを受け入れることで一つ大きな恩恵があるのだ。


その恩恵とは法術である。

法術は教会の信徒しか知ることも扱うこともできないのだ。

この一点によって光神教は他の宗教より抜きん出て信仰されている。


ただ今回の件が光神教と関係があるかどうかはわからない。

と言うのもこの教会、外から見ただけでもわかるほどに廃れているのだ。


しばらく外から入っていく人物を観察していたが、どうやらクラスメイトだけではなく同年代の学校の生徒も参加しているようだ。


人の出入りが無くなったのでおそらく集会が始まったと判断して教会に近づく。

中の広間では高段に一人の男子生徒が立って他の生徒達に演説をしている様子が見えた。

その人物は教室で良く友達と話していた俺のクラスの中心人物のような生徒だった。

名前はフェリクス・アールハイト、碧眼と長い金髪を後ろで一つ結びにしている生徒だった。


「光神はこの世界を作った。その次に自分に最も似た存在である俺たち普人を作った。普人こそが最も完璧たる神に近い存在であることは明らかだ!神話でも偉業をなしていると描かれているのは普人がほとんどだろう。つまり、普人こそこの世界を席巻するにたる存在、決して!、亜人などではない!!」


その語りには多分に亜人と言う種族全体に対する憎悪に満ちていた。

俺はあまり光神教には詳しくはないが亜人を差別するような内容は無かったはずだ。おそらく神の教えを曲解して利用しているのだろう。


演説を聞いている子供達も正直内容を半分も理解しているようには見えない。おそらく彼の話し方や雰囲気に惑わされている部分もあるのだろう。

激しい口調で始まった彼の演説は突然語りかけるように優しい口調に変わって行った。


「俺は普人として、みんなのリーダーとして、普人の生きやすい環境を目指す。みんなも俺に協力してほしい」


「おう!」

「任せて」


彼の言葉に熱に浮かされたようにクラスメイト達は肯定の言葉を口々に発していた。

とりあえずこの『集会』が原因で俺たち亜人と言われる者達の現状があることは確認できた。

学校へと戻るべく後ずさると足が地面に転がっていた石に当たりゴトリと音を立てる。


「誰だ!!」


やばい!

急いで近くの建物の後ろへ走り去る。

教会から出た生徒達が「いたか」「向こうを探せ」などと口にしているのが聞こえたがどうやら俺が聞いていたと言うことはわかっていないらしい。少し安心した。


なるべく声が聞こえる方向から離れるような道を選んで表通りへと向かう。


ここまで来れば見つかっても安心だろうが、念のために途中で彼らに見つからないようにまっすぐ学校へと戻った。

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