水を注ぐ。ただ己の為に
第11話 半年
交流会での騒動から半年ほどが経った。
結局襲撃者の正体については分からなかった。経歴を調べてみても生粋の王国人である、という情報しか得られなかったらしい。その事から、間者の組織は王国の深部まで侵食していることが想像できる。
また交流戦が全て終わったため、マリク達戦士やあの偉そうな魔術師達も自分達の学校へと帰って行った。
マリクは帰り際
「私は年齢的にあと1回は交流戦に出られると思う。今度こそ狩人達に勝ってみせる」
と息巻いていた。よっぽど悔しかったらしい。馬車に乗るまで何回も言っていた。
交流戦の後は薬師の婆に調合を習ったり、ミハイルの指導を受けたりと忙しくしていたらあっという間に過ぎた。
お陰でなんと気力回復薬を自力で調合できる様になった。
勿論素材は別途手に入れる必要があるが、実質タダで使用できるのは大きい。これで訓練が捗る。
しかし、残念ながら成長薬は作る事ができていない。
通常薬の合成は加熱や濾過、蒸留などの様な化学的な操作を使用するが成長薬の合成にはそれらとは異なる種類の操作を加える必要が有るらしい。
具体的には成長薬の原材料に対して気力を流し込む事で素材の気力圧?ついう物を高めると薬師の婆は言っていた。
という事で薬の習得はしばらく足踏みとなる。
そしてミハイルとの訓練だが、無事幾つかの技能を習得する事ができた。
特に苦手としていた虚歩と消歩の2つの歩法は最近まで全く出来ていなかったが、日常の小さな移動や動作にこれらの動きを取り入れることで上達が加速度的に上がる様になった。
だが最初の方は不自然な動きを見せてしまっていた為に、周りからはカクカクとした動きが挙動不審に映ったのか大変名誉なことに『ニワトリ』と呼ばれる様になった。やったね!
問題はもう一つある。
それは最近のギドの日課である朝の筋力トレーニングに付き合っていたときの話だが、
「なあ、ルート」
「?」
「最近、俺たちさあ、クラスの奴らにハブられてないか?」
「それは前からだったと思いますけど」
「確かに前から避けられてはいなかったけどよ、前は会話ぐらいはしてくれてたのにさぁ。昨日なんて話しかけただけで『亜人のくせに』って言われたんだぜ」
「亜人?それは妙ですね」
確かに妙であった。雑多な種族が生きるこの王国で種族による差別は無いとは言えないが結構少ない。それは魔物の領域と接しているためかどんな種族の人間でも必要であるからだ。ましてや亜人とは普人族以外に対する蔑称であり、一応は多数派である普人族でもそれ以外全てを敵に回す様な言葉はあまりこの国では使われることは少ないのである。
「だろ。しかももうそろそろ遠征訓練だろ?だからこのままじゃチームも組めないかもしれないからさぁ、どうするよ?」
ちなみに遠征訓練とはこの街の外縁部に出て用意された魔物などを3〜6人ほどのチームで討伐すると言った訓練だ。問題は人数で、俺とギドだけでは最低限必要となる3人に届かないのだ。
「シャーリィを誘ってみましょう」
元よりそのつもりだったがこれで問題無いだろうと、思っていたが。
「いや。あいつは他の奴らと組むらしいぜ」
「え!そうなんですか」
もしかするとシャーリィもクラスの雰囲気に気づいて俺たちを敬遠しているのかもしれない。彼女自身は種族などどうでも良さそうだが、その場の流れとか空気とかに逆らわないところがあるからなぁ。
それか単に親しい友人と組みたいというのもあるだろう。
そうだとしたら俺たちは彼女とはそれなりに仲の良いつもりだったので少し寂しいな。
心なしかギドも落ち込んでいる様に見える。
周囲から避けられることは大人にとっても大きなストレスとなるし、それは子供なら尚更である。
どうにかしてクラスに蔓延る嫌な雰囲気を払いたい。
ここまで急激に俺たちに対する攻撃性が高まったのは何か訳があるはずだ。
おそらく思想を発信している人間がいる。生徒か教官のどちらか。街の人では無いだろう。そうでなければクラスの人間多数に思想を吹き込むほどの接触はできないだろう。
どちらにせよこちらも徒党を組む必要がある。というか遠征訓練のために仲間を探さないといけない。
そう言えばクラスに
「わかりました。俺にアテがあります」
とりあえず第一目標を彼女の勧誘に定めた。
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